【中外時評】 誰が財政を監視するのか

健全な財政と民主主義は、果たして両立するのか――。そんな議論が高まりを見せている。日本の経済学者らが今年3月に刊行した『財政と民主主義』(日本経済新聞出版社)は、「民主主義には財政問題への対応を先送りさせかねない側面があり、政治などの制度改革を進めないと債務危機もありうる」と警鐘を鳴らした。『国際通貨基金(IMF)』も今春、選挙や政治の分断が財政赤字にどう響くかを分析した『財政政治学』という題名の本を出版した。関心の高まりの背景には、世界的な成長減速と、高齢化に伴う社会保障費の膨張がある。高成長で増えた税収を使って気前よくお金を配れた時代は、財政と民主主義の間に大きな相克は無かった。今や、負担増や給付削減を求めないと財政がもたない局面に立つ。「“与える”ことに腐心してきた政治がそんな厳しさと向き合えるのか?」という問いは、切実なものになっている。日本の政治を見れば不安は募る。「財政出動で経済を刺激すれば財政再建も進む」「日銀が国債を買えば政府全体での債務は減る」といった言説が飛び交い、厳しい現実から目を逸らす姿勢が目立つ。だが、世界を見回すと、政治家が国民に誤った幻想を振り撒かないよう、箍を嵌める仕組み作りが静かに広がっていることに気付く。代表例は、独立財政機関と呼ばれるお目付け役の創設だ。公的機関だが、中央銀行のように政治の影響を排除した形で運営される。経済・財政の長期見通しや、政策が財政に与える影響の評価を独自に公表。財政健全化目標の達成状況を監視する役割も担う。現在40ヵ国近くが導入しており、その数は2008年の金融危機前の3倍に増えた。例えば、イギリスが2010年に創設した予算責任局。予算の前提となる経済見通しや財政目標の達成確率等を、公正な観点で公表している。今年1月には「移民減少は財政健全化にマイナス。増税や歳出削減の拡大が必要になる」と、『ヨーロッパ連合(EU)』離脱に動く政権には都合の悪い分析を発表した。

今年3月に実施したオランダの総選挙。多くの政党が自らの公約の評価を依頼したのは、経済政策分析局だ。政治的に中立な権威ある機関として、公約が経済・財政・雇用に与える影響を数字で示した。公約評価は同局の“本業”ではないが、近年の選挙では恒例になっている。この結果、政党にとっては財源不明の安易な公約は出し難くなった。こうした独立財政機関の分析は完璧ではなく、影響力も区々だ。だが、お手盛りの財政見通しやばらまき政策を排する効果は立証されている。何よりも、国民が財政の実態や先行きについて公正な情報を得るのに貢献している。諸外国で進むのは独立財政機関の設置だけでない。「財政再建に成功した国の規律付けのメニューは大体同じ」と語るのは、明治大学の田中秀明教授。独立機関に加え、①単年度でなく3年程度の中期の枠組みで歳出を管理する予算制度②財政目標の達成状況の検証や目標から外れた時の是正措置を義務付けた財政責任法の導入――という。赤字削減目標を景気の影響を取り除いた“構造的財政収支”でみるのも潮流の1つだ。これなら、一時的な好況で赤字が減っても評価されない。景気悪化で赤字が増えた分は、それほど気にせずに済む。日本は、こうした流れから取り残されている。“財政劣等生”の日本から真っ先に財政悪化を止める知恵が出てもおかしくないが、状況は逆だ。機運が無い訳ではない。例えば、独立財政機関の導入論も存在する。与野党9議員は2013年、財政や経済の将来推計をする機関を国会に設置するよう提言した。メンバーの1人である公明党の西田実仁議員は、「行政の監視という役割を強める参議院改革の一環として実現させたい」と言う。自民党の若手議員にも、「社会保障制度の抜本改革で給付と負担の均衡を図り、持続的な社会を築こう」との動きがある。大切なのは、政党の枠を超えて議論を広げ、財政の持続性を高める制度改革に繋げることだ。民主主義の底力を発揮させ、財政の課題を解決する。そんな王道を歩みたい。 (上級論説委員 実哲也)


⦿日本経済新聞 2017年7月6日付掲載⦿
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