【東京五輪後の地方経済を読み解く】(09) 政治家から見た“平成の大合併”…時代に合わせて基礎自治体は変化する

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総務省は例年、各地方公共団体に対する普通交付税の算定結果を発表している。普通交付税とは、所謂“地方交付税”のこと。独自財源だけでは財政力が乏しい自治体に対し、国が求める水準の行政サービスに極端な地域差が出ないよう、国が毎年配分するものだ。その結果によれば、2016年度は都道府県分が8兆5593億円、市町村分が7兆1390億円で、合計15兆6983億円だったという。ここで注目すべきは、国から地方交付税を受けず、独自財源で運営できる自治体の数を示す“不交付団体数”(※図1)だ。47都道府県では東京都だけが不交付団体で、1718の市町村の内、76団体だけが不交付団体となっている。逆に言えば、95%以上の自治体においては、地方交付税が無ければ運営がままならないことを示しているのだ。このことについて、埼玉県狭山市長から衆議院議員(自民党)となり、第1次安倍内閣で総務副大臣や内閣官房副長官等の要職を歴任した、地方行政に詳しい大野松茂氏は、「不交付団体は勲章のようなもの」と表現する。一度、不交付団体に認定されれば、その自治体が財政的に潤っているという認定を受ける為、箔が付くからだ。団体数の推移を見ると、1980年代のバブル期には、最高で193もの不交付団体が存在していた。バブル崩壊後の“失われた20年”で、不交付団体数は一時は65まで下がったが、2007年前後の不動産プチバブルで再び142まで上昇。その直後、リーマンショックで42まで激減してしまった。つまり、景気動向と不交付団体数が密接にリンクしていることが窺える。

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不交付団体になる為には、税収を増やさなければならない。「(市町村のレベルでは)企業誘致で法人住民税収を増やすか、大型再開発や区画整理事業を手掛けたり、高級住宅の建設等で地価を上げて固定資産税収を増やす必要がある」(大野氏)。例えば、愛知県で不交付団体が多いのは『トヨタ自動車』の関連工場がある為と見られ、福岡県菊田町にもトヨタや『日産自動車』の工場がある。事実、大野氏が市長を務めた狭山市には製造工場が多く、中でも『本田技研工業』の企業城下町として知られ、同社狭山工場を安定財源として長らく不交付団体だったという歴史がある。2007年には法人住民税が過去最高の58億円を記録していたが、2011年度には16億円まで減少。この間の2010年度に交付団体となってしまった経緯がある。「製造業は、ちょっと輸出が落ちると企業の法人税がドンと減ってしまう」(同)からだ。また、不交付団体に原子力発電所の立地自治体が多いのも特徴的。高額の固定資産税が転がり込んでくるからだ。更に、電源三法(電源開発促進税法・特別会計に関する法律・発電用施設周辺地域整備法)という法律により、電力会社は発電量に応じて電源開発促進税を国に納付。この税金が特別会計に組み込まれ、発電所等の関連施設の立地、及び周辺市町村に対して、財源として充てられる仕組みなのだ。明治から平成にかけて、自治体は大小様々な合併を繰り返し、7万1314から1718まで大きく減少していった。嘗て、合併の動きに大きなインパクトを与えたのは学校造りだ。江戸時代までは寺院や神社を借りたり、財力のある人が自分の屋敷で教育していたが、明治時代に入って、新しい教育制度の為に条件を整えた小学校が必要だった。

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「それまでの字単位では財力が足りないから、新しい村を創った。戦後も同じ。(GHQの要求で)新制中学が作られることになったが、当時の村単位では作る財力が無く、最初は小学校を間借りしていたほど。教育の在り方が合併の枠組みを作っていったと言っても過言ではない」(大野氏)。教育を充実させる為には財源が必要だ。更に、福祉サービスの向上も求められる。その時代の要請に合わせて、基礎自治体は合併を繰り返し、自らを強化してきた。ここまでは経済が右肩上がりだった時代の話。経済が伸び悩むようになっても、時代の要請はより悩ましいものが増えるのだ。「私が市長をしていた頃は、学校といえば新設が議論されていましたが、現在は耐震補強に改修や補修等の更新が議論されています。更新が必要なのは学校だけでなく、昭和40年代以降の水道・下水道・市役所に市民会館等です」(同)。自治体はこうした問題に、限られた財源の中で対応をしていかなければならない。「福祉サービスも、老人福祉や健康保険等も、これまでのサービス水準を維持するには、市町村レベルの財源では対応ができない。より強い基礎自治体が求められる」(同)。それまでの自治体では、人件費の比率が高く、新たな挑戦もできなかったという。「合併することで共通の経費が削減できる等、合併の一定の成果も上がっています。合併を検討する際に、自治体其々の課題も見えてきた。高齢者人口が増える中で、高いレベルの老人福祉はどこまで維持できるのか? 子供への医療費サービスは、自治体間でそこまで競争をするのか?――自治体のあるべき姿を議論していく中で、『更なる合併が必要だ』と考える自治体も出てくるのではないしょうか」(同)。これからの首長や議会は、薔薇色の夢だけを語るのではなく、少子高齢化の厳しい時代の中での課題を市民に提示して、解決するプロセスを議論していくことが求められるようになる。

