ドイツ連邦軍に広がる“ナチズム”、社会不安と外交に深刻な影響――“標的リスト”に多くの要人、徴兵制廃止で過激分子が急増

20170720 03
ドイツ連邦軍にナチス時代への信奉が広がっていることがわかり、アンゲラ・メルケル政権を震撼させている。中には、“シリア難民”に偽装して、政府首脳を暗殺した上、犯行を難民の仕業に見せかけるという悪質な陰謀も発覚した。軍内では300人近くの兵士・将校が捜査対象になっている。今年1月下旬、ウィーン国際空港の身体障害者用トイレで、空港職員がピストル『ワルサーPPK』1丁を発見した。これが全ての始まりだった。ピストルはセミオートマチックで、殺傷力が高い。空港の警備当局者は「訓練を受けたテロリストが隠した」と睨み、ピストルを元の隠し場所に戻した上、小型の警報機を敷設した。読みは的中した。数日後、若いドイツ人がピストルを取り出そうとしたところを、警備員が囲んだ。男は、「偶然見つけた。自分の物ではない」と主張。警備当局は男の指紋を取り、釈放した。軈て、ドイツ側から奇妙な打ち返しがあった。「指紋がヒットした。その男はシリアのアレッポ郊外からバイエルン州に到着し、既に難民申請も受理されている」。男は“ダビ・バンジャマン”と名乗り、キリスト教徒で、イスラム過激派組織『IS(イスラミックステート)』の迫害を恐れてドイツに渡ったのだという。ここから、オーストリア警察・ドイツの連邦刑事局(BKA)・連邦移住難民局・軍事防諜機関(MAD)等、複数国の捜査機関多数を巻き込んだ大規模調査が始まった。当初は「シリア難民のテロ計画か?」と疑われた事件は、とんでもない真相を暴き出した。男の正体は、ドイツ人の“フランコ・A”(※姓は未発表)。フランスのアルザス地方の独仏合同旅団所属の独連邦軍中尉だった。2ヵ月以上の内偵後、BKAは4月下旬、男をバイエルン州で拘束した。

28歳のフランコは、100万人もの難民がドイツに押し寄せた一昨年12月、同州の難民施設を訪れ、「自分はシリア出身の難民だ」と名乗った。面接には、担当係官・連邦軍兵士・通訳のモロッコ系ドイツ住民が当たった。フランコが「俺はキリスト教徒で、フランス語ならわかる」と片言のフランス語で言うと、面接はフランス語に切り替わった。フランコは、一言のアラビア語も話さなかった。実際には全く話せなかったのだ。彼がでっち上げた話は、全面的に信用された。面接役の連邦軍兵士は、机の反対側にいるのが軍の同僚とは想像さえしなかった。フランコは同州内の難民施設に居住を振り当てられ、月額400ユーロ(約4万9000円)の支給を受けることも決まった。フランコは毎月律義に窓口に顔を出し、1年以上支給金を受け取っていた。捜査員たちが驚愕したのは、難民施設に居住しているとされた期間、フランコは一度も勤務地の点呼に遅刻しなかったことだ。難民施設からアルザスの兵舎まで、車で片道3時間以上かかる。難民施設で居住者チェックをしなかったのは明らかだった。フランコの逮捕から1週間。ドイツの捜査当局は更に、うんざりするような新事実を発見した。フランコはナチスのマニアで、所持品からは第2次世界大戦中のドイツ国防軍所縁の品々が発見された。しかも、同好仲間がおり、別の連邦軍兵士とドイツ人学生が拘束された。また、ウィーンにはピストルの所有者であるフランコの親友もいた。フランコはピストルを気に入って持ち帰ろうとしたが、「空港の保安検査を通過できない」と判断して、トイレに隠したのだった。標的リストも見つかった。捜査当局はヨアヒム・ガウク前大統領とハイコ・マース法務大臣の2人の名前しか公表していないが、リストには多くの実名がAランクからDランクまで重要度に応じて分類されていたという。「グループが本当に殺害するつもりだったのか。それとも敢行せずに、“難民による暗殺計画発覚”といった形で終わらせるつもりだったのか。容疑者が黙秘していて、依然として謎だ」と、ドイツ紙社会部記者は言う。何れの場合も、罪を“シリア人難民”に押し付ける計画だったのは間違いない。この陰謀計画以上に政治問題化したのは、戦後創設の連邦軍でナチス信奉者グループがいたことだ。トーマス・デメジエール内務大臣やウルズラ・フォン・デア・ライエン国防大臣は、ドイツ全土の兵舎や軍施設での徹底調査を余儀なくされた。先月までにわかったのは、2011年から今年4月の6年4ヵ月余りで、270人以上がナチスやアドルフ・ヒトラー、或いは当時の国防軍“崇拝”の疑いで調べられたこと。昨年は143件、今年は53件と、最近は“激増”と言える。

20170720 04
問題の行為は、“ハイルヒトラー”や“ジークハイル”といったナチス時代の敬礼や挨拶、更にヒトラーのポスターを兵舎内に貼っていたこと等。但し、ナチス礼賛は今もドイツで刑事訴追の対象だが、当時の国防軍を賞賛したり、その記念品を所蔵したりすること自体は犯罪扱いされていない。『ロンメル兵舎』等、当時の軍人の名を冠した施設も残っている。国防軍は、1944年のヒトラー暗殺未遂事件に多数が関わったこと等から、戦後は「ナチス政権下で抵抗勢力だった」とされていた。こうした大甘の歴史評価は、連邦軍創設時に元国防軍幹部が多数加わったことにも関係があった。新生ドイツ軍は、ナチスと“決別”したことを内外に印象付ける必要があったのである。『左派党』や『緑の党』等野党は、一連の調査を「手抜き」「隠蔽」と厳しく批判する。「『一斉調査をやる』と2週間前から公示したのでは、『それまでに片付けろ』と命令したのに等しい。政府が掴んだのは氷山の一角だ」と、左派党のクリスティーネ・ブーフホルツ下院議員は言う。国防軍やナチス崇拝が最近急増していることには、「徴兵制度が2011年に廃止されたことと関係がある」とする識者が多い。徴兵制の場合は、軍はドイツ社会の縮図になるが、志願兵の場合は、武器マニアを含め、人種差別主義者や排外主義者を引き付けるケースが多いという。軍事史家のミヒャエル・ヴォルフゾーン氏は、「過激分子の軍内の比率は、ドイツ社会全体とはかけ離れて高くなる」と指摘する。折から、ドイツ軍は『北大西洋条約機構(NATO)』や『ヨーロッパ連合(EU)』内で、「軍事的役割を高める」と国際公約をしたばかり。これまで自粛していた東欧への派兵も含め、「責任分担を増やす」と約束した。大喜びなのはロシアである。ロシアのマスコミや国際放送は連日、ナチズム浸透を詳細に伝えて、“ドイツ連邦軍=ヒトラーの後継”を印象付けようとしている。ドイツ軍で突如発覚した過去の亡霊は、軍を根底から揺さぶったばかりか、ドイツ外交にまで影響を与えている。


キャプチャ  2017年6月号掲載

スポンサーサイト

テーマ : 国際ニュース
ジャンル : ニュース

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接
QR码
QR