“理想”を捨てて“名を残す”に方針転換…悲願の憲法改正を急ぐ安倍首相の真意とは?

これまで、自民党は憲法改正草案に“国防軍”の創設を盛り込んでいたが、このほど安倍首相は、「条文に“自衛隊”と明記する」と方針転換した。安倍首相の独断とも見える急な方針転換に、党内からは不満が続出している。 (取材・文/政治ジャーナリスト 村嶋雄人)

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「憲法を改正して、2020年の施行を目指す」「懸案の9条については、1項(戦争の放棄)・2項(戦力の不保持)はそのままにした上で、自衛隊を明記する」「教育の無償化を明記する」――。突然のことだった。安倍首相は2017年5月3日、読売新聞のインタビューと、憲法改正を目指す団体の会合に寄せたビデオメッセージの中で、憲法改正について言及。今後のスケジュールや具体的な内容に踏み込んだものだった。本来、立法府、つまり国会で行う憲法改正について、行政の長が期限を区切ったり、内容について発言することは、三権分立に反する。流石に、足元の自民党からでさえ批判の声が次々と上がった。「党内手続きを取って出したもの(草案)でないものを公にする時は、党内の話を組織政党としてやっておくべきだった。少し残念と言えば残念だ」(伊吹文明氏)、「国会での議論の行く末や期間を、行政の長が規定することに繋がりかねず、とりわけ野党の反発を招くことは必至だ」(船田元氏)。同8日に行われた衆議院予算委員会の集中審議で、野党から自らの発言について真意を問われた安倍首相は、「自民党総裁として考えを公にした。政党間の議論を活性化する為だ。予算委員会では、内閣総理大臣としての答弁に限定している」と曖昧な説明に終始。更に、真意を質す野党に対して、「総裁としての考えは読売新聞を熟読して頂きたい」と言い放ち、委員会は騒然となった。野党は「ボールを投げるだけ投げておいて、国民の代表機関たる国会の場で何も答えない。新聞を読めとは、安倍一強政権の思い上がりだ。国会軽視にもほどがある」(民進党幹部)と非難したが、その通りだろう。

しかし、気になる点が1つある。安倍首相は何故、このタイミングで憲法改正に言及したのか? ある自民党幹部は、「『安倍首相は、安保法制もやり終えたので、もう改憲はやらないんじゃないか?』という見方も出てきている中で、改憲派の支持者向けにアピールするという狙いがあったのではないか」と推察する。しかし、安倍首相の9条に関する発言内容を分析すると、「愈々本気になって憲法改正を実現する為の最終段階に着手した」と見ることもできる。今回の「懸案の9条については、1・2項はそのままにした上で自衛隊を明記する」という方針は、自民党や安倍首相がこれまで主張していた「9条を抜本的に書き換えて国防軍を明記する」といった案からは、大幅に軟化するもの。元を辿れば、今から2年以上も前に、連立を組む公明党が秘密裏に検討していた案そのままなのだ。公明党幹部が言う。「公明党は平和の党。自民党の言うような国防軍を明記することなどできない。そこで、公明党の内部で密かに検討してきた9条の案は、1項・2項の戦争放棄等はそのままにし、3項に“自衛隊”を明記して、『自衛の為の交戦権に絞ってこれを認め、自衛隊も認める』というもの。4項には更に、自衛隊の新しい平和的な役割として国際貢献も書き込む。これが、我が党が主張している、改正でなく“加憲”による9条。9条加憲案は、公明党内部の限られたメンバーで議論しているが、うちとしては、これ以上でもこれ以下でもない。妥協はこれ以外できない。あとは自民党がどう判断するかだった」。2014年12月、第2次安倍政権は2度目の総選挙を仕掛けて大勝したが、その際に掲げた争点は、消費増税の延期やアベノミクスの審判だった。しかし、総選挙当日、安倍首相はマスコミのインタビューに対して、「憲法改正は私の政治家としての信念」と初めて明言し、残り任期中に仕上げる可能性を示唆した経緯がある。それを実現するとなれば、国会の憲法審査会で改憲草案を纏め、衆参其々3分の2の賛成を以て発議し、国民投票というプロセスを経なければならない。“3分の2勢力”とは、言うまでもなく憲法改正に理解を示す日本維新の会と、連立政権を組む公明党だ。しかし公明党は、平和の旗を掲げる『創価学会』が最大の支持団体。特に9条については、自民党がこれまで主張してきた“国防軍”を目指す草案と隔たりが大きい。公明党は、表向きには「自民党の案は、9条を全面的に変えるというもの。公明党とすんなり一致することはない」(公明党ベテラン参議院議員)という姿勢だった。ただ、公明党の見立てとしては、何れ安倍首相は憲法改正を相談してくるので、その時に備えて、内部で前出のような“9条のギリギリの妥協案”を準備していたということだろう。そして今回、その公明党の妥協案に安倍首相が乗っかった形だ。「条文を追加するだけでは、自衛隊が警察権しか持たないという現状と何も変わらない。独立国家として、憲法で自衛隊が軍隊であることを明記しないと意味がない。それが自民党の9条草案。散々議論してきたところでもあり、絶対に譲れない一線だった。ところが、安倍首相は急遽、我が党の草案から後退した公明党の加憲案を言い出した。全く以て理解できない」(自民党若手議員)。