実は、市町村合併の裏で、町村単位で存在していた農協では、市に一本化される等の合併も進み、更なる広域での合併が進んでいる。「組織の体力を強くしなければ、組合員の農家に対するサービスが十分にできない」という背景がある。だが一方で、「これまで農協が行っていた地域のイベントが減り、合併により農業が担っていた地域との繋がりが弱くなった」(地方建設業者)という意見もある。「農協もそこは重々承知しており、旧コミュニティーでイベントをやろうとしている」(大野氏)。農業の衰退に歩調を合わせて、農協とは別の組織である農業共済(NOSAI)制度も変化している。これは、農家が掛け金を出し合って共同準備財産を作り、災害発生時に共済金の支払いを受けて農業経営を守る、農家の相互扶助を基本とした“共済保険”の制度だ。例えば、埼玉県では2016年10月、“1県1組合化”が決定した。2002年に『埼玉県農業共済組合長会』会長を務めていた大野氏は、「嘗ては各村・各郡に其々組合があった。入間郡にも南部・東部・北部の農業共済組合があったが、合併して入間共済組合となった。それでも対応できない為、郡域を越えて埼玉中部・東部・北部の県下3つに集約されたが、時代を乗り切れないということで、埼玉県で1つにすることにした」と、その経緯を語る。背景には、生産農家を守る組織たる『全農』に対し、「本当に農産物を高く売る努力をしているのか?」「手数料だけ取って上層部だけ儲かっているのではないか?」という農家の疑心や反発がある。「昔と違い、今は『農業資材等を安く買いたい』と思えば、園芸センターやホームセンターに行ったほうが安い時代になった」ことも、農協や農業共済の合併の背景にあると大野氏は推測する。安倍政権が地方再生の目玉政策として掲げるのが“地方創生”だ。その源流は、大野氏が自民党総務部会長だった時代に遡る。大野氏は、後に菅義偉総務大臣(※当時)の下で副大臣を務めることになったが、『頑張る地方応援プログラム』を作成し、全国自治体を回った。前向きに取り組む地方公共団体に対し、3000億円程度の地方交付税等の支援措置を講じるもので、2007年度から3年間、プロジェクトが募集された。「これが今の地方創生に繋がっている」(大野氏)。同じ頃、大野氏は『ふるさと納税』にも取り組んだ。個人住民税の制度で、国内の任意の地方自治体に寄付することができ、ほぼ全額が税額控除されるというものだ。故郷の自治体から医療や教育等様々な住民サービスを受けて育った人が、進学や就職を機に都会に移り、そこで納税する結果、都会は税収を得られるが、故郷には税収が入らず、結果的に中央と地方の格差が生まれてしまう。それを是正するのが目的だ。ふるさと納税創設に当たって陣頭指揮を執ったのが菅氏だ。実は、この制度ができる以前、2001年に成立した小泉純一郎内閣の下、国から地方への補助金の削減・地方交付金の削減・国から地方への財源移譲を目指す“三位一体の改革”が進められていた。地方の自立を促すのが目的だったが、特に財源移譲が中々進まず、地方財政は却って苦しくなった。こうした状況を受け、菅氏がふるさと納税の創設を提唱。総務副大臣だった大野氏は、右腕として実現に奔走した。

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「地方から東京に出ても活躍できるのはふるさとのおかげだが、実際は都市で活躍すればするほど、その都市に税金が入るだけ。そこで、何らかの形で故郷にお金を還元できる仕組みが必要だった」と、大野氏は当時のことを振り返る。開始された2008年には約72億円だった受入額が、2011年の東日本大震災時には復興の義損金として約649億円まで一気に増え(※その要因を除くと104億円)、2015年度には制度が使い易くなったおかげか、前年度の389億円の4倍以上の1653億円となった。寄付金を都道府県別で見ると、北海道の受入金額が最も多く約150億円、山形県の約139億円、長野県の約104億円と続く。認知度が高まり、成果も上げているが、「今は返礼品ばかりが話題になっています。其々の市町村が競い合って、高価なものをお返ししているが、返礼品が良いからその地域に納税するというのは、本来の制度趣旨とは違う」(同)。また、不交付団体は本来、ふるさと納税を受けなくてもいい筈だが、「それでもふるさと納税を取っている自治体はある」という問題点も、大野氏は指摘する。更に、「最近は、『他の自治体で成功したから、うちの自治体でもやったらどうか?』と、安易に先進事例を導入しようとする動きが目立ちます。その地域の課題を理解せずに提案する場合が殆ど。地元をしっかりと理解した上での提案が欠かせません。例えば、地元に根差した夏祭り等は新たな観光資源になり得る。私の地元でも、地元に根差した女子サッカーチームがあり、支援するように働きかけていますが、こういったスポーツはコミュニティー意識を育むには重要なものです」(同)。自治体や農協といった組織を支える人材の都市偏重化が進む。“企業誘致”依存に終始するのではなく、各地方独自の“人材誘致”の政策が求められている。 (取材・文/『週刊ダイヤモンド』委嘱記者 大根田康介)


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