【Deep Insight】(32) 長期成長へ100年先描く

リーマンショック時等の経営危機を幾つも乗り越え、事業も大胆に入れ替えた『ゼネラルエレクトリック(GE)』のジェフ・イメルト会長。来月末で最高経営責任者(CEO)を退いた後も、名経営者の1人として多分、記憶されることだろう。だが、ここ1~2年はシリコンバレー企業に比べて株価が伸び悩んでいた。四半期業績を厳しく問う短期主義(ショートターミズム)の投資家、所謂アクティビスト(物言う株主)から厳しい追及を受け、退任時期が少し繰り上がったとも言われている。16年間君臨し、“名”と冠される経営者でも、引き際が一筋縄ではいかないのが昨今の現実なのかもしれない。アメリカの経営誌『ハーバードビジネスレビュー』によると、最近のアメリカの上場企業のCEOの退任は、5分の1が解任によるものだという。リーマンショック以降も短期主義の勢いは強まっており、経営者は回転ドアのように目まぐるしく入退場を迫られるのを恐れ、短期主義にすり寄る傾向もあるそうだ。では、短期主義の経営と、それに抗いつつ持続的成長を追求する長期経営は、どちらが企業価値を上げるのか? 米欧を中心に論争が絶えない命題を定量的に可視化しようと調査を実施したのは、アメリカのコンサルティング会社『マッキンゼーアンドカンパニー』、資産運用大手の『ブラックロック』、それに『カナダ年金計画投資委員会(CPPIB)』等が昨年設立したNPO『FCLT(Focusing Capital on Long Term)グローバル』だ。企業の視野・展望の長短を計る“コーポレートホライズン”という指数を独自に開発し、アメリカ上場のグローバル企業615社を長期経営か短期経営かで分けた。2001年から2014年までに長期経営企業が増やした売上高は、1社平均で100億ドル(約1.1兆円)を超えており、短期企業を47%上回ったという。同様に、利益の平均も長期企業が36%大きかった。こうした差は何故生まれるのか? FCLTで中心的な役割を担うマッキンゼーのグローバルマネージングパートナーであるドミニク・バートン氏は、「長期経営に優れた企業ほど、実はベンチャー企業並みに機敏で大胆。資本や人材の配分も上手い」と話す。一例がGEだろう。リーマンショック後に金融事業を売却し、あらゆるモノがインターネットに繋がるIoTの技術に立脚した製造会社へと、ポートフォリオの入れ替えを進めた。資本効率を指す自己資本利益率(ROE)は未だ回復途上だが、製造部門の売上高営業利益率は15%と世界屈指の水準にある。

大規模な事業の売買は、一見すると短期主義的な企業行動にも見えなくはないが、バートン氏は「(GEのような企業は)数十年先を見据えた長期ビジョンを土台にしている」と強調する。『早稲田大学ビジネススクール』の入山章栄准教授も、創業から1世紀以上経過した米欧の“100年企業”には、「50年・100年単位の経営がある」と話す。例えば、『デュポン』は“100年委員会”、『シーメンス』は“メガトレンド”、『ネスレ』は“ニューリアリティー”と呼ぶ会議体を持つ。未来の世界情勢・マクロ経済・人口動態・技術の進歩等について話し合う場だ。そこで示された予測やビジョンを、経営上層部で共有する習慣・風土が定着しているという。災害・金融危機・事故・テロ・戦争といった有事の際も、未来ビジョンに従い、一過性に終わらない正しい判断を心がける。数年に一度は外部の専門家を交えてビジョンを修正し、トップが交代しても長く継承する。勿論、事業の撤退や新規参入、或いはM&Aの際は、必ずそれらに照らし合わせるという。“ピクチャーオブザフューチャー(未来図)”――。シーメンスは、メガトレンドの一部を、こんな名前でホームページ上に公開している。同社は2000年代後半以降、情報通信・自動車部品・原子力発電等の事業から撤退し、(再生可能を中心とする)エネルギーや、(製造業や社会の)デギタリジオン(※デジタル化=IoT)に軸足を置き換えて高収益を上げる。日本法人の島田太郎専務執行役員は、「新しいトレンドを探り、それが奔流になると判断したら大胆に舵を切る。IoTも、“インダストリー4.0”という言葉が誕生する20年前からメガトレンドに入れ、準備してきた」と話す。日本企業はどうか? 一般に“長期経営”のイメージがあるが、多くは3年か5年の中期計画を作るだけ。しかも、6割は未達に終わるとの調査結果もある。経営者の多くは、そうした計画を任期中に1~2回策定し、辞めれば後任社長がまた別の計画を作り直す…。不正会計の問題を起こした3人の社長がいた頃の『東芝』もそうだった。中期計画は、リーマンショックや東日本大震災もあって未達に終わることが多く、年度決算も業績予想をしばしば下方修正した。同社も100年企業だが、M&Aで失敗を重ねつつ、誤りを軌道修正できなかったのは、超長期の視点が欠けていたせいではないか? 日本の100年企業は2万社を超え、数では世界一とされるが、金融関連を始め、“規制に守られた長寿”も多いという。技術の陳腐化や新興企業の台頭があっという間に現実となる昨今。超長期の視点で自己変革できているかどうかが問われているのは、寧ろ日本企業だろう。  (本社コメンテーター 中山淳史)


⦿日本経済新聞 2017年6月23日付掲載⦿
スポンサーサイト

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接
QR码
QR