【Global Economy】(44) 竹森俊平の世界潮流:ポピュリズム収束の錯覚

ヨーロッパで強まる反EUとポピュリズムの流れは転換するのだろうか? 英仏の国民は、選挙を通して現実的な道筋を探り始めたようにも見えるが、なお予断を許さない。国際経済学者である慶應義塾大学の竹森俊平教授が解説する。

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6月にイギリスとフランスで行われた重要な議会選挙の結果は対照的だった。イギリスの総選挙は、3月にEUからの離脱(ブレグジット)を通知したテリーザ・メイ首相(保守党党首)の判断で、急遽実施された。対立する労働党の支持率は下降中。今、総選挙を実施すれば保守党の大勝利。その成果を武器に、メイ首相はEUとの離脱交渉の立場を強化できる――という事前予想が、首相にそう判断させた。ところが、予想に反し、選挙により保守党は議会での単独過半数を失う。メイ首相の指導力も失墜、イギリスがどういう立場で離脱交渉に挑めるのかさえ不確かになった。フランスの国民議会選では、エマニュエル・マクロン大統領が国民議会を支配できるかが焦点だった。フランスの制度では、大統領が望む政策の実現には、支持政党が議会の過半数を制することが必要だ。マクロン大統領は、政治の素人を中心とした新しい政党『共和国前進』を昨年創設したが、議席数ゼロからの出発で過半数実現が可能か疑問視されていた。ところが、この選挙で577議席の内、連携する政党と合わせて350議席を獲得する。まさに、東京都の小池百合子知事が率いる『都民ファーストの会』の都議選圧勝とそっくりの展開だ。

これまでフランス政治を主導してきた共和党・社会党の2大政党の退潮が鮮明になり、特に社会党等中道左派は8割の議席を失い、存続の危機にある。昨年まで選挙経験ゼロだった39歳のマクロン大統領は一躍、強力な政治リーダーになる。ブレグジットを進めるメイ首相が敗北し、極右政党『国民戦線』を率いるマリーヌ・ル・ペン氏が退けられる一方で、ヨーロッパ統合推進派のマクロン大統領が勝利した展開を、ヨーロッパの人たちは歓迎している。「“ポピュリズム旋風”の流れが変わり、今後は独仏枢軸が牽引してヨーロッパ統合が進展する」という楽観論が広がっている。その為、為替相場もこのところ、ユーロ高の展開だ。だが、そこまで楽観できるだろうか? “大衆迎合主義”と訳されるポピュリズムだが、具体的に大衆にアピールする方法としては、“既成の政治”を批判し、それを変えられる強いリーダーシップを提示するというやり方が一般的だ。この点でマクロン大統領は、ルペン氏と同様のポピュリストで、グローバル主義に対してルペン氏が“反対”、マクロン大統領が“賛成”という点だけが違う。つまり、国民戦線の敗北は、既成政治がポピュリズムに勝利したのではなく、1つのポピュリズムが別のポピュリズムに対して勝利したのを意味する。フランスの既成政党は、社会党・共和党とも埋没した。国民議会決選投票の葉権率は57%と記録的だった。これまで既成政党を支持してきた約6割の有権者が棄権に回り、共和党・社会党という既成政党を埋没させる一方で、現状に不満を抱く4割の投票がポピュリズム一派の大勝を導いた。“不満を抱く国民”の行動には、必ずしも一貫性は無い。イギリスの総選挙で保守党が敗北した最大の原因は、労働党票の予想外の伸びだった。所得の停滞に不満を抱く中流・下流のイギリス国民は、昨年6月の国民投票で“EU離脱”に票を投じた。だが、その後の1年で、流石にブレグジットでは所得停滞問題が解決しないことに気が付く。だから今回、メイ首相の訴えに冷淡だった。他方、急進的な左翼思想を持つポピュリストである労働党のジェレミー・コービン党首は、選挙戦で福祉のばらまき政策を訴えた。イギリスの不満層は、今回はそのポピュリズムに乗ったのだ。“不満層”に左右される政治は、このように安定性を欠く。

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マクロン大統領の場合、ポピュリストではあるが、基本的には“経済学の正しい処方箋”に従い、行動する。改革の第一歩として“雇用改革”を自指し、9月中の議会での早期決定を図る。現在、フランスでは労働組合の発言権が強く、企業の正社員に有利な雇用条件を押し付ける為、雇用コストが割高となる。その為、若年層の失業率が高くなる。そこで、雇用条件についての企業の発言権を強化し、賃金の引き下げや解雇を容易にする。こうして、ドイツ政府からも提案されている労働市場の流動化を実現し、その引き換えにEU予算による公共投資の拡大ができるようドイツ政府に動いてもらう。財政赤字を規制したEUルールの為、自国の予算で公共投資を増やすのは難しいのだ。労働組合が強いフランスで、雇用改革の実現には困難が予想される。だが、たとえ実現しても問題がある。“経済学の正しい処方箋”は、短期と長期で異なることがある。労働市場の流動化は、長期的には雇用にプラスで、成長戦略としても有効だ。しかし短期的には、失業の増加や賃金の抑制を通じ、国内消費が低迷しかねない。一例だが、ドイツはゲアハルト・シュレーダー前首相の下で、2002年以降に大胆な雇用改革を実行し、それが現在のドイツ産業の国際競争力を生んだと評価されている。だが、実施後数年間は労働者の消費が低迷し、ドイツ経済は不振に喘いだ。2005年にシュレーダー氏が現在のアンゲラ・メルケル首相に総選挙で敗れたのは、その為だ。現在、ヨーロッパ経済は長期不況を脱し、回復に向かっている。だが、未だ脆弱だ。その中で雇用改革だけが突出するのは危険だ。大統領個人の人気に依存するマクロン政権は、景気が崩れ、人気の下降を呼べば脆い。独仏枢軸の復活を目指すつもりがあるなら、ドイツ政府は直ぐにでも公共投資策を実行し、フランス経済を助けるべきだろう。


竹森俊平(たけもり・しゅんぺい) 経済学者・慶應義塾大学経済学部教授。1956年、東京都生まれ。パリ大学留学(サンケイスカラシップ)。慶應義塾大学経済学部卒。同大学大学院経済学研究科修了。同大学経済学部助手やロチェスター大学留学を経て現職。著書に『世界経済危機は終わった』(日本経済新聞出版社)・『欧州統合、ギリシャに死す』(講談社)等。


⦿読売新聞 2017年7月7日付掲載⦿




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