白人富裕層、地域から“独立”――全米で拡大続ける所得格差、“再分配政策”が逆効果齎す

ジョージア州アトランタ近郊で、所得の再分配に反対する白人富裕層が、カウンティー(郡)から“独立”して市を設立する動きが広がっている。富裕層が抜けた郡は財政難に陥り、取り残された黒人住民も、地域の再生を目指して市を設立。人種構成が著しく偏った自治体が相次いで誕生し、地域の分断が深まっている。 (取材・文・写真/国際部 笹子美奈子)

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庭に噴水、天井の高い玄関に聳えるコロニアル様式の支柱。アトランタ北郊のサンディスプリングス市(※人口約10万人)には、豪邸が立ち並ぶ。医者・弁護士・経営者等の富裕層が多く暮らす同市は近年、全米の住みたい都市ランキングの上位に入り、至るところで高級住宅の建設が進む。富裕層を引き付けるのは 治安の良さと質の高い住民サービスだ。夜道は街灯で明るく照らされ、ジョギングや犬の散歩をする住民が行き交う。救急車は通報から60秒以内に現場に向かう。交差点に設置された監視カメラを通じて、渋滞情報が配信される。安全・安心で快適な暮らしがそこにある。同市では官民パートナーシップ(PPP)を積極的に導入している。可能な限り業務を民間企業に委託して、職員数を最小限に抑えてコストを削減し、住民ニーズの高い分野に注力する。効率的な行政運営が、質の高い住民サービスを可能にしているのだ。「市民はサービスに対してお金を払っている。PPPの下、市民は顧客のように扱われる」。ラスティー・ポール市長はこう語る。治安の良さと充実したインフラ(社会基盤)を求め、大企業も続々と同市に拠点を開設している。宅配大手の『ユナイテッドパーセルサービス』や電子決済処理大手の『ファーストデータ』等、アメリカの経済誌『フォーチュン』上位500社の内、4社が同市に拠点を構える。同市が位置するフルトン郡は、北部に裕福な白人が多く暮らす一方、南部は生活が厳しい黒人の住民が大半を占め、“南北問題”を抱えている。高額の税金を払いながら、貧困層にその多くが使われることに不満を持つ白人富裕層が住民運動を起こし、同市は2005年に郡から“独立”した。住民の約6割が白人だ。「我々の地域には10万人の住民がいるのに、当番の警察官は4人だけ。酷いサービスだった」。住民運動のリーダーの1人であるオリバー・ポーターさん(80)は当時を振り返り、「所得の再分配は良い結果を齎さない。低所得者が貧困から抜け出し、高所得者が生産性を高める動機付けを同時に奪ってしまう」と話す。

同市の成功に刺激され、周近地域の白人富裕層が相次いで市を設立。2005~2016年までに近隣2郡を含め、住民の過半数が白人の市が8市誕生した。新市誕生の背景には、白人富裕層を支持基盤とする共和党と、黒人やヒスパニック等が支持する民主党の対立がある。黒人公民権運動を率いたマーティン・ルーサー・キング牧師の出身地である同州議会では長年、民主党が多数派を占めてきた。2004年に共和党が与党になり、それまで承認されなかった新市設立法案が可決されたのだ。富裕層が去ったフルトン郡の財政は悪化し、警察の予算は4割削減。警察官の教は、367人から196人に減らされた。適正な警察官数は住民1000人につき2.6人のところ、約半分の1.4人という水準だ。強盗や麻薬犯罪が昼復絶えず、治安は一向に改善されない。「強盗に遭って警察を呼んだら、到着まで45分かかった。北部の市は6~7分で来るのに」。同郡南部在住のアフリカ系住民で、理容師のガブリエル・ウェアさん(46)は不満を募らせる。企業の投資対象は治安の良い北部に集中し、南北格差は広がる一方だ。「北部の市が抜け、この10年で3億がドル(約340億円)の税収を失った。このままでは住民サービスはもっと悪くなる」。先行きを不安視した南部の住民は、自治を求めて住民運動を始めた。フルトン、デカルブ両郡で、昨年11月の住民投票の結果、黒人が人口の約9割を占める市が相次いで誕生。他の地域でも、“独立”に向けて住民運動が行われている。同州最大の人口102万人を抱えるフルトン郡や、74万人のテカルブ郡では、産業が乏しい南部は埋没し、経済開発から取り残されてきた。「市になれば、住民自らの手で条例を作り、都市計画を策定できる。政府がより身近になれば、住民ニーズを行政に反映させられる」。ウェアさんは新市の行政に希望を繋ぐ。しかし、新市の前途は多難だ。家計の年間所得の中央値は、サンディスプリングス市が約7万1000ドル(約790万円)なのに対し、フルトン郡の新市は約5万1200ドル(約570万円)。貧困率は約16%に上る。貧困層と中間層からの税金で財政を賄えるのか、自治体関係者は懸念を示す。財政破綻の可能性も指摘され、経済開発どころか、存続すら危ぶむ声もある。デカルブ郡での新市設立の住民運動に反対するエド・ウィリアムズさんは、「市を作っても雇用が生まれる訳ではないし、結局は税金を上げるしかない。経済開発の為には別の選択肢を模索するべきだ」と訴える。

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■格差、全米で拡大
アメリカでは、高所得者層と中低所得者層との経済格差が拡大している。『国勢調査局』によると、2015年の家計の年間所得の中央値(※所得の多い順に並べた時の真ん中の人の額)は、上位5%層が1967年比で82%増えたのに対し、下位10%層は32%増に留まっている。人種間の格差も鮮明で、白人層の中央値(約6万3000ドル)と黒人層(約3万6900ドル)の間で、約1.7倍の所得格差がある。格差拡大の要因とされるのが、ジョージ・W・プッシュ政権による富裕層に手厚い減税政策だ。2001年以降、1兆8900億ドル(約210兆円)に上る大規模な個人所得税と法人税の減税が行われ、富裕層の資産形成が加速した。富裕層は所得の再分配に反対し、事実上、貧困層を排除した自治体の結成を目指す動きが、フロリダ、カリフォルニア、テキサス州等各地で起きている。ジョージア州立大学のキャサリン・ウィロビー教授は、「ブッシュ政権以降、アメリカではイデオロギーの分断が深まっている」と分析する。シカゴ、ニューヨーク、ロサンゼルス等大都市でも、居住地域が富裕層と貧困層で分断され、二極化が進んでいる。黒人やヒスパニックが暮らす地域の多くは、高い犯罪発生率・低い教育水準・地価停滞の悪循環が続き、開発から取り残されたままだ。ハーバード大学のロバート・サンプソン教授らがシカゴで行った研究によると、黒人が4割以上の地域では再開発が頓挫しており、地域の人種構成が経済開発に大きく影響しているという。


⦿読売新聞 2017年7月7日付掲載⦿

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