【Deep Insight】(28) アジアを舞うハゲタカ

中国経済への悲観論を競うかのようだった。最近、香港で開いた金融関係者の討論会である。アジア各地から集まった参加者の話題は、中国が“失われた20年”に陥った1990年代の日本の道を辿るかどうかに集まった。カギは先ず、中国企業の債務にある。規模は昨年9月で国内総生産(GDP)の166%。2008年には同100%を下回っており、GDPを超えるペースで膨らみ続けた。しかも、鉄鋼・化学・石炭等、過剰設備を抱えて収益性の悪化に苦しむ“ゾンビ業界”が多くの債務を背負っている。中国経済に2桁の伸びを続けていた嘗ての成長力は無い。そんな環境で、逆風下の企業が負債を返せるのか。会場ではこんな意見が噴出した。中国の“日本化”を示すのは、過大な企業債務だけではない。都市部の不動産価格は急騰を重ねてきた。人口減少もちらついている。「債務・不動産・人口…どれをとっても1980年代末の日本ではないか」――。一言で纏めると、会合の雰囲気はこんな調子だ。参加したのは、金融関係者の中でも企業の倒産を商売にする“ハゲタカ”たちだった。銀行の不良債権を買い取って債権者の立場で企業再生に関与して高く売却する投資家、財務リストラを立案する銀行家、債権者の意見を調整する法律家…。目先の中国景気は堅調だが、倒産を飯の種としているのだから、“希望的な悲観”に傾くのも仕方がない面がある。それでも筆者は、このやり取りを軽く受け止められなかった。企業の信用悪化に焦点を当てる同種の議論が、アジアの各地で起きているからだ。今年3月、インドのニューデリーで開いた経済関係者の討論会では、同国企業の過剰債務と銀行の不良債権を指す“双子のバランスシート問題”が話題になった。先ず過剰債務。『国際通貨基金(IMF)』によると、企業が支払利息の何倍稼いでいるか、つまり利払い能力の目安であるインタレストカバレッジレシオが昨年3.7倍と、新興国の最低水準だった。2014年までの金融引き締めが響き、利払い負担が膨らんだ。不良債権はそれを銀行側から見た問題だ。『世界銀行』によると、2013年に4%だった不良債権比率は、昨年の7.6%へと急上昇した。来月には、シンガポールで投資ファンドの国際的な集まりが計画されている。「不良債権・高利回り債・破綻企業の債券は、どこまで魅力的なのか?」とは、案内の口上だ。同国は今年、アジア企業の倒産手続きの拠点を目指して、破産関連の法律も改正している。

「ハゲタカが色めき立つような各地の議論は、偶然始まったのではない」と筆者は考えている。「アジア危機が再来するのでは?」。こんな懸念が金融関係者の頭のどこかにある。奇しくも来月は、タイの通貨・バーツの大量売りに始まった危機から20年の節目を迎える。多くの人が気を揉んでいるのは、アメリカの利上げが危機を誘発した歴史だ。1994年のメキシコ危機、1997年のアジア危機、2000年のアメリカのハイテク株バブル崩壊…。何れも利上げの最中か後で起きた。金融引き締めは投資家から寛容さを奪う。そして、アメリカの『連邦公開市場委員会(FOMC)』は来週、2015年にゼロ金利政策を終えて以来、4度目の利上げの是非を議論する。「今回は違う」と危機を否定する人も多かろう。アジアは危機を教訓に自衛策を進めた。『東南アジア諸国連合(ASEAN)』の10ヵ国は、昨年までの20年で外貨準備を4倍以上に増やし、対外支払い能力を高めた。だが、悪い“今回は違う”もある。中国だ。アジア危機の際は経済規模も小さく、各国との関わりも浅かったが、構図は一変した。アメリカの『シティグループ』は先月、中国経済が失速した場合の世界への衝撃を数値化した。台湾・シンガポール・フィリピンと、上位をアジアが占めている。アメリカの利上げが中国経済に変調を齎し、米中の両方から衝撃が押し寄せた時にアジアは耐えられるか? 心配なのは、外国からの衝撃が反グローバル化の機運に拍車をかけかねないからでもある。抑々アジア危機は、今に至る反グローバル化の原点だった。1997年7月にタイで点火した危機は、秋にかけ東南アジア・香港・韓国に延焼し、輸出の3割をアジアに依存していたアメリカの株価も暴落、取引は一時止まった。露呈したのはグローバル化の暗部だ。経済危機が第2次世界大戦を招いた反省で生まれたグローバル化の担い手・IMFへの反発も増した。支援と引き換えに緊縮財政等の厳しい要求をし、国によっては社会不安が加速した。韓国の人々は今も、当時の逆境を“IMF危機”等と呼ぶ。だからこそ、今のうちに確認したいことがある。「反グローバル化は解ではない」と。当の韓国も、危機後はハゲタカ投資家として鳴らしていたウィルバー・ロス氏(※現在はアメリカの商務長官)を迎え、破綻企業の再生を委ねた。変動相場制への移行を進め、ウォン安を追い風に輸出も伸ばした。寧ろ、国を開いて外国からの長期マネーを引きつけることこそが、衝撃への防御となる。設備やインフラへの投資然り、中印のような企業の負債依存を減らす出資然りだ。その為には、国も企業も、成長への展望を描いて対外的に示す必要がある。時間の余裕があるとは思えない。カネの臭いを嗅ぎ取ったハゲタカは、もうアジアを舞っている。 (本社コメンテーター 梶原誠)


⦿日本経済新聞 2017年6月9日付掲載⦿
スポンサーサイト

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接
QR码
QR