【Deep Insight】(26) “北朝鮮核武装”目をそらすな

経験したことがない危機に直面すると、人は現実から目を逸らし、「大したことにはならない」と思い込みたがる。こうした傾向を、社会心理学では“正常性バイアス(偏り)”と呼ぶ。北朝鮮問題について、私たちは同じ落とし穴にはまってきたのではないだろうか? 「核ミサイルを実戦配備するのは未だ先だろう」――。そう思っているうちに20年余りが過ぎ、北朝鮮の核武装は時間の問題と言われるまでになってしまった。尤も、一見すると、日米韓に加えて頼みとする中国からも圧力を強められ、北朝鮮の外堀は埋まりつつあるようにみえる。「あと3ヵ月間もすれば北朝鮮の航空燃料は枯渇する」。今年3月下旬に訪中したアメリカのレックス・ティラーソン国務長官に、中国が密かにこう伝えたとの情報がある。「約100日間かけて北朝鮮への原油供給を絞る」と暗に約束したという訳だ。真偽は兎も角、符合する動きもある。スーザン・ソーントン国務次官補代行(アジア太平洋担当)は先月26日、北京で記者団に「問題の解決に期限があることを中国側も理解している」と明かした。北朝鮮は、原油の大半を中国からの輸入に頼っている。若し中国が供給を本気で減らすのであれば、一定の効果があるかもしれない。中国の外交専門家は、こうした前提に立ち、北朝鮮が5月に3週連続でミサイルを発射したのは、「ミサイル燃料が尽きる前に、駆け込みで実験し、交渉に備えるつもりなのだろう」と読み解く。しかし、日米両政府内の空気は、そうした楽観論からは程遠い。寧ろ、「北朝鮮は最後まで核を手放さない」という悲観論が、じわりと広がっているように思える。何故か? 中国は北朝鮮の体制崩壊を望まないため、極限まで金正恩(キム・ジョンウン)政権を追い詰める兆しがうかがえないからだ。実際、中国は国連の追加制裁に慎重な姿勢を崩していない。「中国は、中朝国境が不安定になるのを恐れている。北朝鮮への圧力は未だ足りない」。中国の内情を知るアメリカ政府当局者は、こう打ち明ける。アメリカは期限を区切り、北朝鮮の暴走を止めるよう、中国に繰り返し迫っているという。日米に悲観論が漂っているのは、中国のせいばかりが理由ではない。本欄でも以前触れたが、真剣に検討すればするほど、軍事オプションが難しいという現実にぶつかっていることも一因だ。「アメリカが北朝鮮と開戦すれば、韓国内でも数十万人の死者が出る」との試算がある。韓国には、アメリカ兵やその家族も含め、二十数万人のアメリカ人が滞在しているとされ、彼らにも多数の死傷者が出かねない。

北朝鮮政策に携わった元アメリカ政府高官は、「この現実を知る軍人系の側近らが、アメリカ国民を見捨てるような決断をドナルド・トランプ大統領に進言できるとは思えない」と話す。ジェームズ・マティス国防長官は最近、「軍事解決しようとすれば信じられない規模の悲劇になる」と語った。韓国では先月、北朝鮮に融和的な文在寅政権が生まれた。包囲網が緩み、北朝鮮が更に核とミサイルの開発を加速することも考えられる。日米の専門家には、「アメリカ本土に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)を、彼らが2~3年で完成する」との見方がある。そうなれば、「『日韓に核攻撃してもアメリカから核で報復されることはない』と北朝鮮が勝手に信じ込み、更に強硬な行動に出かねない」(日本政府関係者)。そうならないよう、日米韓は中国と結束を強め、北朝鮮を抑え込む努力を尽くす必要がある。だが残念ながら、それでも北朝鮮を止められる保証は無い。その場合、無策のまま最悪の事態を迎え、パニックに陥ることだけは避けなければならない。日米韓は、今から北朝鮮が核ミサイルを配備する悪夢を想定し、北東アジアの平和を保つ具体策を急ぐべきだ。では、何をすればよいのか? 日米の安全保障専門家らが挙げるのが、北朝鮮が手にした核ミサイルを決して使わないよう、これまで以上にアメリカ軍の核戦力をアジアに展開し、警告を強めることだ。「万が一、核ミサイルを発射したら、アメリカから必ず核で報復される」と北朝鮮側に思い知らせる。「核の挑発は、核による脅威で抑え込むしかない」という訳だ。例えば、核兵器を搭載できる『B1』・『B2』・『B52』といった戦略爆撃機によるパトロールや演習を、アメリカ軍が朝鮮半島近辺で更に増やすこと等が選択肢になるという。アメリカ軍内には、「韓国への核の配備を検討すべきだ」との意見もある。尤も、この対策を取れば、嘗ての米ソ冷戦中のように、アジアの緊張は更に高まってしまう。抑々、北朝鮮のような異形の独裁国家に、核抑止力がどこまで有効なのかも見通せない。だからこそ、“核ミサイルを持つ北朝鮮”という最悪のシナリオに備えると共に、ミサイル防衛網の拡充を急ぎ、制裁と圧力による“非核化”を諦めずに追求していかなければならない。バラク・オバマ氏がアメリカ大統領として初めて広島を訪れてから、先月27日で1年が経った。唯一の被爆国として、日本は“核無き世界”の理想を後退させる訳にはいかない。その一方で、北朝鮮の暴走に対抗する為、アメリカによる“核の傘”を強めなければならないのも、北東アジアの悲しい現実だ。理想を掲げながら、必要な対策を淡々と打っていく――。そうした冷徹なリアリズムが、今ほど日本に求められている時はない。 (本社コメンテーター 秋田浩之)


⦿日本経済新聞 2017年6月2日付掲載⦿
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テーマ : 北朝鮮問題
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