【風俗嬢のリアル】(06) シズカの場合――長野は1週間で5人のリピーター

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群馬を出たシズカは、一旦実家を経由した後、長距離バスに乗って長野へ移動し、ある人妻デリへルで働いていた。駅の周辺は観光地としても賑わい、ホテルや蕎麦屋、地酒や郷土料理を扱う店等が所狭しと並んでいる。サラリーマンや外国人観光客等、様々な人が行き交う繁華街の後ろには、でかでかと山が聳え、穏やかな空気が流れていた。今回、シズカが泊まっているのは、風俗店とは全く関係ないゲストハウスのドミトリーである。1泊2000円台で泊まれるこのドミトリーは、トイレ・シャワー・洗面所全て共同で、利用客の殆どは低予算で旅をしているバックパッカーたちだ。私も同じ場所に宿泊したのだが、チェックイン時に丁度バックパッカーが出発するところだった。女性用ドミトリーは、10畳ほどの薄暗い部屋に2段べッドが壁に沿って並び、其々がカーテンで仕切られている。他人の匂いが染み付いた煎餅布団と、ペラペラの枕が置いてあり、受付で貰ったシーツを自分でかけて使う仕組みだ。枕元には裸電球が1つ、カーテンを閉めれば押入れの中にいるような窮屈さである。べッドに荷物を置くスペースは無く、部屋の隅っこにシズカの大きなキャリーバッグが無防備に置いてあった。夕方になると、仕事を終えたシズカが、胸元の開いたワンピースにストッキング姿で戻ってきた。ご飯を食べたのか聞くと、「今日は、長野に来て初めてAF(アナルファック)のお客さんで、その人が竹輪とチーズを持ってきてくれて、一緒に食べたんですよ。だから、未だお腹は空いてない」。シズカはそう答えて、せっせと私服に着替えるのだった。他の宿泊客は未だいなかったが、バックパッカーに紛れて1人デリヘル嬢が泊まっているのは、何とも異様な光景である。

シズカの働くデリへルの事務所兼待機室は、駅から少し離れた飲み屋街の中心にあった。看板も表札も無い寂れた建物の一室だ。通りにはスナックの看板が色とりどりに犇き、その合間に休憩3000円の古びたラブホテルが窮屈そうに点在している。夜になると明かりが点いて活気も出るが、昼間は地元の老人がポツポツと歩いているだけで、街は静まり返っていた。シズカは毎朝10時に出動すると、18時まで働く。客の支払う金額は、70分で1万5000円程。長野に来てから10日間、休みなく働いているという。店のホームページを開くと、ミニスカートを穿いた色っぽい女性たちに混ざって、胸元を開けたシズカの写真が掲載されていた。顔にモザイクを施した女性たちは皆、若々しく見えたが、実年齢30歳のシズカだけが20代に設定されており、他の女性たちは30代ばかりであった。「働いている子たちは、近所のお母さんみたいな人が多いですね。仕事の時だけミニスカートに着替えるけど、大体皆私服で来るので、本当にもう普通の主婦って感じの格好。多分、子持ちの方が多いのかな? お酒落していれば自分の為にお金を使っているってわかるけど、皆地味だから」。主婦たちは夕方になると帰る為、デリへルの営業は昼がメインだ。待機室にはテーブルとクッションが置いてあり、女の子たちは出勤すると空いている席に座り、客が入るのを待つ。4月半ばに入ると気候もだいぶ暖かくなっていたが、少し前までは炬燵とストーブが点いていたらしい。「居心地はめっちゃいいですよ。女の子も優しいし、店の雰囲気が上質。待機中はスマホでインターネット見たり、漫画読んだりしていますね。新聞読んでいる人もいますし」。客の年齢層は40~50歳。長野で働くサラリーマンが殆どだという。「長野の人は普通ですね。いい意味で特徴が無い。変わった職業の人もいないし、パンストフェチが1人いたくらい。長野県民は優しいですよ。純粋、純朴」。長野の街は確かに穏やかだった。駅前を歩く女子高生たちはスカート丈が長く、誰も制服を着崩したりしていない。OLは黒髪率が高く、茶色やグレー等大人しい服装だ。サラリーマンはせかせかすることなく、街を緩やかに歩いている。観光地では車が来なくても、信号無視したりせず、私が渡っても誰も釣られないことには驚いた。人々が朗らかで、街全体がのんびりしているのだ。「長野は開かれている感じかな。他県で『県外から来た』っていうと、ちょっとやっぱり隔たりを感じるけど、長野に関しては無いですね。裏表が無くて、余所者にも優しい。長野生まれ長野育ちでも『大学は東京に出ていた』って人が多いから、関東の話で盛り上がったりするんです」。

