【イスラム国弱体化と世界】(下) 欧州、社会分断の影

20170720 06
シリアのアレッポ出身のバッセルさん(35)は、難民として渡ったフランスでの経験が忘れられない。内戦が続く故郷を逃れ、2012年、決死の覚悟でトルコから地中海を渡った。だが、待ち受けていたのは厳しい現実だった。「本当に難民なのか?」「過激派の一味ではないのか?」――いわれのない疑いをかけられ、シリアに強制送還された。「同じように受け入れを拒まれた若者の一部は、国に送還され、過激派組織のアルカイダやIS(イスラミックステート)に加わった。皆、ヨーロッパに失望した」と語る。「人権や民主主義といったヨーロッパの理想は、自分たちイスラム教徒には適用されないのだ」と感じた。ヨーロッパの極右政党等は、“反イスラム”や“反移民”の言動で支持者を増やそうとしている。「移民よりももっと大切なのが、フランスを守ることだ」。フランスの極右政党『国民戦線』のマリーヌ・ル・ペン党首は、同国の大統領選の最中、パリで開いた支援者集会でこんなスピーチをした。だが、こうした社会の分断こそがISの養分だった。ヨーロッパ各国で相次ぐテロで典型的な実行犯は、差別を受ける中東系の移民だった。貧困層に生まれた移民の2世や3世の若者が社会に溶け込めず、過激化した。

フランス南部のニームにある短期受刑者向けの刑務所。墓地の隣に、高さ7mほどのコンクリートで囲まれた大きな敷地にある。じっとり湿った広さ4畳半程度の雑居房には3人が入り、1日2時間程の運動時間以外は一緒に過ごすという。パリ同時テロやブリュッセル連続テロでは、実行犯の多くが刑務所内で過激化したとみられた。刑務所の実態は、ヨーロッパ社会の統合の失敗を映す。過剰収容の施設で更生を担うのは、主にキリスト教の聖職者だ。正しいコーランの教えを説くイマーム(イスラム聖職者)は極めて少ない。イスラム教徒の受刑者は、ヨーロッパ社会に定着するどころか、敵意を膨らませて出所しかねない。社会で差別に直面する元受刑者は、過激組織以外の居場所を失う。アメリカでは、ドナルド・トランプ大統領の選挙期間中の移民やイスラム教徒への差別発言がきっかけとなり、反イスラムの憎悪犯罪が増えた。アメリカのイスラム系団体の調査によると、昨年のアメリカでの反イスラム犯罪は、前年比57%増の2213件に上った。差別や疎外は現実社会だけの問題でない。ISが新たに広げた対テロの重要な戦線は、サイバー空間にある。「業界としてやるべきことが未だあることは認めざるを得ない」。大手IT企業『Google』のケント・ウオーカー上級副社長(法務担当)は語る。「過激思想の拡散の温床になっている」と批判を浴びる同社や『Facebook』等IT大手は、人工知能(AI)の活用や、外部の専門家との連携を柱としたテロ対策の強化に動く。IS支持等の投稿は発見し次第、削除してきた。だが、テロ事件が相次ぐヨーロッパを中心に、一段の取り組みを求める声が高まっている。政治家や企業が一体となって、社会の分断の修復を急がなければ、ISが世界にばらまいた過激主義の恐怖は消えない。

               ◇

岐部秀光・小川義也・飛田雅則・白石透冴が担当しました。


⦿日本経済新聞 2017年7月12日付掲載⦿
スポンサーサイト

テーマ : 国際ニュース
ジャンル : ニュース

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接
QR码
QR