【中外時評】 農漁業の“戦後”は終わるか

政府は農業に続き、漁業権制度を中心とした漁業改革の議論を今秋から始める。農漁業の生産性を引き上げる為の規制改革は、半世紀以上も続く硬直的な制度を解きほぐす作業だ。戦後、非軍事化と民主化を主導した『連合国軍総司令部(GHQ)』の意向は、日本の農漁業の姿も変えた。地主が所有していた農地は農地解放として小作人に、水夫と呼ばれた漁業者には自立の為の漁業権が分配された。政府は、地主が再び農地を独占しないように、自由な売買を規制する農地法を1952年に制定。1949年に制定した漁業法には、小規模な沿岸漁業権等を地元の漁業協同組合に優先して認める仕組みが盛り込まれた。農漁業を営む為の土地や権利が広く開放された民主化に、一定の成果はあった。問題は、農地や漁業権の規模が極めて小さく、法制度がその流動化を阻んだことだ。生産性は当然のように伸び悩んだ。農家1戸あたりの水田面積は、今年2月時点で1.76ha(※北海道を除く都府県の平均)と、農地解放時の所有上限(平均約1ha)の2倍弱に過ぎない。今年の水産白書によれば、日本の漁業者1人あたりの生産量は、ノルウェーやアイスランドの8分の1程度に留まる。更に、農漁業政策は戦中戦後の食料不足時代の発想を引きずり、一貫して自給率の向上を目標に掲げた。国内への食料供給が最優先の課題だから、海外市場の開拓は蚊帳の外になる。食料の多様化で1970年前後から供給過剰に陥ったコメも、海外への輸出は議論さえされず、コメ農家は需要量に見合った生産調整(減反)を強いられた。宮城大学の大泉一貫名誉教授は、「1970年代から、余った農産物を如何に海外で売るかを考えてきたアメリカやオランダ等の農業先進国と、余ったら生産調整という発想を変えられなかった日本農業の差は大きい」と言う。

コメの輸出が伸び悩む理由は検疫だけではない。政府が「農家の所得を減らすまい」と、減反による価格維持策を堅持することも大きな要因だ。来年、半世紀ぶりに姿を消す減反も、家畜飼料米の増産政策に置き換わるに過ぎない。競争を排し、統制経済の側面を残すままでは、農地集約で生産コストを下げる流れも生まれ難い。それでも、農業の構造調整を阻んだ価格維持策は、兼業農家の高齢化で変化の可能性がある。兼業農家の退出は、政治家にとっては従来のような農業票を期待できないことを、農業協同組合にとっては存立基盤を失うことを意味するからだ。小規模農家-農協-政治家と繋がる構図が崩れれば、農業の戦後は終わる。「関税貿易一般協定(GATT)ウルグアイラウンド合意後のヨーロッパのように、日本で農業の構造調整が進むかどうかは間もなくわかる」(大泉氏)。一方、漁業の生産性向上を阻む漁業権の問題は、未だ手付かずの状態だ。企業による農地所有の解禁に農協が猛反発するように、漁業権制度の見直しには漁業協同組合の強い抵抗が予想される。農水産物の流通拠点である卸売市場も然り。現在の卸売市場法は1923年に制定した中央卸売市場法の焼き直しであり、「『商人・民間業者は性悪なもので、政府や市場開設者(自治体)が厳格に指導・監督しなければならない』とする統制経済の色彩が濃い」(京都大学の藤谷築次名誉教授)。その上で藤谷氏は、「『農業者を商人の搾取から守らなければならない』という古い発想が、長い間、市場法の抜本改正を阻んできた」と話す。昨年、政府の規制改革推進会議と未来投資会議は、「食料不足時代に卸売市場が担ってきた公平分配機能の必要性は小さくなり、物流拠点の1つになっている」と指摘した。漸く市場法の抜本改革が動き出す。だが、高度成長期に政策で急増し、食品流通の変化で過剰に陥った卸売市場の整理統合はこれからだ。古い発想と制度、そこにこびり付く既得権益を一掃しない限り、農漁業の戦後は終わらない。 (論説委員 志田富雄)


⦿日本経済新聞 2017年7月13日付掲載⦿
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