【ビジネスとしての自衛隊】(07) 「戦争と国連PKOのリアルを語ろう」――伊勢﨑賢治(東京外国語大学教授)×伊藤祐靖(元海自2佐)

元特殊部隊員の伊藤祐靖氏と、武装解除の専門家である伊勢﨑賢治氏が、自衛隊・戦争・『国連平和維持活動(PKO)』を巡って白熱の対話を行った。 (聞き手・構成/フリーライター 仲宇佐ゆり)

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伊勢﨑「先ず、南スーダンの日報問題から論じましょう。ある筈の日報が無いとされ、『よく探してみたらありました』というお粗末な件です。どんな国であれ、軍事組織は必ず過失を犯します。日本のような平和な国に駐留していてもアメリカ軍は過失を犯すのだから、それが戦場で起きない訳がない。交戦時における軍事組織の過失は、戦争犯罪に該当するかどうかを国際法で裁きます。ところが、日本は過失を犯す前提無しに、海外に自衛隊という軍事組織を送っている。その滅茶苦茶さがわかっていない。だから、日報を隠すようなことさえ起こる訳です」
伊藤「活動報告は保存期間が決まっている筈です」
伊勢﨑「隠蔽や改竄はあっても、“破棄”という概念はない筈。何故なら、後で国際問題になった時、当時の状況ではその発砲や軍事行動が如何に止むを得ないことだったかを証明しないといけない。その重要な証拠が日報ですから。軍事的過失を犯すという前提が無いから、“破棄”という言葉が使えるんですよ」
伊藤「船では、走り書きのメモも3ヵ月は保存します。航海日誌は30年保存です。破棄は我々の習慣には無い。言い出したのは防衛省のシビリアン(※背広組)じゃないんですかね」
伊勢﨑「私もそう思う。軍人でこれをやったら本当のバカタレです」
伊藤「何故、シビリアンの言うことを制服組が受け入れてしまうのか? これは、幹部(※将校)が防衛大学校に入った時点で問題があるんですよ」
伊勢﨑「どういうことですか?」
伊藤「私は一時期、防大の教官をしていましたが、一芸を持っている学生が少ないんです。勉強でも運動でもそこそこなんですが、1番ではないんです。一方で、防衛省のキャリア官僚は東大出が多いから、一芸といえば一芸ですよね。だから腰が引けている感はありますね。中には背広組に意見できる人もいますけど」

伊勢﨑「PKOは内閣府の国際平和協力本部が司令塔です。本部長は外務省キャリアで、ナンバー2は防衛省の背広組です。最近、南スーダンへの派遣を巡って彼らと議論する機会がありましたが、やはり背広組とぶつかりましたね。『南スーダン軍は正規軍だから真面である』と言うんですよ。実態を知らないんです。南スーダンは建国から僅か6年。そんなので真面な軍隊が育つ訳がない。実態はスーダン内戦から成り上がった軍閥ですからね」
伊藤「そうですね。日本には、軍隊という組織を誤解している人が非常に多い気がします。抑々、軍隊というのは下のほうのヤツの集まりなんですよ」
伊勢﨑「それは言い過ぎでは(笑)」
伊藤「日本人の中には、戦前の日本軍のように規律を守り、プライドを持っている軍隊のイメージがある。でも、私の見てきた外国の軍隊はそんなものではありません。一般の兵隊は苦役をする作業員のようなもので、憧れの職業でもない。それに対して、日本の自衛隊はかなり優秀です」
伊勢﨑「品行方正ですしね。防大卒で自衛隊に入って、数年で離れる人がいますよね。例えば、フランスの外人部隊に入ってアフリカを転々として、日本に帰ってきてJICA(国際協力機構)の専門家等になる。もう1つ、人数は少ないけれど、新たな潮流になりつつあるのが、シビリアンとして国連を目指す人です。選考の面接をしましたが、大変優秀です。真面目で志もある」
伊藤「確かに、防大出身者は組織には向いています。組織にとってありがたいのは丸い人間です。防大には素養からして丸い人が多いし、丸くなるように育てている。体が丈夫で頭が良くて、人間関係が良好で気配りもできる。何か突出した資質を持っている“一芸君”には、そういうバランス感覚はありません。丸い人が沢山いて、一芸君がポツンポツンといる組織が強いんです。防大出身者の99%が丸い人間ですけれど、感覚的に言えば6割が丸くて、あとの4割が突出した人間だと、軍としてはいい組織になる。丸い人は軍隊の最前線の指揮官には向かないけれど、組織としては扱い易いんです」
伊勢﨑「統合幕僚学校で1佐クラスに対テロ論等を教えていますが、彼らはいい目をしています。授業で『軍事的過失を国家の責として審理する法体系の無い国の兵士は、引き金を引けない。どんなに高価な武器を持っていっても、只のハリボテだ』と挑発的なことを言ったら、黙って頷く。『言い難いことをよく言ってくれた』ということだと思います。そういうところはわかっている」
伊藤「防大教官の時に生活指導をしていましたが、『優等生過ぎて毒気が無い』と思いました。軍人という職を選んでいながら、『お前は本気で引き金を引けるのか?』『お前の仕事は死ぬことと殺すことなんだぞ』と言いたくなるようなのが結構いましたね。彼らの頭には戦闘の現場よりも、災害派遣や幕僚としてのデスクワークがある。入校時には“国に身を挺する”という気概があっても、防大にいるといつも周りを気にして、次第に指導官や先輩に怒られないことが第一になってしまう」

