【誰の味方でもありません】(11) お年玉も割り勘もキャッシュレス上海

上海に行ってきた。2010年に開催された万博以来、年に何度かのペースで訪れてきた好きな街だ。上海へ行くと、日本には訪れなかった未来を体感できる。特に浦東新区では、高さ492mの『上海ヒルズ』を筆頭に、超高層ビルが軒を連ねている。2016年には、『上海中心』という地上高632mのビルも竣工した。見上げて、あまりの高さにびっくりしてしまう。その姿は完全に、東京という田舎から来たお上りさんである。お上りさんといえば、万博跡地にできた『現代美術館』に行った時のことだ。受付でチケットを買う為、現金を出そうとしたら、まるで原始人を見るような目で、「オンラインで決済してもらうか、電子マネーじゃないと困るよ」と言われた。言われてみれば、確かに来館者は人口付近に設置されたマシーンにスマートフォンを翳して、チケットを手に入れている。噂は本当だったのか。感慨深く、僕はその光景を眺めていた。噂というのは、最近の中国がすっかりキャッシュレス社会になったというものだ。例えば、評論家の近藤大介さんが『現代ビジネス』で書いた記事では、次のような中国人の声が紹介されている。「私は現金を使うなんて、20世紀の映画かドラマの世界のことと思っていました」。中国のキャッシュレス社会に慣れた立場からすると、東京は完全に“20世紀の世界”に見えるというのだ。

確かに、上海も電子マネー社会になっていた。レストランやコンビニ、果ては屋台でも、現地の人々はスマホで決済をしている。偽札を掴まされる心配がないし、スタッフに現金を持ち逃げされる心配がないことも、普及を後押ししたらしい。お年玉や割り勘も、電子マネーでのやり取りが珍しくないという。まるで『LINE』のメッセージを送る感覚で、送金ができてしまうのだ。財布も持たずに、スマホ1台で街に出かける若者も増えている(※一応、現金が全く使えない訳ではない)。僕の留学していたノルウェーでも、クレジットカードやデビットカードの電子決済が当たり前だった。最近では、現金の廃止も真剣に検討されている。政府が現金を廃止したいのは、お金の流れを監視したいから。全てが電子決済になれば、脱税も難しくなるし、闇経済は壊滅的なダメージを受ける。中国が電子マネー化を進めたのにも、同じような思惑があるのだろう。翻って日本。『Suica』や『PASMO』は普及しつつあるが、中国や北欧に比べれば圧倒的な電子マネー後進国だ。それは、「お金のやり取りをお上に管理されたくない」という潜在的な意識が関係しているのだろう。『住基ネット』や『マイナンバー』等、日本は国家による国民の管理に敏感な国だ(※『Tポイント』カードにはあんなに進んで情報を差し出しているのにね。企業のことは何となく信頼しているらしい)。個人的には、監視社会の議論とは関係なく、一刻も早く現金を廃止してほしいと思っている。現金ほど衛生的に汚いものもないからだ。


古市憲寿(ふるいち・のりとし) 社会学者。1985年、東京都生まれ。東京大学大学院博士課程在籍。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。著書に『希望難民ご一行様 ピースボートと“承認の共同体”幻想』(光文社新書)・『絶望の国の幸福な若者たち』『誰も戦争を教えてくれなかった』(共に講談社)等。近著に『大田舎・東京 都バスから見つけた日本』(文藝春秋)。


キャプチャ  2017年7月20日号掲載
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