【変見自在】 百合子の本

6月5日がミッドウェー海戦の日なんて、大方の日本人は忘れているのに、バッファロー市であの戦いのヒーローというC・マクラスキー海軍少佐の像のお披露目が盛大に行われた。彼はあの日、空母『エンタープライズ』から急降下爆撃機『ドーントレス』の編隊を率いて発進した。目標は、ミッドウェー島を目指す日本の空母群を捕捉・殲滅することにあった。アメリカ側は、実は4隻の空母を中核とする日本艦隊の編成から攻撃日時に至るまで、全てを知っていた。何故なら、日本海軍の暗号『JN25』をとっくに解読していたからだ。“とっくに”とは日米開戦の遥か前という意味で、だから真珠湾奇襲もとっくに承知していた。勿論、外交暗号も解読していた。コーデル・ハルは、駐米大使の野村吉三郎があたふたやって来る遥か前から、彼が開戦を通告しに来ることを知っていた。大仰に「これほどの不実を知らない」とか言ったのは、下手糞な演技だった。因みに、日本側が暗号解読に気付く機会は何度かあった。1つは、開戦間もなく、イギリス領ビルマの首相であるウ・ソーが 、リスボンの日本大使館に駆け込んで「日本と手を結びたい」と訴えてきた件。彼は真珠湾の日、パンナム機でまさにそこに向かっていた。そして、叩きのめされる白人たちを見た。「覚醒した」と彼は言っている。ウ・ソーの言葉は即座に暗号で東京に送られた。墨書きの受信電文は、外務省飯倉公館に今も残る。しかしアメリカは、そんな片隅で打たれた暗号電も見逃さなかった。解読し、イギリスに伝えた。ウ・ソーはビルマへの帰途、イギリス側に捕まえられ、幽閉された。日本軍はその3ヵ月後にビルマを制圧したが、そこにウ・ソーの姿は無かった。一国の首相がずっと行方不明という異常事態を少しでも探れば、暗号電解読を十分疑えた筈だった。

同じことはインド洋海戦にも言えた。我が聯合艦隊はイギリスの戦艦『プリンス・オブ・ウェールズ』を屠った後、インド洋で空母3隻を含む英蘭豪艦隊と戦い、空母1隻と巡洋艦2隻を沈めた。ただ、この時も彼らは、日本側の動きを察知したかのように逃げ回り、或いは奇襲をかけてきた。暗号解説は十分察知できた。ミッドウェーに話を戻す。何も知らない日本艦隊を待ち伏せするアメリカ側は、圧倒的に有利だった。しかし、マクラスキーは高空から索敵を続けたが、何も見つけられないまま燃料切れを迎えた。普通は帰艦するところだが、彼はまさかの索敵続行を選んだ。そして空母群を見つけた。僥倖だった。幸運は未だあった。直前にアメリカ軍の雷撃機が波状攻撃を仕掛けた。直掩の零戦は低空に降りて、約50機の雷撃機を撃墜しまくっていた。上空にはだから日本機の姿は無かった。ドーントレスは落ち着いて、先ず空母『加賀』を襲い、更に『赤城』の甲板にも500㎏爆弾を見舞った。3つ目の幸運は、その空母甲板で日本機はまさに爆弾と魚雷の換装中で、身動きできない状態だった。3つの僥倖が一度にアメリカ側に微笑んだ。開戦以来負けっ放しのアメリカ軍は、初めて大きな1勝をあげた。マクラスキーはだから顕彰された。『失敗の本質』(ダイヤモンド社→中公文庫)という本が、この海戦を分析している。上空の見張りの穴は誰の責任で、魚雷換装は誰の落ち度で…とかやっている。誰かの責任以外に、天祐とか運とかが歴史を動かすことを知らない。この本は、インパールも誰かの責任で語る。牟田口の判断ミスはあったが、あの作戦を困難にした一因に、インド人を嫌うビルマ人の民族感情があった。アウンサンはそれで協力を拒み、イギリス軍に内通した。この本は、歴史の流れを、そこに浮かぶ小さな人間の所業の結果と見ようとしている。運命の悪戯も、後知恵で責任問題に置き換える。読んでいて東京裁判より気分が悪くなる。小池百合子がこの本を座右の書にしていると聞いた。粗を探し、責任を糺して、貶める。彼女の性に合っているかもしれない。


高山正之(たかやま・まさゆき) ジャーナリスト・コラムニスト・元産経新聞記者・元帝京大学教授。1942年、東京都生まれ。東京都立大学法経学部法学科卒業後、産経新聞社に入社。警視庁クラブ・羽田クラブ詰・夕刊フジ記者を経て、産経新聞社会部次長(デスク)。1985~1987年までテヘラン支局長。1992~1996年までロサンゼルス支局長。産経新聞社を定年退職後、2001~2007年3月まで帝京大学教授を務める。『高山正之が米国・支那・韓国・朝日を斬る 日本人をますます元気にする本』(テーミス)・『アジアの解放、本当は日本軍のお陰だった!』(ワック)等著書多数。


キャプチャ  2017年7月13日号掲載
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