【管見妄語】 頑張って下さい、ありがとう

『新党大地』代表の鈴木宗男氏の長女で、衆議院議員無所属の貴子さんが、つい先日、第一子を9月中旬に出産予定と、自身のブログで報告した。その中で、「実は今月に入ってすぐの検診で、切迫早産との診断を受け安静生活を続けております」と述べ、現在療養中であることを明らかにした。産婦人科に何故か詳しい私が解説すると、妊娠37週から42週までに生まれるのが正期産で、それより早いと早産と呼ばれる。切迫早産とは早産一歩手前ということで、早産でも育つことは育つが、未熟なので、薬を飲んだり安静にして、早産を防ぐことが大切となる。この貴子さんの下に祝福の声が多く寄せられたが、中には「国会議員の任期中に妊娠とは如何なものか?」「公人としての自覚が足りない」等というのがあったらしい。「こんな暴言を吐く人間が未だいるのか」と驚いた。大手出版社の編集者で、私の信頼していたKさんは、第一子を産み、10ヵ月ほどの産休を取り、職場に復帰して1年ほど経った先日、唐突に辞職した。Kさんは多くを語らないが、「働きながら充分な子育てをするのが、この国では難しい」と淋しそうに言った。あれほど優秀で健康でやる気満々だった彼女がそう感じたのなら、子育てをしながら働く女性の大半は、そう感じているのではないか。貴子さんが受けたような心ない言葉を、毎日、16時に退社して保育園に向かっていたKさんも受けたのかもしれない。安倍政権の謳う“女性が輝く社会”では、「女性の社会進出や雇用促進を目指し、男性優位の雇用環境を改善する」と言っているが、実態は未だこんなものである。抑々、“女性が輝く社会”は女性に評判が悪い。私と付き合う幾多の女性たちに聞くと、「どうせ少子化に伴う人手不足対策でしょ」とか、「女性を安価な労働力としか見ていないのに女性尊重の振りをしている」等と言う。財界の要望を受けた政府が捻り出した巧言に過ぎないのだろう。

“1億総活躍社会”だって同類だ。小泉竹中政権は「官から民へ」「小さな政府」「聖域なき構造改革」「自民党をぶっこわす」等と、空虚な、しかも間違ったスローガンを掲げ、国民を煽った。政治家の常套手段である美辞麗句の裏側にあるものを、国民は読み取らねばならない。私が強く支持する“戦後レジームからの脱却”のほうは、安倍首相にしかできないのに、一向に進展しない。女性は出産・育児・介護という、人間の生死の場において中心的役割を担っている人々なのに、相当する敬意を受けていない。私の学生の中には、就職試験で「産休・育休のリスクがある貴女は採用しません」と言われた者もいた。出産と育児は、自己犠牲や献身とも言える膨大なエネルギーを要する。子供は日本の未来そのものだ。子育てが“国家への最大の貢献”という意識が国民に共有されない限り、“女性が輝く社会”は無い。少子化対策として移民導入等が考えられているが、その場凌ぎの対症療法に過ぎず、将来に禍根を残す結果となるのは、混沌の坩堝となったヨーロッパを見れば明らかだ。本質的な対策とは第一に、若者が結婚できるように正社員を増やすことである。第二は、「苦労して産み育てた我が子が将来幸せになれる」と確信できる社会にすることである。現在の競争・評価・残業という窒息しそうな労働環境を変えることだ。毎日の勤務後に家族団欒を持てるようにすることと言ってもよい。第三は、出産育児に携わる全ての女性に対し、“子育て手当”の付与とか勤務時間の短縮等で敬意を示すことである。最近、街を歩いていて、大きなお腹の女性を見る度に、「頑張って下さい、ありがとう」と心の中で叫ぶ。べピーカーを押すお母さんを見ると、母子に微笑みかける。前と後ろの席に幼児を乗せて全力で自転車を漕ぐお母さん等を見ると、「祖国の為にありがとう」と感涙に咽びそうになる。


藤原正彦(ふじわら・まさひこ) 数学者・お茶の水女子大学名誉教授。1943年、満州国生まれ。東京大学理学部数学科卒。同大学院理学系研究科修士課程数学専攻修了。ミシガン大学研究員・コロラド大学ボルダー校助教授等を経て現職。著書に『藤原正彦の人生案内』(中央公論新社)・『この国のけじめ』(文藝春秋)等。


キャプチャ  2017年7月27日号掲載
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