長時間労働・残業代未払い・パワハラ…インターネット通販に苦しめられる『ヤマト運輸』の行く末

長時間労働に深刻な人材不足等、日々明らかになる『ヤマト運輸』の労働実態。この事態を招いたのは、薄利多売を続けた同社の経営戦略に他ならない。日本の物流を崩壊させるクロネコヤマトが犯した大罪とは――。 (取材・文/本誌編集部)

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この低成長時代にあって、宅配便業界ほど安定して右肩上がりの成長を続けている業界はない。日本の宅配業界は、ヤマト運輸・『佐川急便』・『日本郵便』の大手3社で9割を超えるシェアを占めている。そのビッグ3の中でも46.7%(※国土交通省調べ)と、凡そ半数を占めているのが、日本物流業界の雄・ヤマト運輸だ。ヤマト運輸の従業員は、契約社員やパート社員も含めて約16万人。グループ全体では凡そ20万人となる。扱う荷物量も膨大で、今年3月期の宅配便取扱い個数は凡そ18.6億個。前期に比べても7.9%の増加となっている。まさに日本経済を支える社会インフラとなっている訳だが、その重要な仕事の現場を支える従業員たちの負担は、既に限界ギリギリだ。今年2月、ヤマト運輸の労働組合は春季労使交渉において、今年度の宅配便の荷受量を抑制する為、引き受ける荷物の総量を規制するよう会社側に求めた。ヤマト労組は、ドライバー等6万人が参加するトラック運送業界最大の労組である。取扱い個数が増加し続ける中、現場が「もうこれ以上は荷物を運べない」と、悲鳴にも近い叫びを上げたのだ。「ヤマト運輸は、これまで採算に関してはある程度目を瞑ってでも、取扱量を増やすことに血道を上げてきました。インターネット通販の市場拡大等によって、その目標は実現しました。しかしその一方で、現場の人員の補給が追いついておらず、必然的に現場での長時間労働が常態化してしまったのです」(経済誌記者)。

ヤマト労組は、総量規制と同時に、苛酷な労働環境の改善と賃上げも要求している。ヤマトに限らず、現在の宅配業者は、基本的に朝8時から21時まで配達を行っている。当然ながら、ドライバーや荷物の仕分けも交代制で勤務しているのだが、ヤマト運輸では早番の勤務者が夜まで残って作業することも頻繁にあるという。「労組側は、退社から次の出社まで10時間以上あける“勤務間インターバル制度”の導入も求めていますが、裏を返せば1日14時間以上の労働を強いられていたということ。これではブラック企業と言われても仕方ありません」(同)。ヤマト側も流石に、「このままでは現場が持たない」と判断したのだろう。労働環境の改善については、概ね受け入れる方針を打ち出している。但し、賃上げについては、定期昇給相当分とベースアップの合計で組合員平均1万1000円という労組側の要求は据え置いている。ところが、この労使交渉が行われた直後の3月、ヤマト運輸では更なる問題が発覚する。ヤマト運輸等の持ち株会社『ヤマトホールディングス』が、グループ会社の正社員やフルタイムの契約社員等、計8万2000人の社員を対象にサービス残業の実態を調べたところ、膨大な残業代未払いの実態が明らかになったのだ。「ヤマト運輸は、労働組合からの要望に加え、労働基準監督署からも是正勧告を受けていました。謂わば外圧によって仕方なく調査を実施したのですが、そこでとんでもない実態が発覚してしまった」(全国紙記者)。残業代の未払いが発覚したのは、調査対象の6割近くにも及ぶ約4万7000人。過去2年間における未払い総額は、少なくとも190億円に上るという。この結果を受けたヤマトホールディングスは、4月になって未払い分を一時金として支払うことを決定。未払いに伴う社会保険料30億円等も加算され、今年3月期の業績予想は240億円も引き下げられている。外圧があったとはいえ、最終的に未払い金の支払いを決めたということは、会社の自浄作用が働いたということでもある。その点では市場も一定の評価をしており、ヤマト運輸の株価は逆に上昇の動きすら見せているが、抑々発覚した残業未払い金は払われて当然のものである。更に言えば、今回の未払い残業代190億円という数字にも、「実際はもっと多いのではないか?」という指摘が相次いでいる。「調査の対象期間は最大で過去2年間ですから、それ以前の分は無かったことになります。確かに、労働基準法における給料未払いの時効は2年ですが、これでは長く働いている社員はやりきれないでしょう。しかも今回、調査結果が公表された後の現場では、上から暗黙のプレッシャーがかかったようで、『センターによっては残業代を請求しないという誓約書を書かされた』という情報も飛び交っています」(労働問題に詳しいフリージャーナリスト)。

