【中外時評】 皆で共有する少子化対策を

「全国どこでも保育サービスが利用できる」「孤独な子育てを無くす」「育児期の長時間労働が是正される」――。なるほど、何れも大事なことだ。実はこれ、政府が2004年の少子化対策で掲げた将来展望だ。“概ね10年後”のイメージを具体的に書き込むことで、実現を目指した。それから10年余りの月日が経ったが、現実は追いついていない。“少子高齢化”。セットで語られる現象だが、対策の進み方は対照的だ。介護の必要性は多くの人が共有し、2000年に介護保険ができた。多様な介護サービスが増え、相談できる窓口も地域に多く作られた。だが、子供の減少は目に見え難い。「育児は親の責任である」という意識も強く、対策の必要性を社会で共有できなかった。その結果が“100万人割れ”だ。昨年生まれた赤ちゃんの数は約98万人。日本の人口は前年比で33万も減少した。50年後の日本の人口は、2015年より3割少ない8808万人にまで減る。今年4月、そんな厳しい将来推計も出た。子供を持つかどうかは勿論、個人の選択だ。しかし、「持ちたい」と願っても、希望を阻む壁は高い。子育てを取り巻く環境は大きく変わり、若い世代だけでは解決が難しい。課題を1つずつクリアし、社会全体で子育ての基盤を整える必要がある。最優先で取り組むべきは、待機児童を解消し、仕事と子育てを両立し易くすることだ。安心して預けられる場所が増えれば、2人目・3人目を持つハードルも低くなる。経済的な理由で結婚・出産に踏み切れない人も多い。共働きがし易いとわかれば後押しになる。女性の力が生きると共に、子供を産み育て易くなる。待機児童対策には、こうした二重の効果がある。政府は待機児童ゼロの目標を、当初の2017年度末から2020年度末に先送りした。今度こそ期待に応えなければならない。

次いで大事なのは、支援を必要な人に届けることだ。出産や育児に困難を抱えている人ほど、地域で孤立していることが少なくない。身近に手伝ってくれる人がいない。育児に疲れ、一時的に預けたり相談したりできる場が欲しい――。そんな悩みに寄り添い、必要なサービスに繋げる支援をもっと増やす必要がある。このことは、子供の健やかな成長にも繋がる。最大の課題が財源確保だ。これまでの少子化対策が十分に進まなかった要因も、ここにある。少子化が社会に与える影響は大きい。労働力不足が深刻になり、経済は活力を失う。社会保障制度の安定的な運営が難しくなる。何より、産み育てたいと願う気持ちが叶わない社会は、明るい社会とは言えない。逆に言えば、少子化対策には、これらのリスクを回避するメリットがある。“未来への投資”といわれる所以だ。小出しでは十分な効果が見込めない。本気で取り組むなら、財源を増やし、集中的に投下する必要がある。日本の社会保障は高齢者向けに偏ってきた。この配分を見直す為にも、将来世代の負担が過重にならないようにする為にも、給付の効率化や、豊かな高齢者には一定の負担を求める工夫がいる。新たな財源論も出てきた。小泉進次郎氏らが提唱した『こども保険』は、社会保険料に上乗せし、幼児教育・保育の無償化等に充てる構想だ。政府の骨太の方針でも、新たな社会保険が財源の候補の1つに盛り込まれた。実際に財源をどうするか、具体的な検討はこれからだ。取り易いところから取るのではなく、高齢者を含め、皆で負担を分かち合うことが必要だ。経済的支援かサービスの拡充かなど、使い道も十分に議論する必要がある。安倍晋三首相は“希望出生率1.8”を掲げたが、現実との差は大きい。「何故この対策が必要なのか?」「どんな効果が見込まれるのか?」。将来の社会の姿を含め、皆で共有できる説得力あるビジョンを示せなければ、道程は更に遠退く。 (論説委員 辻本浩子)


⦿日本経済新聞 2017年6月29日付掲載⦿
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テーマ : 教育問題
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