【ここがヘンだよ日本の薬局】(10) ドナルド・トランプ大統領誕生で国民皆保険制度崩壊&薬価高騰の可能性

『環太平洋経済連携協定(TPP)』による医療機関への影響は、計り知れないものがあると言われている。トランプ大統領がTPPに反対する姿勢を示したものの、安心することはできない。未だ日米の二国間協定の可能性が残されているからだ。これまで日本が築いてきた医療制度は崩壊。薬を買う患者は、薬の高額化に悩まされることになりそうだ。 (取材・文/フリーライター 鈴木光司)

20170718 11
日米の大方のメディアや識者の予想を覆して、2017年1月20日、ドナルド・トランプ氏が第45代アメリカ合衆国大統領に就任した。選挙戦の頃から「メキシコとの国境に壁を造る」「イスラム教徒の入国を禁止する」等、暴言三昧のトランプ氏だったが、実際に大統領になることが決まってからは、“現実的”な言動も見られるようになった。しかし、選挙中からブレていないのがTPP交渉からの離脱だ。当選直後からTPP離脱を繰り返し訴えるトランプ大統領に対して、TPP推進に血道を上げてきた安倍政権は軌道修正を迫られている。抑々、このTPPに対しては、国内外から疑問の声も少なくなかった。それだけに、トランプ大統領の発言により、TPP交渉が頓挫することは反対派にとっては福音かもしれないが、そう単純な話でもないようだ。専門誌の医療ジャーナリストが言う。「TPPが成立しなくても、アメリカとの間で二国間のFTAという話になる可能性はある。その場合、日本にとってはより難しい問題になる可能性が強い」。そう懸念の声が上がるのだが、抑々FTA、更に当初想定していたTPPの何が、医療業界、延いては現場の薬局にどのような影響を与えるのか? 我が国でも、農業関係者を中心にTPP反対の声は数多く上がっていた。同時に、農業界ほどマスコミには取り上げられていないが、2016年11月2日、『日本医師会』・『日本歯科医師会』・『日本薬剤師会』の三者が合同で、『TPP交渉参加にむけての見解』という声明を、厚生労働省の記者会で出しているのだ。詳細は各医師会のホームページ等で見られるが、「国民皆保険制度がどのようになるかが明確に見えてこない」「皆保険制度を守ることが(三者の)基本姿勢」というのが趣旨である。一見、国レベルの話で国民と直接関係性を持つ薬局とは少しばかり遠い話にも思えそうだが、TPPに変わり得るFTA交渉において俎上に上がるかもしれない内容は、そうは言っていられない話のようなのである。

実のところ、抑々、アメリカでTPP推進に最も積極的なロビー活動を行ってきたのが、薬の生産業者である製薬会社のロビイストたちだ。このTPPを推進する製薬会社として、各種メディアで名前が挙がったところには、『ファイザー』・『グラクソスミスクライン』・『メルク』等、まさに世界的な企業が並ぶ。勿論、ロビー活動自体は交渉の前面に出る訳ではないので、これらの企業がどの程度の“活動”をしているのかは詳らかではないが、アメリカ議会における製薬会社の影響力を考えると、十分あり得ることと推測はできる。ところが、製薬会社が製造する薬を我々一般市民に直接提供する立場にある薬局や、そこに関わる薬剤師たちの間では、TPP、そしてFTAに驚くほど関心が持たれていないのが現実だ。東京都内に勤務する男性薬剤師は、こう話す。「『TPPの話は聞いたことがある』――その程度の認識じゃないでしょうか。『直接、自分たちの業務に支障が生じるようなことは無いだろう』と。抑々、詳しい内容すら理解していない。我々薬剤師仲間でも、TPPが話題に上ることなんて殆ど無いですね」。確かに、この薬剤師が言うように、新聞やテレビ等のメディアで、与党の国会における強行採決云々を耳にすることはあっても、一般の国民がTPPの内容に精通している訳ではない。それ以前に、TPP協定文8400ページの内、日本語に訳されているのはその約29%に過ぎない2400ページだったという。これでは、議論している政治家たちがきちんと内容を認識しているかどうかも怪しいところではある。しかし、それにしても、農業従事者たちの危機感と比べると、“当事者”となるべき薬局関係者・薬剤師たちがTPPに無関心というのは心許ない。では具体的に、TPP(※或いはFTA)がスタートしたら、薬の需要者である私たちには、どんな影響が考えられるのだろうか? 二国間のFTAを締結し、2012年3月にスタートしたお隣の韓国、又はアメリカの隣国で同様の協定(『北米自由協定』)を締結したカナダ等では、既に様々な問題が噴出している。ここで重要なポイントとなるのが、協定に付随するISD条項(※協定違反によって投資家が損害を受けた場合、賠償を求めて訴訟を起こすことができる)である。このISD条項によって、貿易相手国で損害を受けた――相手国の自治体等で販売停止等の判断が下された場合、投資者(※薬の場合は製薬会社等)が異議申し立てをして、訴訟に持ち込むことができるのである。典型的な例とされているのは、アメリカの化学企業『エチル』とカナダ政府の間で起きたガソリンの有害添加剤を巡る規制に関する訴訟である。カナダ政府は「子供等に影響を及ぼす可能性がある」として、エチルに対して比較的限定された規制を決定したが、そのエチルから訴訟を起こされて和解(=規制)を撤廃する羽目となってしまったのだ。

