【労基署ショックが日本を襲う】第2部(02) 『電通』の次は? 労基署精鋭部隊のターゲット

『労働基準監督署』のエースばかりを集めた通称“かとく”。大手企業の本社をターゲットに攻勢をかけるかとくの快進撃に、企業の人事部は戦々恐々としている。

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千代田区九段第3合同庁舎の13階。ここに、東京労働局の精鋭部隊で編成される通称“東京かとく”が詰めている。かとくとは、“過重労働撲滅特別対策班”のこと。悪質な長時間労働を取り締まる専任組織として、丁度2年前にできた。厚生労働省にある“本省かとく”が指令塔で、東京労働局(東京かとく)と大阪労働局(大阪かとく)が手足となる実動部隊だ。労働問題には色々あるが、特に長時間労働問題は、企業経営者の意識の変革なくして解決はない。これまで、労基署は事業場単位で、1件1件虱潰しに取り締まってきた。だが、かとくのターゲットは大企業の本社。企業単位で効率的に取り締まることができるようになった。東京かとくは、女性社員の過労死を発端に始まった大手広告代理店『電通』への強制捜査で、一躍脚光を浴びることになった。実際の捜査を主導したのが、ベテランの高橋和彦特別司法監督官(労働基準監督官)である。今、日本で一番有名な監督官と言ってもいいかもしれない。昨年11月、電通本社に“ガサ入れ”した時に、捜査チームの先陣を切って闊歩した。その映像が日本中に報道されたからだろう。「人事関係者に面が割れてしまった。私が抜き打ちで企業を訪れただけで、『次はウチの会社がかとくに狙われているのか?』と余計な心配をされてしまう」(高橋監督官)という。それぐらい、監督官の権限は極めて強い。ガサ入れもできれば、被疑者の逮捕・送検もできる司法警察官でもあるからだ。だが、そうした見た目の華やかさとは打って変わって、監督官の仕事は地味そのものだ。かとくの業務とて例外ではない。例えば、電通の捜査では、朝から晩まで捜査部屋にこもって、ひたすら電通の本社社員6000人の勤怠管理データを1件1件入力し、違反がないかどうか丁寧に確認作業を行った。電通の就業規則は、部局毎に細かく規定されており、膨大な作業量になる。ガサ入れ時には、東京中の労働局から監督官をかき集めて40人まで増員したが、実際の地道な作業に関わったのはほんの数人だった。

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地道な作業の甲斐あって、4月25日、法人としての電通と支社幹部ら3人が、労働基準法違反の疑いで書類送検された。そして、電通捜査が一段落したことで、世間の関心は、かとく部隊が狙う“電通の次”に移っている。実は現在、東京かとくが照準を定めているのは、大手旅行会社の『HIS』(東京都新宿区)である。その事実について、「捜査をしているかどうかも含めて答えられない」(東京労働局)としているが、社員2人に対して月100時間を超える時間外労働をさせた労基法違反の疑いで書類送検する方針を固めているようだ。ある厚労省関係者によれば、「電通事件のように、世論を気にして、何としても挙げなければいけないケースとは違う。有体に言えば、『おわかりですよね?』という事案」である。監督官による再三の勧告にも拘わらず、HISでは同様のことが繰り返されたようだ。3月末に格安旅行会社の『てるみくらぶ』が破綻に追い込まれたように、旅行業界では薄利多売のビジネスモデルに限界が見えている。事業場単位から企業単位へ。大企業本社めがけて一点突破で監督する体制は効果的で、既に6社の書類送検に踏み切っている。今後、厚労省は監督体制の効率化を更に加速させる。昨年4月、労働局47局に“かとく監理官”を設置したのもその為だ。各労働局にいるかとく監理官がハブとなり、縦の連携(※労基署から情報を吸い上げる)や横の連携(※県境を越えて別の労働局と情報を共有する)を深めることで、全国展開する大企業の“組織的犯行”の芽を探そうとしているのだ。任官25年目の吉村賢一監督官は、滋賀労働局のかとく監理官に任命された。「労基法32条の長時間労働の送検事案を多く手掛けており、経験値があった」(吉村監督官)ことが選ばれた理由のようだ。元々、滋賀県は製造業の工場が多く集積しており、規模の小さな局の割には複雑な労働問題を扱う局として知られる。2007年に発生した居酒屋チェーンの過労死事件の記憶が、県全域の監督官の脳裏に焼き付いていることもあり、「磁賀県は、監督官其々が過重労働問題にアンテナを立てている地域」(同)なのだという。かとくによる指導・捜査の広域展開は、一層きめ細やかになるだろう。


キャプチャ  2017年5月27日号掲載
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