【ここがヘンだよ日本の薬局】(11) 人手不足なのに薬剤師過多? 薬剤師“需給バランス”の矛盾

「薬剤師の世界は人手不足が続いている」とよく聞く。その為、高待遇で迎えられるのだが、一方で「薬剤師が余っている」との声もある。薬剤師を巡る問題を調査していくと、来るべきサバイバル時代の足元も聞こえてきた。 (取材・文/フリーライター 青木康洋)

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「自宅のポストには、会社案内の郵便物が毎日のように舞い込みます。携帯電話にも、会社説明会への誘いの電話がかかってきます」――。現在、薬科大学に籍を置きながら将来の道を考えているという、ある薬学科大学生は言う。アベノミクスによる景気回復で、日本全体の新卒採用機運が高まっている昨今だが、薬学系大学生にとっては更にその上を行く売り手市場が続いている。2004年の法改正によって、以前は4年制だった薬科大学の修業年限は、6年制へと移行した。その目的は、創剤重視の薬剤師教育から、臨床薬学を学んだ薬剤師の養成への転換とされている。より高いスキルを備えた薬剤師を養成しようというのだ。超高齢社会を迎えた日本において、薬剤師の教育改正が時代の要請であることは間違いない。だが、この改正によって、受け手である市場は少なからず影響を受けた。4年制最後の学生が卒業したのが2009年3月、6年制最初の入学生が卒業したのが2012年3月なので、2010年と2011年には新卒薬剤師がいないという“空白の2年間”が生じたのだ。その上、6年制に移行した直後は学費が2年分余計にかかることから、入学希望者が減っていた。こうして、只でさえ少ない新卒薬剤師を、病院・企業・薬局が奪い合う状況が現出したのだ。2013年卒業の薬学部生の就職率は、実に92%に達している。元々、就職先として人気の無い地方等では、初任給レベルで年収600万円を提示する薬局もあったというから驚く。

現在の薬剤師業界が売り手市場なのは、新卒に限った話ではない。薬剤師専門の求人サイトを見れば、求人情報が溢れている。極端な例では、“家付き・車付き・年収1000万円”を謳う求人広告まである。薬局や病院では、常に薬剤師が足りていないのだ。あるドラッグストア経営者は、「薬剤師不足が、新店舗の出店に影響を与えているどころか、営業時間を夜中まで延長した為に、日常のオペレーションにさえ困っている」と嘆く。ただ、このような売り手市場も程なく終焉を迎える筈である。現在は、各地の現場で薬剤師が圧倒的に不足しているが、実は数字上は既に薬剤師が余っているのである。厚生労働省の『薬剤師需給の将来動向に関する検討会』が2007年に発表した資料によれば、2005年頃には既に8万人の過剰薬剤師がいたことが指摘されている。所謂“薬剤師過剰論”が囁かれ出したのは、2003年以降に薬科系大学新設ラッシュが相次いでからだ。2002年時点では全国の薬科大学・薬学部の数は46校だったが、2016年現在は70校を超えている。その為、46校時代には8000人台で推移していた薬科系大学の定員数が、一時は1万3000人ほどにまで膨らんだ。薬剤師の国家試験合格率は例年70~80%ほどで推移しているから、単純に計算しても毎年1万人前後の薬剤師が社会にデビューする計算になる。実際、2009年の受験者数は過去最多の1万5189人で、合格者は1万1300人に達した。数字上は余っているのに、現場では常に人手不足。これが薬剤師業界の一見矛盾した現状なのである。では何故、このような捻れた状況になったのか? 理由の1つは、免許を持ちながら他の仕事をする“隠れ薬剤師”の存在にある。薬剤師は他の医療系資格とは違って、職能を生かせる職場の種類が多い。大多数は調剤薬局・ドラッグストア・病院勤務等を選択するが、その他にも製薬会社・医療品の卸業・衛生行政や大学で研究者になる道もある。つまり、薬剤師免許を持っていても、それを必要としない職業に就いているケースが多いのだ。厚労省が2014年に実施した『医師・歯科医師・薬剤師調査』によれば、全薬剤師の30%はそうした免許を必要としない職に従事しているという。また、薬剤師の世界は全体の6割以上を女性が占めている。女性の場合は結婚・出産・育児といった形で仕事の現場から離脱するケースが多く、再就職後もフルタイムで働くことが難しい。これも薬剤師不足に拍車をかける一因のようだ。嘗ては、「薬剤師の資格さえ取れば一生食うに困ることはない」と言われたものだった。だが、「近い将来、就職難に陥る薬剤師が出現する」と指摘する専門家は少なくない。その背景を探ってみよう。先ずはテクノロジーの発達である。既に一部の薬局では、調剤のオートメーション化が進められている。全自動分包機の導入によって少人数による調剤を行えるようになり、ピッキングから投薬まで全てを自動化された機械が行う薬局も現れている。オートメーション化が労働者の仕事を奪ってきたことは今に始まったことではないし、薬剤師業界に限った話でもない。これまで薬剤師が行っていた“職人技”が機械に奪われる未来像を想像するのは、然して難しくない。

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また、医師の書く処方箋枚数が頭打ち傾向にあることも、薬剤師にとっては逆風だ。処方箋枚数は1990年代初頭から急増し、それに呼応するように薬局の数も増えてきた。先に述べた“薬剤師バブル”は、この状況に支えられてきたのだが、近年は処方箋の増加率に陰りが見える。2010年辺りから増加がほぼストップしているのである。処方箋が減れば薬局が減る。薬局が激減すれば、必然的にそこで求められる薬剤師も職場を失うことになる。もう1つは、国による制度改革だ。2015年度から始まった『マイナンバー制度』によって、薬局も薬剤師も大きな影響を受ける。マイナンバー制度は、年金・医療・福祉・介護といった社会保障分野から税務分野までを一本化するシステムだが、この制度の導入により、患者の薬歴は勿論、カルテや検査値等も1枚のカードで引き出せるようになる。患者が態々自分の足で調剤薬局へ出向く必要が無くなるのだ。患者や処方箋の流れが大きく変われば、調剤薬局の在り方、延いてはそこで働く薬剤師にも大きな影響が出ることは必至である。また、テクニシャン制度の導入問題も、薬剤師の仕事に影を落としかねない。テクニシャンとは、薬剤師の業務を支援する人材のこと。欧米では既に導入されており、薬剤師の補助的な存在として、ピッキングや調剤、更には事務的な業務までも行っている。テクニシャンが後方支援をすることで、薬剤師は本来の業務である処方監査や患者との対話に、より注力できるようになるとされている。だが、本格的にテクニシャン制度を導入すると、今までの薬剤師の業務を譲り渡すことに繋がる。薬剤師の職域が狭まる恐れがあるのである。実際、カナダではテクニシャンが増え過ぎたことによって、仕事を減らされた薬剤師が抗議デモを行った先例がある。医師・医学博士の狭間研至氏は、今後の薬剤師のあるべき姿について、次のように述べている。「薬局の薬剤師は、今まで医師の出した処方箋の通りに調剤して薬を出すことが主な業務でした。しかし、薬は出すことではなく、飲んだ後が大事なのです。今後は、患者と積極的に関わっていける薬剤師が求められます」。これまでは“免許を持っていること”で食べていけた薬剤師も、これからは「資格以上の何ができるか?」を問われる時代になるのだろう。


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