【Deep Insight】(30) “実験会社”アマゾンの戦い

株式上場から20年を迎えた5月、『Amazon.com』の株価が初めて1000ドルを突破した。『Apple』・『アルファベット(Google)』・『マイクロソフト』・『Facebook』と共に、時価総額の世界トップに名を連ねる。2016年の純利益は24億ドル(約2600億円)と、他の4社より1桁小さい。にも拘わらず株価で伍しているのは、将来への期待が大きいからだ。潜在力は本物か? 確かめるた為本拠地のワシントン州シアトルを訪ねた。先ず向かったのは、市の中心から車で約1時間の『フルフィルメントセンター』。インターネット通販の商品を蓄え、顧客に発送する倉庫だ。2014年の開設で、家電や日用品等嵩張る商品を扱う。アメフトの競技場28個分と広い。1000人以上が働くが、欠かせないのが数百台のロボットだ。商品が積まれた重い棚を必要な時、必要な場所に自動で運ぶ。棚の商品を出し入れする従業員は、倉庫内を歩き回らずに済む。自動化されたFCは世界に25あり、計8万台のロボットが稼働する。人と機械のコラボで大量の商品を捌き、通販の“早い・安い”を支える。規模の経済を生かすのは、看板事業になったクラウドサービスも同じ。世界にデータセンターを設け、企業や公的機関といった顧客にインターネットでIT(情報技術)を届ける。2016年の売上高は120億ドルを超えた。「これまでに61回値下げした」とワーナー・ボーガスCTOは語る。巨大でも、鈍重ではいけない。創業者のジェフ・ベゾスCEOは4月、株主に宛てた手紙にこう書いた。「大組織の内部に、どうデイワン(※1日目)の活力を保つか」。大企業の地位に安住することを戒める。その姿勢は、原点の書籍販売によく表れている。膨大な品揃えができるオンライン書店を開いたのは1955年。2007年には電子書籍端末を開発し、60秒で好きな本が手に入る仕組みを作った。デジタル技術で出版業界の風景を一変させたが、Amazonは止まらない。今度はリアル書店。インターネット販売で得たデータを基に、厳選した本を売る。1号店はシアトルにある。音楽が静かに流れる店内では、表紙が見えるよう本が並ぶ。場所を取るが、顧客に本との触れ合いを促す工夫という。同社が誕生した1990年代半ば、起業家たちがアイデアを競うフロンティアはインターネット空間だった。今、あらゆるモノがインターネットに繋がるIoTやビッグデータ等の技術が進化し、腕を振るえる領域はリアル空間へと広がっている。ラッセル・グランディネティ上級副社長が話す。「顧客の期待はどんどん高まる。驚かせる発明を続けなければならない」。

例えば、2014年に売り出した『エコー』。話しかけて操作する人工知能(AI)スピーカーだ。成長市場と見込まれ、Appleも年内に追随する。「音声操作は大きく育つ。Amazonが競争を牽引している」。エコーで使えるソフトを開発するシアトルの技術者、エリック・オルソン氏は興奮する。勿論、Amazonも壁にぶつかる。3年前に発表したスマートフォンは不発に終わり、巨額の損失を出した。日本では通販の荷物急増と人手不足が重なり、宅配サービスの維持に支障をきたす。ライバルも強力だ。同じワシントン州のマイクロソフト。ソフトの巨人としてパソコン産業に君臨したのも今は昔で、足元ではハード分野を攻める。目の前に様々な映像を表示するメガネ型機器を独自に編み出し、働き方改革の道具として企業に売り込む。シリコンバレー勢のアルファベットは、自動運転の他、ITを駆使した医療を手がけ、とうに検索ビジネスの枠を超えている。Facebookも、頭に思い浮かべるだけで文章を入力できるコンピューターシステムの研究に着手した。型破りな発想はAmazonの専売特許とは言えないが、インターネットとリアルをまたにかけて事業革新を目論む“融通無碍さ”は目を引く。更に、難題もある。世界では、Amazonを含むITトップ5への風当たりが強い。膨大な顧客データを握る等して勢いづく姿に、規制当局が目を光らす。「競争を阻害する」と事業モデルやビジネス慣行に注文をつける例も目立つ。確かに、社会との共生無しに長期の成長は望めない。解はあるか? Amazonの本社地区があり、従業員3万人が働くシアトル中心部を改めて歩いてみる。事業拡大に伴う開発工事が進む中、既に30のAmazonビルが立ち並ぶ。通りに面した一等地にはレストランやコーヒー店等が入居し、賑わっているのに気付く。聞けば、地元企業をテナントとして招き入れ、その商売を側面支援しているのだという。「従業員が仕事に励む場所だけでなく、活気あるコミュニティーを作る」とジョン・シャートラー副社長。新設するビルの半分をホームレスの住居に充てることも決めた。未だ局地的な動きではある。だが、自社の繁栄を地域と分け合い、社会を置き去りにしない取り組みは、ライバルより一歩踏み込んでいるようにみえる。成熟し、落ち着いたデイツー(※2日目)企業になれば、血行が滞り、死が訪れる――。それに徹底して抗うのがベゾス流。最早、Amazonを小売業者やインターネット大手と呼んでもピンとこない。名付けるなら“実験会社”か。斬新な試みを絶やさない経営。それが時代を味方に付ける条件だ。 (本社コメンテーター 村山恵一)


⦿日本経済新聞 2017年6月16日付掲載⦿
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