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伊勢﨑「南スーダンのPKOでは、自衛隊に“駆け付け警護”の任務が付与されました。離れた場所で襲われた国連職員やNGO(非政府組織)職員を助けに行く任務で、その為の武器使用が可能になりました。しかし、本当にやる羽目になったら、どう責任を取るつもりだったのか? 政府は無責任過ぎる。昨年7月に起きた衝突では、南スーダン軍とガチンコの戦闘になった可能性もある。自衛隊が紛争の当事者になることは憲法上許されていないのに、どうするのか? そこまで想定していたのか? 防衛省の幹部と話していても、彼らはピンとこないんです。『紛争当事者にならずに戦場に行ける』と思っている国民の軍隊だからです。PKOでもそうですが、戦闘で困るのは戦闘員と民間人の区別がつかないときです」
伊藤「一般人を装った便衣兵が、おばちゃんの後ろから撃ってきて、こちらが応戦すると『日本人に一般人が殺された!』と騒ぐ訳です」
伊勢﨑「国連はPKOでそういうシミュレーションをやっています。でも、自衛隊は憲法第9条があるからできない。安保法制的にはやっていいことになっていますが、それを前提として審理する法体系が無い。そこが問題なんです。国際法で糾弾できる戦争犯罪になるよう、相手は罠を仕掛けるように攻撃してくる」
伊藤「自衛隊の実務レベルでも、その対応はやっていないと思います。ただ、私は個人レベルの自己防衛として、『お前が人道的に考えて正しいと思ったら撃て。それが挑発になるからとビビるんじゃない』と言っていました。組織としていいことではないんですが」
伊勢﨑「伊藤さんは勇気があるからそう言えるけれども、他の指揮官は言えないから撃てない。責任を取るつもりで部下に命令・指導しても、何か起こった時に指揮官が責任を取る法体系じゃないでしょう?」
伊藤「そう、部下個人の責任になってしまう。だから、『お前の判断でやれ、俺は一切責任を持ってやれないよ』と言っていました」

