【中東カオス・モスル奪還】(下) 共闘、イランの影濃く

20170725 04
「兵士でもISの家族でも、我々は誰でも受け入れる」――。イラク軍が北部・モスルの旧市街でイスラム過激派組織『IS(イスラミックステート)』への最終攻撃を繰り広げていた今月10日、戦線から約700m離れた救護所で、アフメド・ホセイン医師(38)が語気を強めた。8人の救護チームは救護所で寝起きし、搬送される負傷者を24時間態勢で手当てする。救護チームが所属するのは、イスラム教シーア派の部隊だ。地元住民によると、シーア派民兵はモスルで要所の検問所を管理下に置き、シーア派の旗を掲げている。まるで陣地を守っているかのようだ。民兵部隊を支援しているとされるのが、シーア派大国のイランだ。イランは1980年代、スンニ派であるサダム・フセイン政権のイラクと戦火を交えた。2003年のイラク戦争で同政権が崩壊し、シーア派が実権を握ると、両国は接近。今年2月には、両国の国境に跨る油田の開発協力で合意した。混迷が深まるイラクで、イランの影響力が強まる。スンニ派地域にあるティクリートを2015年3月にISから奪還した作戦では、イランが支援するシーア派民兵組織『人民動員隊』が主力となった。

これは、イラク国内の約40の民兵組織が結集した組織だ。人民動員隊は今年5月、モスルからシリアに繋がる幹線道路をISから奪う為、シリア国境に向け進軍した。イランの影に神経を尖らせるのが、1979年の『イラン革命』を機にイランの宿敵となったアメリカだ。アメリカ軍主導の有志連合は5月中旬、シリア南部のイラク国境に近いタンフ付近で、シーア派民兵の車列を爆撃した。ジェームズ・マティス国防長官は、攻撃の理由を「イランに指揮された部隊だった為」と言明した。タンフ近郊では先月20日、アメリカ軍機がアサド政権のイラン製無人機を撃墜した。『ロイター通信』は情報筋の話として、アメリカ軍が実力行使に踏み切った狙いを、「親イラン勢力がイラクとシリアの間を行き来するのを阻止する為」と伝えた。イランはシリア内戦でロシアと共にアサド政権を支援し、欧米と対立する。ISの打倒を目指して西進する人民動員隊と、東進するアサド政権軍。両者が連携して、イラクとシリアを結ぶ幹線道路を手中に収めれば、イランから地中海へ向かうシーア派の回廊が出来上がる。その結果、イランがイラク経由でシリアへ兵員や武器を送ることが容易になる。モスル奪還は、アメリカが支援するイラク軍やクルド人部隊と、シーア派民兵の共闘作戦だった。だが、共通の敵をモスルから駆逐する背後で、アメリカとイランの鍔迫り合いが激しくなっている。

               ◇

本間圭一・中西賢司・倉茂由美子が担当しました。

20170725 05
■追認されぬ欧米の秩序  本間圭一(カイロ支局長)
ISが、重要拠点のイラク北部・モスルを失った。国境線の変更に挑んだ過激派の野望は挫かれることになりそうだが、欧米が敷いた中東秩序は今後も揺らぎ続けるに違いない。「サイクス・ピコという陰謀の棺に最後の釘を打ち込むまで、この前進は続く」――。2014年6月、モスルを攻略したISの指導者、アブバクル・バグダーディ容疑者が訴えた言葉だ。第1次世界大戦中の1916年、イギリス、フランス、ロシアの3ヵ国が、敵対国であるオスマン・トルコ帝国の支配下にあった中東を分割する為に結んだ『サイクス・ピコ協定』を指す。戦後、協定に基づき、列強の勢力圏を反映した国境線が引かれた為、イギリスが支配するイラクと、フランスが統治するシリアは、異なる宗教や宗派が混在する“モザイク国家”となった。中東の民衆は、この100年、資源を搾取し、宗教・宗派対立を齎す元凶として欧米を見てきた。ISが3年前、イラクとシリアで勢力圏を拡大できたのは、ヨーロッパが決めた国境線を否定し、アラブ人を中心にした新秩序を訴える指導者に、一部の民衆が期待を寄せた為だ。バグダーディ容疑者は、“欧米支配の破壊”を“イスラムの原点への回帰”で示そうとした。ヨーロッパを凌駕した7~8世紀のイスラム社会の再現を図り、聖典『コーラン』の教えを独自に解釈し、公の場で斬首や鞭打ち刑を行い、異教徒を売買する奴隷市場を認めた。過酷な政策は、民衆だけでなく、周辺のアラブ諸国の反発も招き、求心力を失った。ただ、イラクでのISの衰退は、これまでの中東秩序の追認を意味しない。ISとの戦いで結束したかに見えた欧米や様々な民族・宗派の連帯に綻びが見え始めている為だ。ISを退けたイスラム教シーア派の民兵が勢力を増し、スンニ派住民の不安を高めている。少数派クルド人は、独立の動きを強めている。


⦿読売新聞 2017年7月13日付掲載⦿

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