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何故安倍首相は、自民党案を諦めてまで、公明党に譲るようなことを言い出したのだろうか? その理由として、「安倍首相が愈々本気になって、“実現”を最優先にした最後の大勝負に出た」と、首相に近い自民党ベテラン議員は解説する。「首相は、いつかこの政権にも終わりが来るということを意識し始めたんじゃないか。そこから逆算して、最後に何をやるか本気で考え始めたんだと思います。改憲には首相の理想があるとはいえ、3分の2の賛成多数や国民投票という大きな壁もある。改憲の実現を優先するか、理想を追い求めてダメでも良しとするか。歴史的な偉業と名を残したい首相は、ここは現実的な選択をして、公明党の自衛隊明記、加憲案で行くと決めたのでしょう」。こうした安倍首相の意思に関わったキーマンもいる。自民党幹部の証言。「公明党が相手ということになれば、『安倍首相の意向を受けて動いたのは、二階俊博幹事長ではないか?』と見られています。4月に安倍首相から『憲法改正を何としてもやりたい』と打ち明けられた二階さんは、強いパイプを生かして公明党幹部らと極秘に接触。『公明党の加憲案なら合意できるんじゃないか?』と安倍首相に伝えたという話もあります。安倍首相は今回、これと同じ案を示し、公明党の理解を取り付けて多数派工作の先手を打ったのです。二階さんは、安倍首相が言及した後も、党内で今年度中に草案を纏める為の組織改編を着々と進めています」。二階幹事長は、党憲法改正推進本部の体制を強化し、安倍首相が表明した2020年施行に向けて、党の改憲案作りを加速化させる方針だ。推進本部内に影響力を及ぼす為、二階幹事長自らも参加し、年内に纏める意向を示している。「着々と公明党との関係や党内体制を作っている辺り、二階さんがキーマンである証拠と見ていいでしょう」(前出の自民党ベテラン議員)。この他、「公明党幹部のキーマンが直接、安倍首相と長い時間かけて密かに話し合ってきたのではないか?」(官邸スタッフ)という見方もある。

ただ、公明党幹部の1人は、「憲法審査会で議論が行き詰ったところで、この案を出そうとしていたのに、首相に先に言われてしまったので、うちの出番や存在感が奪われかねない。それに、いきなり踏み絵を踏まされたようで、いくらなんでも安倍首相の勇み足だ。うちだって党内論議や支援者の創価学会との詰めも必要なのに…」と困惑気味。安倍首相の異例の改憲発言は、却って公明党の態度を硬化させるリスクもあるのだ。安倍首相の発言は、自民党内の“ポスト安倍”の動向にも影響を与えている。ポスト安倍最有力の1人である前地方創生担当大臣の石破茂氏は、安倍発言に対して連日のように異論を唱えている。抑々、憲法改正は石破氏が積極的に取り組んできた専門分野でもある。9条についても、防衛庁長官就任以降、自衛隊を研究し、自民党改憲草案に深く関わってきた。石破氏は、自らの派閥会合で議員らに、「今までの自民党の侃々諤々の議論の積み重ねは、一体何だったのか? “一強”と持て囃され、『自分が言った通りに全て事が運ぶ』とでも思っているんじゃないか」と、今回の安倍発言を痛烈に批判。その上で、「来年の総裁選でのテーマになる」と、総裁選出馬を匂わせて戦闘モードを示したという。また、もう1人のポスト安倍候補とされる岸田文雄外務大臣だが、こちらは当初、微妙な反応だった。岸田氏は記者会見で、「議論の活性化という意味がある」と安倍首相の言及に理解を示したが、元々は党内リベラルを継承する人物。それまでは、「当面、憲法9条の改正は考えない。これが私たちの立場だ」(派閥研修会)と語っていた。「岸田さんは石破さんと違って、今も内閣の一員で、安倍首相を支えている立場です。ポスト安倍とはいえ、“戦い獲る”というよりかは、どちらかというと“禅譲”を考えている。9条改正について本音は慎重だが、安倍首相を批判する訳にもいかないといったところでしょう」(自民党リベラル派の3回生議員)。その後、「(9条について)安倍首相と話してみたい」と述べるに留まった岸田氏に対して、同議員は「発言も定まらず、中途半端な印象を残してしまった」と酷評する。安倍首相の発言で風雲急を告げる“憲法改正への道”。前出の安倍首相に近いベテランは、こう話す。「今月2日、安倍さんは亡き父・安倍晋太郎氏を偲ぶ会で、嘗て父親が後継者を育てたように、『自分も四天王を育てたい』と発言しました。『未だ来年の総裁選にも出馬する気があるのに、何故あんなことを急に言い出したのか?』と周辺は結構驚いています。『若しかすると、安倍さんの体調が思わしくなく、長くはできないということでは…』といった話まで出てきているほどです。ただ、何れにしても、安倍さんの頭の中では、長期政権も半分を超えた今の段階で、やりたいことを逆算してシナリオを考えるようになってきたのかもしれません」。安倍首相が「2020年までに施行、その先頭に立つ」と語った改憲スケジュールも、その大前提は、明らかに来年9月の任期満了の総選挙にも圧勝し、このまま支持率も安定していくというものだ。しかし、一寸先は闇。別の自民党ベテラン議員はピシャリと言う。「(長期政権がこのまま続くことなんて)誰も保証できない。現に、最近の国会での首相答弁は、“新聞を読め”騒動を始め、最早自信を越えて傲慢に見える。森友学園や加計学園の問題にしても、『お友だちに便宜を図ったのではないか?』という疑いは晴れておらず、世論調査ではあらゆる問題で『説明責任を果たしていない』との声も増えている」。丁寧さや謙虚さを失えば、改憲を前にして世論の支持を失うことも十分あり得る話だ。 (写真提供/政治ジャーナリスト 小川裕夫)


キャプチャ  第22号掲載

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