伊勢﨑「凄いことですね。あり得ないでしょう。それでも日本の自衛官は行っちゃうんだから」
伊藤「兵隊は行くんですよ。『こういう必要があるから、お前は殺人罪に問われるけれど、やれ』と言われて、納得したら行くのが兵隊の世界です。私の部隊では、日本人を救出する時、『正当防衛の範疇で発砲しろ』と言っていました。『自分がアイツを殺さない限り、この人を救うことはできないと判断したから射殺した』との一点押しです。『上官の命令ではなく、自分の判断で殺した』と言える人以外は現場には出せないと話していました」
伊勢﨑「すべての指揮官が伊藤さんのように勇敢且つ冷静沈着とは限らない。右翼的な政治家が『やれやれ』と言っている中で、法的な準備も何も無いまま、煽られてやっちゃう人も出てくるでしょう。自衛隊には軍事組織としての法理(※法の正統性)が無いのに」
伊藤「そうなんですよ。憲法第9条との歪みが必ずどこかに出るし、誰かに皺寄せが行く。自衛隊は土台からおかしいんだから、1回崩して立て直さないといけない。これまでも攻撃されていないし、撃っていないという状態を続けられたのは、運も大きかった。一旦チャラにするくらいの覚悟で作り直さないと、無駄な血が流れると思います」
伊勢﨑「しかし、政治はそういう風に動いていなくて、次はどこにPKO派遣をするか、しかもトラブルが少なそうな場所を探すような話になっている。本当に懲りていない」
伊藤「私が経験した能登半島沖不審船事件(1999年)は抑々、無茶苦茶な話でした。日本人を拉致している最中かもしれない北朝鮮の不審船を、海自の護衛艦が日本海で追跡し、立ち入り検査する直前まで行った事案です。北朝鮮の工作船には高度な訓練を受けた軍人が乗っていて、船には自爆装置が付いている。立ち入り検査は、生きて帰る望みが無い任務でした」
伊勢﨑「初めて“海上警備行動”が発令された事件ですね」
伊藤「そうです。先ず驚いたのは、警察権・逮捕権を持っていて立ち入り検査をする筈の海上保安庁が、船の燃料切れを理由に帰ってしまったことです。それで海上警備行動が発令され、我々が警告射撃をしながら追跡して、停止した工作船の立ち入り検査をすることになりました。絶対に完遂できない任務に『行け』という命令が出た訳です。私も組織の一番末端で、立ち入り検査隊に『行け』と命じた一味です。私が今も恥じているのは、『行かせる理由を彼らに説明するから教えてくれ』と上官に言わなかったことです。行かせること自体は構わないんです。彼らはその係だし、それを覚悟して自衛隊に入っている。でも、生きて帰れない任務に当たる理由を、政治家も海上幕僚長も、誰も説明しようとしなかった。それでも隊員たちが『はい、わかりました』と行こうとしたのには驚きました」

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伊勢﨑「結局、不審船は高速で北朝鮮の領海に逃げ去り、立ち入り検査は行われなかった。これは警察権の行使に軍事力を使った、それも殆ど先制攻撃という国際法違反すれすれの防衛出動です。政府は『防衛出動をしたことがない』と言っているけれど、している訳ですね」
伊藤「最近、企業の研修等で組織論やリーダー論について話す機会が増えています。軍隊の組織はピラミッド型が常識です。でも、私が作った特殊部隊は横並びの組織。隊長以外は皆仲間なんですよ。組織上、私は先任小隊長でしたが、『俺の命令に納得がいかなかったら断れ』と言っていました。日本は教育水準が高く、ボトムの人間のレベルが高いので、上から下へというピラミッド型の命令系統にする必要がない。全員が作業員であり、全員が頭脳を使うという組織が可能な数少ない国民だと思います」
伊勢﨑「フラットな組織というのは面白いですね」
伊藤「揉めた時、『時間的な余裕が無かったら俺の言うことを聞け』と決めておけば、命令と服従ではなく、気配りと気遣いぐらいで十分に回る強い組織ができます。日本は明治になって、慌てて他国の軍隊を真似たんでしょうけれど、もっと日本の国民性に合う組織があるのではないか? それは、あの特殊部隊と似た組織ではないかという気がするんです」
伊勢﨑「ピラミッドの底辺には、接近戦をやるような大勢の歩兵がいる訳だけれど、現代の戦争ではそんなに必要ないでしょう? だったら、フラットな特殊部隊を幾つも作ればいいですね。昔から軍隊は典型的なピラミッド型の組織で、アメリカの古典的な経営論もそれを基に成り立っている部分があるんです。でも、伊藤さんが仰る通り、日本の文化に合った、日本なりの軍隊の在り方を根底から考えたほうがいい。そこで必要となるのは、軍隊の法的な位置付けです。今は、交戦できないハリボテを如何に大きく見せるかしかできないから、アメリカから高い武器を買い続けている。ピラミッドを崩して、法的に交戦できる軍隊にすれば、そんな高い買い物をする必要はないかもしれない」
伊藤「ないですよ。9条を変えるのか自衛隊を変えるのかわからないけれど、一旦壊して、スジの通った組織を作らないといけない。日本の国民性に合った組織を作ってみて上手くいったら、日本の組織のモデルケースにもなるかもしれません」


キャプチャ  2017年5月13日号掲載




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