【教科書に載らない経済と犯罪の危ない話】(49) 『パレルモ条約』での逮捕にみるテロ防止と人権侵害の矛盾

2010年、カタールからヒースロー空港に到着したのは、クリスマスムード溢れる12月だった。前日に『ウィキリークス』創設者のジュリアン・アサンジが逮捕されたことは、機内の新聞で知っていた。イミグレーションで長蛇の列に並ほうとした途端、制服警察官とスーツ姿の男数人に囲まれ、そのまま別室へ連れていかれた。イミグレーションでこのような扱いを受けるのには慣れている。5日前に出発したのもヒースロー空港だったが、その後、テロの警戒レベルも引き上げられていた。窓の無い6畳ほどの部屋は、薄いグレーで、如何にも取調室といった感じだ。筆者の前に座った2人の男は、典型的なゲルマン系である。1人はスコットランドヤードのCTC(テロ対策司令部)、もう1人はSOCA(重大組織犯罪局)の経済犯部の人間だ。筆者は頭をフル回転させて考えたが、思い当たることが多過ぎてわからない。CTCの男が筆者の前に写真を置く。中東系の、如何にも“悪事に手染めています”という顔をした男の写真。知らないと答えたら、次の写真が置かれた。これも中東系の男で、顔半分が髭で覆われている。知らない。次に見せられた写真に写っている男は知っていた。筆者だけでなく、世界中の人が知っている筈だ。写真の男はウサマ・ビン・ラディンだったのだ。筆者は頷き、その名前を答えた。「パレルモ条約第5条・第6条に基づくイングランド法により、貴男を拘束します」。パレルモ条約の第5・6条とは、犯罪集団への参加・幇助と、犯罪収益移転・資金洗浄に対応する立法を条約国に求めるものである。日本ではテロに対する意識が相当に低い。絶えずテロの脅威に曝されている国では、その取り締まりは厳しい。テロの防止とテロリスト達捕の為なら、少々の人権侵害はお構いなしなのだ。

筆者が拘束されたのも、言いがかりに近い手法である。ヒースロー空港から中央裁判所に連行され、初めて何の容疑かがわかった。バーレーンからバハマの銀行への送金がテロ資金と疑われたのだ。送金経路にロンドンの銀行を介していた為、目を付けられたらしい。裁判所の審問で筆者の容疑は晴れて、即日釈放されたが、その後、2週間ほど事情聴取を受けた。イギリスは世界一の監視国家である。ロンドンでは、テロ対策において全市民が容疑者なのだ。イギリス国内には監視カメラが約430万台設置されており、ロンドン市内で警通に生活していれば、1日300回以上監視カメラに映されるという。また、監視カメラの映像・携帯電話・オイスターカード(※日本の『Suica』と同じ機能)等を連動させ、特定の人物を監視するシステムも運用されている。こうした個人のプライバシーや人権を侵害するような捜査も、「安全の為なら仕方ない」とイギリス国民は受け入れているようだ。一方で、厳格な民主主義と個人の権利を追求する隣国のフランスでは、テロ対策も犯罪組織の取り締まりも難しい。昨年11月に起きたパリ同時多発テロから、今も非常事態宣言は続いており、街中に武装した警察官が溢れている。イギリスの監視と情報収集でテロを防ぐ手法に対し、実力によるテロへの対応がフランスのやり方だ。こうした事情から、フランスはテロリストにとってもマフィアにとっても活動し易い拠点となった。だから、犯罪集団の本拠地がパリに集中しているのである。ロンドンで資金、パリで人材を集め、アルジェリアで武器を調達する。あとは中東からの指示を受け、テロを実行するだけだ。現代は、犯罪もカネも多国間でボーダーレスに移動する。過度な民主主義と自由の追求が、国家と国民の安全を脅かす。私たちは、そんな時代を生きているのだ。 (http://twitter.com/nekokumicho


キャプチャ  2017年7月11日号掲載
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