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ヤマトホールディングスは5月に入って、今年度中に正社員と契約社員を約4200人、パートで約5000人の計9200人ほどを増員する方針を決定している。しかし、労働環境がどこまで改善されるかは甚だ疑問である。というのも、ヤマト運輸ではこれまで幾度となく、労働環境の改善と残業代の支払いを求める現場のドライバーと、コストカットと利益を追求する会社側の間で、同様の問題が浮上していた筈だからだ。ここ10年間だけを見ても、ヤマトの関西支社、徳島県にあるエリア支店、豊中の集配センター等に対して、労働基準法違反容疑で是正勧告が行われていたことが発覚している。「殆どの場合、サービス残業を強要した上、賃金を支払っていなかったという事例です。中には、上司が勤務時間を記録する携帯端末を勝手に操作して記録を改竄していたというケースもありました。多くの営業所では、ドライバーは定時より早く出社して、荷物の積み込み等の業務を行ってから端末の記録をスタートさせ、業務終了を記録した後も、書類整理等の残業をすることが常態化しています。ドライバーは昼休みも碌に取れないほど働いているんです」(週刊誌記者)。残業代の未払いを求めて従業員が提訴する事例も増えているのだが、「多くの提訴は退社後にされている」という指摘もある。また、過酷な配達ノルマのプレッシャーに伴う様々な問題も噴出している。2012年と2013年には、請け負った荷物やメール便を配達せずに破棄していたという事件が複数発覚。また、2011年と2013年には、同社のヒット商品であるクール宅急便が常温で扱われていたという事例が、やはり複数発覚している。「表面化した事件以外にも深刻なのは、過酷な労働でドライバーが健康を損なってしまうケースです。残業代の問題と同じく、長時間労働が証明できなければ労災認定も難しい」(同)。

つい最近も、システムの歪みが起こした悲劇がニュースになっている。長野県内の営業所に勤めていた男性が、上司から「半身不随にでもしてやろうか」「その場で叩き殺すぞ」といった暴言や暴行等のパワハラを受けて自殺したとして、今年3月に遺族が同社と上司を提訴したのだ。「一義的には上司の問題ではありますが、その上司も会社から利益を上げるように迫られて、部下に重労働を課していたという構図がある。遺族の申請で男性の労災が認定されていますが 過去の事例を見ても、少なくとも会社側は過重労働に対して注意しなければならなかった」(同)。この状況を招いた原因が、現場の人員不足にあることは明らかだろう。では、ヤマトはこうした問題を起こしていながら、何故今まで人員を増やさなかったのか? 宅配業の経験者が、こう解説する。「先ず、長時間重労働の為、単純になり手がいないんです。運転免許の問題等もあって、外国人労働者も雇えない。宅配業界全体がドライバー不足になっており、現在は外部の運送業者に委託して何とかやり繰りしている状況です。宅配業は労働集約型産業の最たるもので、人件費が半数以上を占めると言われています。どれだけシステムを効率化したところで、トラックを運転して荷物を運び、最後に荷物を届けるのは人間ですからね。その人材が確保できない以上、今いる人間だけでやり繰りするしかない」。ならば、重労働に見合うだけの給料を支払うしかないのだが、それも難しいという。「ヤマトの宅配便は“薄利多売”ですからね。大量に物資を運ぶ企業間の物流と違い、個人間の宅配は運賃の安い小形の荷物が中心です。その為、運べば運ぶほど手間が増え、荷物1個の単価はどんどん下がってしまうんです」(同)。先日、ヤマトが決定した人員増加にかかる人件費は、凡そ160億円だというが、これは今年度のヤマトグループ全体の純利益とほぼ同じ。つまりヤマトは、人員を増やせば利益が吹っ飛んでしまうほどギリギリの状態で現場を回しているのだ。ヤマト運輸は一昨年、それまでの値引きを止めて、“適正料金を受け取る”という形で一斉値上げを行っている。これによって収支は上向いていたというが、現場の環境改善までは手が回らなかったようだ。ヤマト運輸の薄利多売を加速させた大きなきっかけとなったのが、インターネット通販大手『Amazon.com』の荷物である。Amazonは2013年、配送業務を佐川急便からヤマト運輸に切り替えている。この大口顧客の獲得によってヤマト運輸の荷物取扱量は激増したが、それだけ現場の仕事量も増えている。「ヤマトの売り上げに占めるAmazonの割合は1割を超えています。但し、大口の割引料金の為、荷物単価は安く、利益も殆ど無い。抑々、Amazonが佐川からヤマトに乗り換えたのは、『もっと安く、もっと早く』というAmazon側の無茶な要求に、佐川急便が『ウチはボランティア団体じゃない!』と三行半を叩き付けたからなんです。Amazonと手を切った佐川急便は、取扱量は減りましたが、営業利益や荷物1個当たりの単価は共に上がりましたからね」(前出の経済誌記者)。