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東京から長野は、距離が近いというのもあるのだろう。それでもシズカが余所者であることは、何となく察するようだ。「私は服を脱がせてあげたり、シャワーから出たらタオルで拭いてあげるんですけど、先ずそこで驚かれますね。それは関東のプレイで、地方には無いみたい。『お母さん以来だ』とか『介護されているみたい』とか感動されることもあれば、『自分でやるよ』って断られることもありますね」。地方では働いている女性もアルバイト感覚の為、カジュアルな接客が多いのだという。関東風の接客をするシズカは、入店して1週間で既に5人のリピーターが付いていた。「休みの日にいらっしゃる方も多くて、スーツで来るから『今日もお仕事ですか?』って聞くと、『いや、本当は休みなんだけど、女房には仕事に行くって出てきたから』って。カモフラージュで仕事服を着て来る人は多いですね。そういうのが長野では顕著に見られるかな」。長野の特徴を聞くとシズカはそう答え、「他には何も無い」と言った。最早、特徴が無いことが特徴なのか。夜になり、ゲストハウスに戻ると、リビングで数人の宿泊客が寛いでいた。和室の畳にちゃぶ台と座布団、本棚には英語で書かれたガイドブックや漫画が並んでいる。部屋の隅にはフォークギターがあったが、それを爪弾く人はおらず、クラシック音楽が静かに流れていた。宿泊客の半分は外国人観光客で、リビングの入り口では、子連れの外国人ファミリーがスタッフに何やら質問している。手前では、日本人女性1人と外国人男性1人が其々、離れた場所で黙々と携帯電話を弄っていた。奥に座っている女子大生2人組は、翌日の旅のルートについて熱心に話し合いをしていたが、そこへ金髪のフランス人男性がふらりとやって来ると、自然と会話を始めた。「どうして日本を選んだんですか?」「日本の文化が好きだからだよ」。国際交流ができるのも、ゲストハウスの良さなのだろう。

シズカは毎朝リビングに来て、コーンフレークの朝食を取り、夜はスーパーマーケットで値引きされた刺身等を言って食べていたが、他の宿泊客とは殆ど喋っていないという。「昨日は外人さんたちがリビングに集まってウェーイって盛り上がっていたけど、流石にその空間には入っていけないんで、外の喫煙所でゼリーを食べました」。世界一周をしてきたシズカは、英語も得意なのだろうと思っていたが、逆に喋れないことを実感して英語が大嫌いになったという。「リビングで外国人に話しかけられると、ご飯の途中でも直ぐに逃げる」とシズカは言った。ゲストハウスのスタッフは全員ボランティアで、宿泊代と食事がタダになる代わりにお手伝いをしているらしい。ある日、シズカがスタッフとの雑談で「私は人とコミュニケーションを取りたくないですね」と話すと、「そんな人が世の中にいるんですね! そんな人、初めて会いました!」と大層驚かれたという。それでもシズカは、顔馴染みになった日本人のスタッフとは少し喋っているようだった。「話を聞くと、『山を買って自給自足の生活をしたい』とか『有機野菜を育てたい』って人が多くて、皆高学歴なんですよ。英語ペラペラだし、『東京が世界の全てだと思っていました』って言っていた。東京から来て、山の中にいい土地が見つかるまでの間、ここにいるみたい。自然に帰る系の人たちですね」。長野は移住者の受け入れがオープンな為、そうした人が集まり易いという。その日の女性用ドミトリーには、私とシズカの他に、20代・30代の1人客が其々泊まっていた。2人とも日本人バックパッカーで、大きなリュックを部屋の端に置いている。23時にもなれば、皆が慌しくシャワーや歯磨きを始め、一斉に洗面所が混み始める。シャワーから上がってきたシズカは、アジアンテイストのサルエルパンツに緩いTシャツの寝巻き姿で、誰よりもこなれたバックパッカーに見えるのには驚いた。「このサルエルパンツは、インドのニューデリーで奪ってきたヤツ。『試着室が無い』って言うから、男性店員の前で脱いだら触ってきたんで、セクハラ代として奪ってきました。触られた時点で『これはいける』って思いましたね」。調達方法までこなれているのであった。シズカは、黒髪で爪も短く切り揃えている。まさか、デリへル勤めの為に宿泊しているとは、誰も思わないだろう。

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ゲストハウスは、1泊だけの利用客が殆どだ。翌朝には、大きなリュックを背負って、早々にチェックアウトしてしまう。部屋の隅にキャリーバッグを置いて長期滞在しているシズカは、それだけでも充分に異質だった。その上、シズカは毎朝、胸元の開いたワンピースにハイヒールを履いて玄関を出て行くのだ。「受付の前を通る時だけコートを羽織ってるから、ばれてないですよ」。そう言うが、朝はデリへルの送迎車がゲストハウスの入り口に横付けされ、外へ出た瞬間にコートを脱いで車に乗り込 む。シズカは「スタッフには見られていない」と断言するが、通行人からは異様な光景に映るようで、ジロジロ見られるらしい。そして案の定、スタッフからも怪しまれてはいるのだった。「私の仕事がかなり気になっていたみたいで、顔馴染みのスタッフさんに何回か聞かれたんですけど、濁しているうちに察したのか、聞かれなくなりましたね」。シズカは、強引に話題をすり替えるという方法で躱しているのだという。例えばこんな感じだ。「長野へは何か仕事で来たんですか?」「はい、でも半々。働くんですけど、観光も行こうかなと思って」「へぇ、何の仕事を?」「まぁ、ちょっとお手伝いなんですけど。下諏訪のほうに行きたくて。行ったことあります?」。そんなやり取りを2~3回したという。流石にここまで躱されれば、相手も聞けなくなるだろう。今いるデリへルには寮が無い為、店が半額負担してホテルを用意してくれるという話だった。それなのに、コミュニケーションが嫌いな筈のシズカが何故、ゲストハウスに泊まっているのだろう?

