【ここがヘンだよ日本の薬局】(09) 薬剤師会と医師会、『リフィル処方箋』を巡る暗闘

患者は薬を貰う為、医師の診察を受けなければいけない。医師は薬を処方する為、形式的な診察をすることもある。そんな無駄を省き、薬局で直接薬を貰える『リフィル処方箋』制度が議論されている。制度を推進する薬剤師会に対して反対の姿勢を明確にしている医師会の言い分とは? (取材・文/フリーライター兼編集者 友清哲)

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何らかの疾病を患い、病院で診療を受けると、薬が処方される。その際、病院の窓口で診療代と引き換えに薬を受け取れるなら話は早いのだが、大抵は至近距離にある調剤薬局で処方を受けるよう指示される。所謂“医薬分業”は、我々にとって非常に身近なシステムと言えるだろう。病院が患者の状態を診断し、治療法を確定させる立場なら、調剤薬局は、医師の処方箋に基づいて薬剤師が調合した薬を、患者に販売する役割を担う立場である。薬は患者や症状に合わせたデリケートな扱いが求められ、場合によっては健康上の危険を伴うことすらあるもの。それ故、処方の度に医師の判断を仰ぐ必要があり、患者は薬が切れると病院を繰り返し再訪することになる。こうして、医師と薬剤師が各々の専門分野に特化し、効果的な分業の下に薬物療法を施すことには、医療の質の向上という観点から一定の理があるだろう。体調が悪い時、一々薬局まで歩かされることを苦痛に感じる患者も多いかもしれないが、院内処方では安価なジェネリック医薬品を入手し難い為、コスト面でも少なからぬ恩恵を享受できる筈だ。医薬分業が国内で本格的にスタートしたのは、1974年のこと。これもご多分に漏れず、他の社会設計同様、欧米の制度に倣ったものであるが、病院への一極集中を避け、医師と薬剤師が其々の領域の業務に専念することに安心感を覚える人も多いだろう。しかし、例えば慢性疾患を抱える患者の身に立てば、薬を受け取る為に何度も医師の診断を仰ぎ、その都度薬剤師に処方を求める労力負担は、決して馬鹿にならない。そこで昨今、一層活発に議論されているのが、リフィル処方箋制度の解禁問題だ。本稿では、リフィル処方箋の導入を巡り、『日本医師会』と『日本薬剤師会』の間で長年繰り広げられている激しいバトルと、リフィル処方箋が我々に齎すメリットにスポットを当てていきたい。

リフィル処方箋とは、患者が医師の再診を受けることなく、1枚の処方箋で繰り返し何度も薬を受け取れるシステムのことである。これはアメリカでは、医薬分業よりも更に20年程前から取り入れられてきた仕組みだ(※州により制度に微差あり)。但し、実は我々はこれに近い制度を既に経験している。“分割調剤”と呼ばれるもので、長期の投薬が必要なケースにおいて、長期保存が困難な薬剤等一部の医薬品に関し、患者は1枚の処方箋に基づく薬を複数回に分けて薬を受け取ることが許されている。事の経緯を紐解けば、2002年に一部の医薬品を除いて投与日数の上限廃止が決まったことが直接的な発端だろう。これにより、慢性疾患を抱える患者は、ある程度の量の薬を纏めて受け取れるようになった。そこで長期保存が難しい薬剤への対策が必要となり、分割調剤制度の導入が決定。更に2008年には、分割対象となる医薬品が広がる“規制緩和”もあった。分割調剤の患者サイドのメリットは、当然、病院へ足を運ぶ機会を抑えられる点にある訳だが、例えばその都度薬剤師と話し合い、数日分だけジェネリック医薬品を試してみるようなことも可能にしている。医師が指定する期間内であれば、再診の必要なく最寄りの調剤薬局で薬を受け取れるリフィル処方箋が、こうした患者のメリットを更に拡大させるのは間違いのないところ。実際に導入が決まれば、労力や所要時間等様々な面で恩恵が生まれるに違いない。では何故、リフィル処方箋の導入はスムーズに決まらないのだろうか? 昨今、このリフィル処方箋に一層の注目が集まっているのは、2015年に開かれた中央社会保険医療協議会での顚末が大きい。リフィル処方箋の導入については、政府の規制改革実施計画に「議論を加速し、結論を得る」と明記される等、早急な判断が追られている状況があった。そんな中、中央社会保険医療協議会の診療報酬基本問題小委員会の席で、日本医師会副会長の中川俊男氏が「議論する状態にない」とリフィル処方箋を一刀両断した事実が、メディアを賑わせた。この医師会側の主張の根幹にあるのは、「リフィル処方箋が導入されることにより、薬剤師が患者のコンディションを確認するケースが増え、抑々の医薬分業の方針に反する」という懸念のようだ。つまり、本来は“医”が担う領域を済し崩し的に“薬”が侵食することには、患者サイドにリスクがあるという訳だ。報道の字面のみを追えば、「服薬管理は処方権のある医師が担うべき」というのは、紛れもない正論だろう。やや柔軟性に欠けるきらいは感じられても、「薬剤師はあくまで服薬指導に徹するべき」というのもまた、真っ当な主張に感じられる。しかし、こうした議論の背景に大きな利権が絡んでいる事実があるとすれば、話はそう単純なものではなくなってくる。掻い摘んで言ってしまえば、「薬局業界は今、“儲かり過ぎ”である」というやっかみが、医師会側の主張からは透けて見えるのだ。

