【ヘンな食べ物】(46) 謎の爆発ナマズ料理

ナマズというのは滑稽な魚だ。ヘンな髭が生えていて、「地震を起こす」等という古い伝説も畏怖の念とは無縁、単に漫画のネタにされているだけ。食べたり飼ったりする人もあまりいない。昔は全国で普通に食されていたらしいが、田圃で農薬が使われ、河川がコンクリートで固められたりすると、数が激減。更に、全国で流通が発達し、内陸部でも海の魚が圧倒的にポピュラーになると、どうしても川魚は「泥臭い」と敬遠されてしまう。かといって、ウナギのようなプレミア感は無い。大体、ナマズ食における最大の障壁が「共食いをするので養殖できない」というのだから、それも間抜けだ。現在では、群馬県板倉町等で細々と、郷土料理としてナマズの天ぷら等が食されている程度である。しかし、東南アジアでは状況は全く異なる。タイでもミャンマーでもベトナムでも、伝統的には魚といえば海魚より淡水魚だ。熱帯雨林気候帯をゆったり流れるメコン川・チャオプラヤー川・イラワジ川には、ナマズがわさわさ棲んでおり、未だに養殖の必要などない。滑稽なイメージも無く、寧ろ“魚界のスタープレーヤー”と呼んでもいいほど。当然、ナマズ料理も盛ん。例えば、ミャンマーの国民的な麺料理『モヒンガー』は、ナマズで出汁を取ったものが“本物”とされている。タイではどうか? ナマズの唐揚げ・炭火焼き・燻製等色々あるが、一番有名なナマズ料理は『ヤムプラードックフー』だろう。これは凄く美味しくて私の好物だが、とても風変わりな料理でもある。タイ語で“ヤム”は“和え物”若しくは“サラダ”、“プラードック”は“ナマズ”、そして“フー”は“サクサクした”とか“ふわふわした”という擬態語である。

つまり、直訳すれば“ナマズのサクサクサラダ”にでもなるだろうが、棒々鶏サラダみたいなものを想像すると全くの的外れになる。これはサラダでありながら、魚のフライ料理でもあるのだ。体長約30㎝ほどのナマズが、素揚げの状態でドーンと出てくる。頭も尻尾も食べられる。だが、それはあくまでオマケ。メインは身の部分で、これはまるでたぬきうどんの天かすのような粒状になっている。この粒1つひとつがナマズの肉なのだ。店によっては、これがくっ付いてかき揚げ状になっていることもある。どうして、こんな状態になるのかわからない。私は密かに“爆発ナマズ”と呼んでいるが、あまりに頭が悪そうなネーミングなので人に言ったことはない。更に、その爆発肉部分には甘酸っぱいタレがとろっとかかっている。一見、甘酢あんかけ風だが、香りも味も明らかに中華ではなく、タイ料理のそれである。このヘンテコな料理は、タイではポピュラーながら、日本のタイ料理店のメニューでは一度もお目にかかったことがなかった。なので、本欄の担当編集者・Y氏から「大久保にナマズ料理を出す店がありますよ」と連絡を貰い、しかもそれがヤムプラードックフーであることを発見して、ちょっと興奮してしまった。早速、取材のアポイントを取り、『バーン・タム』というその店に行ってみた。シェフのタムさんは、日本のタイ料理好きの間で“スターシェフ”と呼ばれる存在とのことで、店にも彼の巨大な顔写真が貼られ、まるで芸能人のレストランのよう。しかし、本人は浮ついたところの無い本物の料理人だった。2畳くらいしかない狭いキッチンの中を、助手である甥っ子と2人でくるくると動き回り、複雑な作業を、驚くほどの速さで熟していった。


高野秀行(たかの・ひでゆき) ノンフィクション作家。1966年、東京都生まれ。早稲田大学第1文学部仏文科卒。『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)・『アジア未知動物紀行』(講談社文庫)・『世界のシワに夢を見ろ!』(小学館文庫)等著書多数。


キャプチャ  2017年7月20日号掲載
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