【ヘンな食べ物】(47) ナマズは本当に爆発していた!

魚料理とサラダの中間であるタイの不思議な料理、名付けて“爆発ナマズ”の続き。愈々、謎の調理法を人気シェフのタムさんに見せて頂く。先ず、ベトナム食材店から買ってきたというナマズを俎板に載せて3枚に下ろす。ナマズは滑るので、俎板の上に濡らしたキッチンペーパーを置くのがミソ。上下の肉の部分を味付けせずに素揚げする。次に、残りの頭・骨・尾の部分を醤油とマギー(※タイでよく使われるウスターソースっぽい調味料)で味付けし、同じように鍋で揚げる。先に肉の部分を鍋から引き上げる。それを俎板に載せると、まるで二丁拳銃のように左右の手に包丁を持ち、のりのりのドラマーのように叩きまくって微塵にしてしまう。フライの魚を微塵というのが既に面白い。更に鉢で丁寧に搗き、殆どペースト状にしてからパン粉と混ぜる。鍋でしっかり揚げていた頭・骨・尾を引き上げると、次がクライマックス。煮え滾った鍋の油をお玉で掬って、ナマズペーストのボウルに入れてかき混ぜるのだ。ボウルの中ではジュワジュワとペーストが油で泡立っている。そのまま、今度こそ鍋にぶち込む。すると、高熱のペーストと鍋の油が激しくぶつかり、ドバーッと爆発! 鍋に花火が開いたかのよう。本当に爆発させていたのか! 道理であんなにサクサクして細かいフライ状になる訳だ。いや、私の頭悪そうなネーミング、実はドンピシャだったとは。10秒もしないうちに引き上げ、油を素早く丁寧に落とす。彼のやり方では天かす風ではなく、かき揚げ状になっている。

タムさんによれば、本場のタイでは、先ず魚を炭火で焼いてから、それを微塵にして油で爆発させるのだが、日本では炭火焼きが難しい為、彼が独自にこの“二度揚げ”の方法を考案したという。今度はタレを作る。タイ語では“ヤムマムアン”(マンゴーの和え物)。そうか、あのあんかけ、マンゴーを使っているのか。道理でタイ風な訳だ。青いマンゴーと人参を細切りにし、玉葱を薄くスライス。これらの野菜をボウルにあけ、小さい干しエビ・唐辛子粉・檸檬・ナンプラー・シロップ・味の素と混ぜる。出来上がったら、サニーレタスを敷いた深皿に流し込む。扨て、頭・骨・尾の部分を皿に載せ、丁度元々身があったところにナマズのかき揚げを置く。元の鞘に収める訳だが、かき揚げがデカ過ぎて鞘には到底収まらず、上にドカンと鎮座する感じ。これで完成。これだけ凝っていて、所要時間たった10分。大した技倆だ。私たちも厨房から出て、一般客に戻って頂く。かき揚げ的なナマズ肉の上にマンゴーあんかけを垂らし、スプーンでザクッと掬い、口にバクッと放り込む。サクサクとした白身魚のかき揚げが、甘酸っぱい青いマンゴーの香りと共に、口の中で溶けていく。油を多用しているのにそう感じさせないのは、高温の油でシャキッと揚げているのと、青いマンゴーの爽やかさ故だろう。この料理のもう1つの楽しみは、頭・骨・尾の“その他部分”。しっかり揚がっているので、スナックのようにカリカリと食べられる。特に骨の部分が香ばしいこと。この“爆発ナマズ”ほどビールに合う料理はそうそうないように思われる。世界のどこに出しても恥ずかしくない堂々たる逸品だ。本連載で誰にでもお勧めできる食べ物を取り上げることは稀。何だかグルメ作家になったような錯覚がして、それもちょっと嬉しかったのだった。


高野秀行(たかの・ひでゆき) ノンフィクション作家。1966年、東京都生まれ。早稲田大学第1文学部仏文科卒。『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)・『アジア未知動物紀行』(講談社文庫)・『世界のシワに夢を見ろ!』(小学館文庫)等著書多数。


キャプチャ  2017年7月27日号掲載
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