ヤマト運輸は、一昨年の値上げに際し、Amazonに対しても価格の引き上げを行っており、Amazonも一部の荷物を日本郵便や地元の宅配業者に回す等して、ヤマトの要求を受け入れているが、先行きは不透明だ。「Amazonはここにきて、中小の物流会社を“デリバリープロバイダ”として指名し、自前の宅配システム構築に動いています。ヤマトには、全国に張り巡らせた宅配網と、きめ細かいサービスという強味はありますが、Amazonが本腰を入れてくれば、切られる可能性もゼロではない」(同)。ヤマト運輸が抱える問題は、そのまま宅配業界全体の問題でもある。ヤマト運輸に先駆けて、シェア争いよりも利益優先に舵を切った佐川急便も、同様の問題を抱えている。昨年末、インターネット上に宅配便のドライバーが荷物を道路に叩き付けたり、無造作に放り投げるという動画が流れて話題となったが、あのドライバーは佐川急便の配達員だった。当初、佐川急便は「この配達員に過度な負担があったとは考えていない」と強気のコメントを出していたが、やはり個人の問題として片付けることはできないだろう。「丁度、事件があった12月は、宅配業界にとっては最も忙しい時期。配達員がキレたのは、無理な現場のミッションに耐え切れなくなったからでしょうね」(地方紙社会部記者)。実際、この時期の佐川急便では、他にも不祥事が続いている。配達員が代引きの値段を書き換え、差額を懐に入れていたという事件が、インターネット上での書き込みで発覚。また、駐車違反をした運転手の処罰を逃れる為の身代わり出頭をしていた事実も明るみになり、犯人隠避と同教唆の罪で同社の25人が略式起訴されるという事件も起きている。当初は事件を炎上させたインターネットユーザーも、宅配業界の現状を知って、佐川急便の体質に批判の矛先を向けるようになり、配達員に同情する声が挙がったほどだ。ヤマト運輸と佐川急便は、この数十年来、過激な価格破壊とサービス競争に明け暮れてきた。その結果、消費者にとっては便利になったが、その皺寄せを受けた現場ドライバーの負担は重くなる一方だ。会社側も、人員の増員に加え、IT技術の導入や巨大な物流センターの建設による輸送、配達の効率化、更に駅等に宅配受け取りロッカーを設置する事業等を展開して、対応策を講じてはいるが、増え続ける荷物量に対応し切れていないのが現状だ。また、消費者側もその便利さを当たり前のように享受している為、近年は客のモンスター化も増加傾向にあるという。「自分で配達時間を指定しておきながら不在だったり、化粧をしていないから居留守を使うといったケースは未だマシな部類。只でさえ時間の余裕が無いのに、何度も再配達の時間を変更した挙げ句にクレームでは、とても精神が持ちません」(前出の宅配業経験者)。パソコンやスマホさえあれば、自宅にいながらありとあらゆるものをオンラインで購入し、自宅まで届けてもらうことができる時代である。そんなインターネットと現実の世界を結ぶ重要な役割を果たしている宅配便業者だが、その現場は最早崩壊寸前だ。


キャプチャ  2017年7月号掲載




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