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薬剤師に支払われる調剤報酬が内容に応じた加点制であることは、ある程度周知されている事実だろう。薬剤師の指導を受けて薬を受け取る際、患者は“1点=10円”を基準に算出された金額を、薬局に支払っている。例えば、薬剤師が患者の薬歴等を確認し、お薬手帳の記載等の指導を余さず行った場合、薬局には41点(410円)入る計算だ。そんな薬局業界には、実は国策的な追い風があった。医薬分業を促してきた国は、病院側に蔓延する薬漬け医療を牽制し、薬局側の調剤報酬を増やしてきた経緯があるのだ。また、ジェネリック医薬品の普及推進な等、後発医薬品調剤体制加算も見逃すことができない。結果として、薬局業界は今や、7兆円産業と言われるほどにまで成長を遂げている。逆に、財政面で逼迫する病院が多い医師会とすれば、こうした薬局業界の“躍進”を面白く感じる筈がない。況して、リフィル処方箋の導入が決まったとあれば、更に薬局業界を潤わせることは必至なのだ。厚生労働省が薬局や患者を対象に実施した『2013年度の薬局の機能に係る実態調査』(平成25年度)によると、過半数の患者が薬剤師から処方された薬が「余ったことがある」と回答し、更には9割超の薬剤師が残薬を有する患者の存在を認めていることがわかった。こうした残薬過多は、一説によると450億円規模に上ると言われる。これが医療費を肥大させているのは勿論、患者の自己判断による飲み合わせから、深刻な健康被害を起こすリスクも考えられる為、看過できない問題だ。その点、「リフィル処方箋が導入されれば、患者は適宜、必要に応じて処方を受けられるようになり、手元で薬を余らせてしまう可能性を軽減できる」というのが肯定派の意見。つまりは薬剤師による医療費削減に繋がり、国家視点からすればいいこと尽くめのように見えなくもない。

しかし、そこで医師会側が難色を示すのは、前述のように、困窮する医師の隣で富裕する薬剤師の姿に業を煮やしているからだ。2014年秋の薬剤師会では、出席した医師会の理事が「医師が貧乏なのに、薬剤師は調剤報酬で贅沢している。母屋で粥を食っている時に、離れですき焼きをしているようなものだ」と痛烈に批判し、一部のウェブニュースを駆け巡った。一定の耳目が集まる場におけるストレートな物言いは、如何にも医師会の焦燥を感じさせる。実際、日本医師会は大手薬局チェーン経営者の高過ぎる給料を糾弾するレポートを公表する等、形振り構わぬ主張を続けている。具体的には、『日本調剤』の2011年度の社長報酬が実に6億7700万円に達する事実を挙げ、調剤薬局への報酬引き下げを国に訴えているのだ。こうした数字のインパクトの賜物か、ここ最近の薬局業界の“儲け過ぎ”には、巷からも厳しい目が向き始めているのも事実だ。超高齢社会を前に、「まだまだ削れる贅肉はある」と考えられるのも自然な流れだろう。根本的な論争の構図が、リフィル処方箋の有用性というよりも、“既得権を守りたい医師会vs新たに大きな財源を得たい薬剤師会”という争いにあるのは言わずもがな。結局のところ、リフィル処方箋を巡る論争は、利権争いから脱却できないまま停滞しているのが現実なのだ。一方で、現代の医療問題を本質的に捉え、非公式に次のようにコメントする医師もいる。「あくまで処方箋に精度の高い指示が記載されるのが前提ですが、導入によって医師側の負荷が軽減されるのは事実でしょう。例えば、慢性疾患の患者の何割かは、ただ同じ薬を処方する為だけに、お決まりの診察を行わなければならないケースで占められ、半ばルーティンワークと化しています。リフィル処方箋によってこの部分を抑制できれば、間接的には医師不足の解消にだって繋がるのではないでしょうか?」(新宿区内に勤務する内科医)。勿論、リフィル処方箋の導入が決まれば、医師が受け取る診療報酬は間違いなく目減りする。それでも、大局的に見ればリフィル処方箋のメリットは大きいという訳だ。一方、薬剤師側も現場に目を向けてみれば、リフィル処方箋を必ずしも手放しで歓迎している訳ではないことがわかる。「若しリフィル処方箋が実現すれば、患者は自身の生活圏内にある薬局の中から“かかりつけ薬局”を見つけることになります。つまり服薬期間中、如何に丁寧で的確な指導が受けられるか、これまで以上に真剣に吟味することになるでしょう。それは、薬局間の競争の激化が始まることを意味しています。正直、しんどいですね…」(神奈川県内に勤務する薬剤師)。薬局が数でコンビニを上回って久しい昨今、これ以上の競争に曝されるのはデメリットであるというのは、現場ならではの生々しい意見と言える。そうでなくても、リフィル処方箋導入にあたっては、副作用情報等の服薬ケアやフィジカルアセスメント能力の向上等、薬剤師に一段高いスキルが求められることになりそうなのだ。立場が違えば見える風景も変わる。これは世の理の1つだ。しかし、こと医療において優先されるべきは患者の安全であり、利便性である筈。このテーマについては引き続き、全国民の衆目を以て顚末を見守るべきだろう。


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