理由の1つとしては、敗訴した場合のべらぼうな賠償金である。また、子供への悪影響が懸念されると言っても、裁判になればそれを“立証”する必要があり、その為には長年に亘る人体実験でもしない限りは不可能である。勿論、そんなことができる訳がないので、事実上、カナダ政府の勝訴は望めないのだ。医療裁判を見てもわかるように、訴訟で医学的な因果関係を証明するのは難しい。煙草で肺癌を発症する確率を“科学的”に証明するのが困難なことと一緒である。どちらにしても、訴えられたほうには無理筋な話なのである。また、韓国の話で言えば、米韓FTAスタート後に、大病院の合併や薬局の法人化等、それまで公的なものとして守られてきた医療分野に営利を持ち込んだような動きが加速している。これなどは、まさにTPPによって我が国にも懸念される事案である。更に、有識者を含めたTPP反対派は、「日本の誇るべき国民皆保険制度が崩壊に繋がりかねない」ということを、医療分野における大きな問題点にしていることも忘れてはならない。もう1つ、薬価の高騰にも注意しなければいけない。2015年、アメリカの『チューリングファーマシューティカルズ』という会社の若き経営者が、エイズの治療薬を一挙に55倍に上げて、“アメリカで最も嫌われている男”との異名を取ったことがあった。極端な話だが、高額医薬品の値段の限度が定められている日本が、アメリカ同様のシステムを取り入れざるを得なくなれば起こり得ることなのだ。また、「特許の関係でジェネリック医薬品にも影響が出るのでは?」という議論も、相変わらず燻っている。TPPの問題点を早くから指摘している『全国保険医団体連合会(保団連)』の担当者は、こう話す。「現在、40兆円の(保険)予算の内、10兆円が薬剤師の調剤報酬です。それを12~13兆円に引き上げるという話もあります。アメリカにとっては、皆保険制度の枠組みであろうとなかろうと、それによって薬に関する予算が上がるなら結構でしょうが、税収を圧迫された日本側としては、負担増という議論が沸き上がってくることが考えられる。それはつまり、我々国民の負担になる訳ですが、それが窓口負担の増加であろうと薬価の高騰であろうと、患者さんにとっては辛い状況になることに違いはありません」。このような話を聞けば、患者は勿論、薬局にとっても他人事とは言っていられないだろう。更に、こんなケースも。「TPPと言っても、日米間の貿易が8割です。ですから、トランプ大統領にしてみれば、TPPでもFTAでも一緒。それを今みたいに、日本のほうが積極的な現状では、アメリカ側に有利な条件で譲歩してしまう可能性も考えられます」。要するに、「安倍政権の前のめりを、“国会劇場”として面白おかしく眺めている場合ではない」ということ。患者となる我々の問題でもあるのだ。


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