【オトナの形を語ろう】(34) 金に翻弄された者たちが辿った人生の末路とは?

先週号で、「男と女はいつか出逢うようにできている」と話した。それ以前に、「快楽を追って行っても、行きつく所で待っているものは、そう大したものではない」ということも話した。だから一時、連れ合いや、パートナーがいないからといって、グズグズ考えたりすることはつまらぬことなのである。懸命に今やれることをやっていれば、自ずと相手は現れるし、向こうからやって来ると思っているほうがいい。男・女・セックスというものに、必要以上に目を向けてばかりいると、大人の男はつまらない顔・風情が身に付いてしまう。実際、女を垂らすことに現を抜かしている男には、イイ女などつく筈がない。何故ならそういう男は、女を道具くらいにしか考えることができない。そう考えている男を女たちが見抜かぬ筈がない。「伊集院さん、でも金を持っている奴の所に女は寄って行きますよ。金さえあればイイ女が手に入るんじゃないですか? よく、外国の大富豪のジジイが、ヒドイ顔をしているのに、えらくイイ女を連れているじゃありませんか」。それは確かにあるのだろうが、金だけがあれば、たとえゴウツクジジイでも寄って行く女は、所詮つまらぬ女に決まっている。「そうですかね。金さえあれば何でも手に入るのと違いますか?」。何を言っているんだ。金で手に入るものなど、タカが知れている。

では少し金の話をしよう。私は、金がつまらぬものとは勿論、考えていないし、金は社会の中の価値や、物事の代償、出来事の値踏みとしてきちんと存在しているのも承知している。しかし、金の為に命まで預けるような人間にはなってはならないことは、大人の男の常識であり、更に言えば“掟”のようなものだと思っている。借金が嵩んで、会社が倒産して、首を吊る人がゴマンといるのも知っている。しかし、あれは金が尽きたから、借金で身動きできなくなったから、自死したのではない。あれは金に翻弄されたのである。金に弄ばれたことで、自らが心身をおかしくしたまでなのだ。考えてみればいい。金を、貨幣を拵えたのは、私たち人間である。自分たちが拵えたもので、自分がお釈迦になるほどバカげたことはない。私たちの労働の価値を数字で測ろうとすると、それは金の量で測るのが一番手っ取り早いし、わかり易いのも事実だ。では、本当に仕事の真の価値が金で測れるのなら、金を儲けるだけの為の仕事を選び、生きていけばいいのである。金儲けだけが目的なら、そりゃ悪どいことをやるのが一番効率がいいに決まっている。その為には法律を犯しても、極端に言えば、自分という人間さえも、金儲けの為なら捨ててしまうことだ。それで山ほどの金を得て、当人が幸福で、至福に浸れるのなら、それで構わない。

金儲けに快楽があるのも私は知っているし、そんな男を何人か見てきた。その連中を見て、「羨ましい」と思ったことは一度も無いし、寧ろその逆で、醜漢にしか映らなかった。その醜い姿は当人には見えないから、金には魔力があるのだ。断っておくが、金を儲けることが、私は悪いと言っているのではない。「金を儲けることが生きる上での第一義である人生は、ある程度の場所に辿り着いても、そこで終焉はやって来ない」と言っているのだ。では金は、よく昔の男が言ったような“不浄”なものなのか? それは違う。金を“不浄”とさせるのは人間であって、当人の金に対する考え方が定まっていないからなのである。「それは伊集院さんが流行作家で、たんまり収入があるから言えるんですよ」。それは違う。私は若い時、金で苦労した時期が随分とあった。借金だらけだったし、金を恨めしいと思ったこともあった。その私が、金に対する考えを定めたのは、近しい人間の死を目の当たりにして、その内の何人かが金が無い為に、死に至った現実を見せられたからだ。その人たちの死を見て、私は「無念である」とつくづく感じた。「コイツほどの男が、あれほどの女が、どうしてたかが金で死に至らねばならなかったんだ?」――それを、私は歯軋りしながら考えた。その結果、「この先の人生で、金に翻弄されるような生き方だけは止めよう。意地でもしない」と決めた。そう考えると、山ほどの金が「それがどうした?」と思い始めたし、1円の金でさえ愛おしく思え始めた。金の力を知れば知るほど、「金とは用心して付き合うことが肝心だ」とわかったまでのことである。 【続く】


伊集院静(いじゅういん・しずか) 本名は西山忠来。作家・作詞家・在日コリアン2世。1950年、山口県生まれ。立教大学文学部日本文学科卒業後、『電通』に入社。CMディレクター等を経て、1981年に作家デビュー。『愚者よ、お前がいなくなって淋しくてたまらない』(集英社)・『大人の男の遊び方』(双葉社)・『無頼のススメ』(新潮新書)等著書多数。近著に『旅人よ どの街で死ぬか。 男の美眺』(集英社)。


キャプチャ  2017年7月31日号掲載

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