シリアで消息を絶った安田純平氏の今――広まる“自己責任論”、仲介者とて信用ならぬ

20170726 01
フリージャーナリストの安田純平氏(※右画像)がシリアで消息を絶ってから、今月で丸2年が経つ。安田氏生存の期待が高まったのは、昨年5月、橙色の“処刑服”を着せられ、「助けてください。これが最後のチャンスです」と書かれた紙を持たされた写真が、インターネット上に公開された時であったが、これを最後に犯人側の要求も一切聞かれなくなって、1年余が経過した。ただ、これはあくまで表面上の話。現地でこの問題を追っている記者たちの間では、事実関係は絞り込まれている。安田氏を拘束しているのは反政府武装勢力の『ファタハ・シャム戦線』(※旧『ヌスラ戦線』)で、その目的は当初より身代金要求。金額は150万ドル(約1.7億円)にまで下がっているが、日本政府が支払いを拒否している為、打開の糸口が無いのだという。現地で反政府武装勢力と常態的な接触のある『カタール赤新月社』(※赤十字)の仲介で、身代金額も定まってきているというのに、払う者がいないというのは、事実とすれば衝撃的な話だ。また、赤新月社は正式な要請なくして仲介はしない。日本政府はカタール政府並びに同赤新月社とは容易に連絡が取れる立場にあるのだから、同赤新月社が動いていたのであれば、その背景には日本側からの要請があったことは自明だ。その結果、身代金もこの種の事件としては低い額に落ち着いているという話が本当なら、何故解放が叶わないのか? 外務省は外部からの問い合わせに対し、「事案の性質上、お答えできない」と答えることに決めているという。記者たちの間では、「政府は『テロリストとは取引しない』としており、本件は“官邸マター”。政府首脳部が身代金による解決を許していないのでは?」と噂されている。

暗礁に乗り上げた形の解放交渉を打開したい“支援者”たちは、4月15日、『危険地報道を考えるジャーナリストの会』を通じて、政府の対応ぶりを批判した。安田氏と同時期に同じ武装勢力に拘束されたスペイン人記者3人、ドイツ人女性記者が相次いで解放され、両国の政府が解放の為に動いたと報じられているのに、「日本政府が積極的に動いている様子が見えない」というのだ。また、2004年のイラクにおける拘束に次いで“2回目”である安田氏について、とりわけ強い“自己責任論”が広まっている事情についても、当時の小泉政権が作った“造語”である自己責任論を、「報道機関は批判せずに垂れ流す過ちを犯した」として、「政府が働きかけを強めるべきだ」との論調を展開している(※先月2日付毎日新聞夕刊)。現地からの情報が事実であるとするならば、約1.7億円は政府に頼らなくとも、個人の工夫で捻出できそうな金額だ。今日流行りのクラウドファンディングという募金手段もある。従って、「家族や支援者が中心となって行動してはどうか?」と支援者らの動向に詳しい筋に聞いたところ、意外な答えが返ってきた。「『2年に渡る拘束は流石に長い』と、解放に向けた積極的な行動を主張する人々の声が勝り、先述の声明や新聞記事は出たものの、支援者の中には『日本側で騒ぐことは犯人側の思う壺であり、却って帰還を困難にする』と考え、『沈黙こそ生還を実現する唯一の手段である』と主張する人も多い」とのことである。確たる情報が無い中、支援者はばらばらで纏まりが無く、妻でヒーリングシンガーのみゅう氏は、あらゆる“自称”仲介者からの未確認情報や、詐欺紛いの申し出に困惑し、現状では「全力を尽くしています」という政府の担当者の言葉を信じているのだという。拘束された当初は、「誰が何の目的で?」といった確認が必要であった。しかし、ファタハ・シャム戦線を常時取材し、接触している地元記者らが齎す情報は極めて具体的であり、安田氏が同戦線に戦費調達(身代金)目的で捕らえられていることは先ず間違いない。トルコ南部、シリアのイドリブに国境を接しているアンタキヤで、この問題に関心を持ち続け、取材を続けるシリア人記者のサリーム・アルウマル氏は、本誌に対して次のように証言する。「現在の居場所は特定できないが、安田氏はイドリブのどこかでファタハ・シャム戦線に身代金目的で拘束されている。身代金誘拐はギャングのやること。恥を知るべきだ。安田氏の無条件解放を願うが、その為にはカタールやトルコ等影響力のある国に頼んで、戦線に強い圧力をかけることが重要。特にカタールが鍵を握っている」。腹立たしいことに、ファタハ・シャム戦線は安田氏を始め、多くの人質を取りながら、対外的にはそれを否定し、裏で交渉して多額の身代金をせしめようとしている。また、そのことがイスラムの教義上良くないこととされながらも、決定的な悪とは考えられておらず、「『“背に腹代えられぬ、集団存亡の問題”においては、裁判官やイスラム法学者は口出しできない』という法理が働いている」と、アルウマル記者は指摘している。それは、我が国の裁判所が憲法判断を回避することのある“統治行為論”にも似て、興味深い。

20170726 02
なお、一般的な風土として、中東は人質を獲る行為にはおおらかだ。それは、常に部族と部族が戦ってきた砂漠の民の重要な戦術の1つであったからでもあろう。人質を獲られたら最後、生きて返してほしければ、捕虜交換に応じるか、身代金を差し出す以外に救出する手段は無い。ファタハ・シャム戦線が関係する幾多の欧米人人質の解放交渉を手掛け、成功させた実績のあるカタールだが、彼ら自身、武装勢力に王族を含む多数の人質を獲られ、多額の身代金を支払わせられるという“被害”に遭っている。2015年12月、イラク南部で鷹狩りをしていた王族と、そのお付きを含む26名が、シーア派武装集団と目される一派に拉致され、1年4ヵ月の交渉の末、今年4月に解放されたのである。この話にはおまけがあり、身代金に関係すると思われる現金数百万ドルを、カタール航空機でバグダッドに運んでいたところ、仲介にあたっていたイラク政府によって“差し押さえられる”という椿事が起きたのだ。勿論、多額の現金輸送は違法だが、政府間の連絡で超法規的なオペレーションを行っている最中のことである。「仲介者とて信用ならぬ」という中東の笑い話になっている。また、更に聞き捨てならないことには、「この解放取引で支払われた身代金の内、数千万ドルが、多当事者間の複雑な取引の結果、ファタハ・シャム戦線に流れた」とも言われている。ならば、“差し押さえ”はイラク政府の取り分確保だったのか? ここまで来ると、やはり、中東で人質になってはならないが、止むを得ずなってしまった場合は、慌てず騒がず、粘り強く交渉する他はない。最後は“カネ”だ――ということであろうか。


キャプチャ  2017年6月号掲載

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