【東京情報】 夏休みは誰のもの

【東京発】アルバイトの小暮君が、大学の夏休みを利用してドイツに行くという。「すいません。その間、アルバイトは休ませて頂きますが、代わりを見つけておきます」。ドイツの学校の夏休みは、日本と同じくらい長い。バーデン=ヴュルテンベルク州は、7月27日~9月9日と40日以上ある。ベルリン州は7月20日~9月1日、ザクセン州は6月26日~8月4日となっている。ドイツは計画的な国なので、毎年、夏休みのスケジュールを公表しているのだ。小暮君が新聞のコピーを配った。「日本の一部の自治体で、夏休みを短くしようとする動きがあるようです。静岡県吉田町は、来年度から町立の全小中学校で、24日間の夏休みを15日間程度に、計33日間の冬・春休みを25日間程度に短縮する方針を決めたそうです。その分、1日当たりの授業時間を短くし、1年間の授業時間を平準化すると言うのですが、どうなんでしょう?」。事務所に来ていた先輩ジャーナリストのY氏が首を捻る。「愚策もいいところだな。『残業時間を大幅に減らし、授業の準備時間を十分に確保することで、質の高い授業を展開できる』と説明しているそうだが、これでは教員の負担が重くなるだけではないか」。確かに、補習や部活動の為、夏休み中も教員は学校に出てこなければならない。それでも2学期の授業の準備をする等、気分的にも充電することができる。教員にとっても夏休みは重要なのだ。小暮君が頷く。「この決定に対し、『唐突過ぎる』と保護者が不満の声を上げたそうです。夏休みは地元スポーツクラブの活動があったり、親子が触れ合う絶好の機会でもあります。子供だって夏休みが短くなるのは嫌でしょう」。

塾の夏期講習に通うのもいいが、子供はもっと外で遊んだほうがいい。家族旅行に行ったり、友人と遠出をすることで、学べるものは沢山ある。夏休みは精神の成長の時期、自立の時期だ。普段閉じ込められている学校から解放され、自分と向き合う時間も取ることができる。大人の勝手な事情で、その機会を奪い取るべきではない。Y氏が目を瞑る。「私が通った小学校は、国民学校と言ってね。これはドイツのフォルクスシューレ(国民学校)に倣ったものだ。まぁ、ナチスドイツの真似事だな。私は制空鍛錬班という部活に所属していて、“ラバウル小唄”を歌うようなバリバリの軍国少年だった。〽さらばラバウルよ また来るまでは しばし別れ 涙がにじむ――とはいえ、跳び箱や逆立ちをしたりと、身体を鍛えるだけの部活で、何が“制空”なのかは結局わからなかったが…」。小暮君が笑う。「日本の夏休みも、明治離新の際に欧米の学校制度をそのまま持ち込んだものですね。昔の寺子屋は基本的に365日開いており、子供たちは毎日勉強していました。武士は毎日、午前中は鍛錬に励み、午後は自由に過ごすのが基本スタイルでした。そう考えると、元々日本人には、西欧のように長期間纏まった休暇を取るという発想は無かったのだと思います。今でも、日本には『休暇は怠けることだ』と考える風潮がありますね」。西欧の夏休みが長い理由の1つは、7~8月が学年の切れ目だからだ。9月入学で6月に進級や卒業があるのが一般的なので、西欧の夏休みは日本の春休みのようなものだ。夏休みが2ヵ月以上になる代わりに、他の長期休暇は10日間程度のクリスマス休暇しかない。また、北ヨーロッパは日照時間が少ない。だから、夏の間はバカンスに出かけ、ビーチで日の光を十分に浴びる必要がある。こうして西欧には、夏休みを大切にする文化ができた。

小暮君が言う。「アルベール・カミュの戯曲“誤解”は、ヨーロッパの暗い村が舞台です。旅館を営む母娘が次々に客を殺して金品を奪い、遺体を近くの川に捨てるという暗い話ですが、娘がお金を貯める理由が『アフリカで太陽の光を浴びたい』からなんです。ある時、娘がいつものように客の男を殺して、所持品を調べるとパスポートが出てきた。それを見て、家出した兄であることに気付きます。兄は家出後にアフリカに行き、日焼けして健康的になり、以前とは別人のようになっていた。それで娘は発狂し、母親は自殺してしまうのです」。西欧人にとって、太陽の光は重要な意味を持つ。ドイツ、オーストリア、スイス、フランスといった国々で夏休みを短縮したら、子供より保護者が怒るだろう。彼らは1年前、早ければ2年前から、夏休みの計画を綿密に立てている。その根底には、「夏体みは侵すべからざる権利である」という意識がある。Y氏が微笑む。「そういう意味では、日本は太陽の光に恵まれている。戦争が終わったのは私が国民学校5年生の時だが、夏休みにサツマイモを植えたんだ。食糧不足が続いたので、茎や蔓、後に残った栄養の無い種芋まで食べた。私が住んでいた奈良県は空襲が少なかったので、都会の子供たちが疎開に来てね。12畳の旅館の一室に15人ほどが詰め込まれて可哀想だったな」。小暮君が溜め息を吐く。「酷い時代だったんですね…」。Y氏は暫く考え込み、口を開いた。「それでも今から思い返すと、軍国主義教育は悪くなかった。夏休みに規律意識を教えてくれたし、運動で体力もついた。勿論、それ以外の時間は遊び呆けたな。川でザリガニ釣りをやったり、山でとんぼ釣りをやったり。布や紙で石を包み、凧糸に繋げ、とんぼ目がけて投げるんだ。“蜻蛉釣り 今日は何処まで 行ったやら”という句もあるくらいだ。少年時代には、そういった体験が必要だと思う」。私も子供の頃、夏休みに友人と山に登ったが、その時の記憶は鮮烈だ。そういえば昨年の夏、パリのレストランに行くと、“今月は休暇中”との札がかかっていた。別のレストランに電話をしたが、そこも1ヵ月の休暇中だった。夏休みを蔑ろにする日本とは気合いが違うのだ。 (『S・P・I』特派員 ヤン・デンマン)


キャプチャ  2017年7月20日号掲載

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