「ビジネスホテルは体質的に合わないんですよね」。一体、どういうことなのか? 「逆に気を遣っちゃう。シーツとか掃除して下さる方とか。何だろう、『汚しちゃいけない』みたいな。合わないんです。疲れるんです、ビジホのほうが」。とはいえ、他人がいることにはストレスがあるようで、最初の1週間は気が張ってご飯が食べられなかったという。それでも、ホテルの白いシーツより、万年床のほうが気楽に寝られて良いらしい。「何ででしょうね?」。自分の貧乏性に自分で不思議がっていた。節約家の家庭に育ったのかと思ったら、そうではないらしい。「父も母も姉も結構浪費家ですね。父は特に、酒やパチンコでクレジットカードじゃんじゃん使うし。母は服と美容ですね。1着1万円超えの服とか普通に買う。髪も薄くて切るとこないのに、月一で美容院に行っているし、見た目に対してプライドがあるのかな。姉は遊び代ですね。スキーへ行くのに、スキー道具一式買って、結局、そのシーズンしか使わない。スキューバダイビングも、1回使って『もういらない』って。まさに浪費タイプ。でも、楽しんでいるんですよ人生を」。シズカとは180度違う家族である。聞けば、シズカは小さい頃にお小遣い500円を使い切って注意されたこと等が度々あるらしい。そこで、「あるだけ使ってはいけない」と学んだのだとか。「言われたことは全部真に受けて、その通りにするの?」「します、します」。シズカは当たり前のように答えた。そういえば以前にも、教科書に落書きしているのを教師に咎められ、アート全般を封印したというエピソードを聞いていた。言われたら過剰なまでに従う性質があるんだろうか? 「ありますね、それは確かに。えっ、皆そうしゃないんですか?」。私が否定すると、シズカは困った顔をしていた。「皆いい人だと思っているんで。本当は皆優しい。どんな人間でも、信じているみたいなのがありますね。だから本当のことを言っているんだって。何か言葉にするとわからないけど、確かに鵜呑みにはします」。翌朝、私とシズカは、ゲストハウスから歓楽街までの道を一緒に歩いた。シズカは長野に来てから、一度も周辺を散策していないらしい。仕事から戻れば、スーパーに行く以外で外に出ることはない。予め計画した観光地以外は、何も見ていないのだという。「こんなのもあるんだぁ、おもしろーい」。賑やかな街には、古びた映画館や食べ物屋も沢山あり、シズカはキョロキョロしながら楽しそうに歩いていた。長野では、最後の2日間で『あんずの里』・『下諏訪の温泉』・『高橋まゆみ人形館』を観光するという。

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昭和レトロな喫茶店を見つけて入ると、シズカは興味津々で店内をうろつき、隅々まで見学していた。柱時計がボーンボーンと鳴り、木の床が歩く度にギシギシと響く。「1人で来ることは先ずないです。お金を使うことに尻込みするし、『お洒落な場所に自分が来るべきじゃない』と思っているんで」。普段は殆どご飯を食べないシズカも、経費で落ちると話すと、ホワイトソースのオムライスにショートケーキとコーヒーを注文していた。私は気になっていたことを聞いてみた。「あの部屋に置きっ放しにしてるキャリーバッグの中って、現金が入っているんじゃないの?」。するとシズカは、当然のように言うのだった。「長野に来てからの稼ぎが入っているので、30万くらい。いつもその県を終える段階で銀行に入金するから。銀行が無かったりすると3ヵ月分くらい持ち歩いているけど、鍵が付いてるんで大丈夫ですよ」。そうは言っても、入れ替わり立ち代わり知らない人が出入りするゲストハウスで、盗難の不安は無いのだろうか? しかも、店によっては、女の子の待機室を兼ねた寮に泊まっていることもあるのだ。「そこまで気にしたことないかなぁ。勿論、盗まれたら『あ~』ってなるけど」。徹底してお金を遣わず、せっせと貯金を増やしているシズカだが、お金への執着はまるで感じられない。一体、働くモチべーションはどこから来るのだろう? 「自分の価値を知りたい、成果を金額で見たいんですね。稼ぎが少ないと、『自分の価値はこれくらいか』とがっかりする。多く稼げるほうが自分の価値を高めてくれる。でも、1日3万くらいで充分なんですよ。それが取れれば精神的に落ち着く。それより低いと落ち込むし、高いとその分疲れるから。別に稼いだからといって、何かに遣いたい訳じゃないんです」。ご飯を食べ終わると、シズカは1人、歓楽街へと消えていった。 (取材・文/写真家 インベカヲリ★)


キャプチャ  2017年6月号掲載
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