【イスラム国弱体化と世界】(上) 消えぬアラブの閉塞感

残虐な殺人を繰り返し、多数の難民を生み、憎悪を世界に振りまいた過激派組織『IS(イスラミックステート)』は、退潮が鮮明となった。だが、過激派を生み出したアラブの専制的な政治体制や、欧米でのイスラム信者への差別は残ったままだ。ISのイラク最大の拠点であるモスルの“解放”は宣言されたが、世界はテロの脅威に引き続き向き合う。

20170720 05
イラク人のタクシー運転手であるアブー・アメルさん(27)は、2013年の終わりにISに参加した。「皆が幸福に暮らし、平等に扱われる」と友人に勧誘されたのだ。3ヵ月の訓練で戦闘員になれ、800ドル(約9万1000円)から1000ドルの月給を受け取れた。戦闘員として、中部のファルージャ等での戦闘に参加。幹部にも直接会える立場にいたという。「多くの部下に命令を下せるようになった。『何て素晴らしいんだ』と思った」という。勿論、ISの実態は理想郷とは程遠い。同胞の殺害を命じられるようになったアメルさんは、脱走の機会を窺った。イラク軍がファルージャをISから奪還した際に逃れ、今はヨルダンで暮らす。極悪非道のテロ組織にどうして数万人もの人々が志願して参加したのかは、外から見ると理解に苦しむ。しかし、貧困・格差・差別・失業等の閉塞に直面するアラブの人々に、ISが国家とは別の解決策を提示したのは確かだ。

「アラブの独裁国家ではなく、平等や繁栄、民主的な“カリフ国家”を我々は選ぶ」。イラク軍に捉えられたIS戦闘員がこう叫ぶ姿を、中東メディアが報じた。縁故主義が蔓延る祖国と違い、ISの評価や報酬は徹底した実力主義とされる。グロテスクで過激な解釈ではあったにせよ、“透明な法の支配”もあった。ISを生んだ背景には、様々な説明がある。ジョージ・W・ブッシュ政権のイラク戦後統治の失敗、バラク・オバマ政権の無関心、100年前のヨーロッパ列強の人工的な国境線等だ。だが、ISに参加した人々の証言から浮かび上がるのは、アラブ社会自らが抱える閉塞だ。モロッコの政治評論家であるムラド・ベニシ氏は、「テロリストをいくら拘束したり殺害したりしても、問題の根本的な解決にはならない」と指摘する。「平等や民主主義を阻害するアラブの専制的な政治体制こそが、過激主義を生んできた」からだ。シリアのアサド政権は、反体制派を徹底して弾圧し、体制を維持しようとしている。同政権ほど極端ではないにしても、アラブ諸国の多くは民主化や経済改革ではなく、古い権威主義の手法で安定を維持しようとしている。事実上のクーデターで生まれたエジプトのシシ政権は、モルシ前政権を支えたイスラム主義組織『ムスリム同胞団』をテロリストとして敵視する。メディアや非政府組織(NGO)への締め付けも強める。サウジアラビアで異例の権力を手にした実力者のムハンマド・ビン・サルマーン皇太子は、野心的な経済の改革プランを進めるが、女性の権利向上等民主化のペースは極めて遅い。多くのアラブの若者たちが、現状への不満を表明する合法的な道は塞がれたままだ。


⦿日本経済新聞 2017年7月11日付掲載⦿
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