【徹底解剖!東京都庁】(10) 敢えて管理職に背を向ける都庁職員の“出世回避”事情

実力主義で誰もが出世できる都庁だが、その実、多くの職員は“幹部”への出世に消極的だ。薄れる帰属意識と組織の変容を、管理職昇任試験の実態から読み解く。 (取材・文/本誌編集部)

20170731 06
組織の中で出世して、然るべきポストに就き、収入をアップさせたい――。それは、多くの社会人が抱く1つの目標である。戦後、成長時代を続けてきた時代の日本で、“出世”はサラリーマンの大きなモチベーションだった。係長・課長・部長と駒を進め、給与もアップしていく実感をある程度平等に配分していたのが、日本の公務員制度であり、それは良くも悪くも日本社会のメンタリティーに馴染んだシステムだったと言える。しかし、成熟の時代に入り、仕事に対する価値観も変わった。“自分の時間”の価値が高くなり、組織への帰属意識が薄まると、“出世”という目標も色褪せたものになってきたのである。「都庁でも10年ほど前から、その傾向は顕著になっています」とベテランの職員が語る。「現行の都庁の管理職試験制度は、美濃部亮吉知事時代の1970年代に整備されたもので、『学歴を間わず合格すれば、高卒でも東大卒でも同じステージに立てる』という考えは、学閥形成や情実人事を排するフェアな思想として、多くの職員に支持されたのです。1970年代には1万人以上が昇進試験を受験していましたが、その後、受験者数は下がり続け、更に職員数が減ったこともあって、今では上司が部下に受験を勧め、何とか受験率を維持するのも仕事の1つになっています」。実力主義の都庁では過去、高卒ながら交通局長やトップの副知事にまで登り詰めたOBも実在する。言ってみれば、大手商社や金融機関で高卒入社のサラリーマン社長が誕生したようなものだから、これはかなり凄い話である。「2004年、当時、都市計画課の次席(※係長級)だった黒田慶樹さんが紀宮さまと婚約した際、『せめて管理職の課長級に格上げするべきではないか?』との声が上がりましたが、結局、『原理原則のほうが大事だ』ということで、“2階級特進”とはなりませんでした」(同)。

民間企業の社員であれば一気に部長まで昇進してもおかしくないくらいの出来事だったが、これが都庁の組織風土なのである。これほど実力主義には拘りを持ってきた都庁だが、どうして職員が“出世したくない”状況に陥ってしまったのか? 「昇進試験を受けなくても、最終的に課長代理まで行ければ生活に困るようなことはないこと。それから、現場で専門的なスキルを身に付けてくると、関係機関との調整に追われる管理職の仕事に面白味を感じられなくなってきます。熱心に仕事をすればするほど昇任試験の準備は難しくなり、筆記試験が得意なタイプが上に行く。そうなると、益々職員の間にシラケムードが広がります。女性職員の場合、下手に突っ走ることで、結婚や出産ができなくなるという不安もあります。そして、これが意外に大きいのですが、今、出世している幹部たちが、上ばかり見る“ヒラメ系上司”として尊敬されていないことがあります。これらが全て、職員の出世欲を減退させる原因になっていると思います」(同)。確かに、出世できれば年収は上がり、退職金も増え、最終的に天下りもできる。しかし、それ以上に嫌なのは、やりたくもない仕事をさせられることである。特定分野に精通し、芸術的な仕事ぶりでやり甲斐を満たしているようなタイプは、敢えて「管理職になりたい」とは思わない。また、舛添騒動から小池知事誕生以降は、都庁幹部が直接、マスメディアから名指しで批判を受けるケースも多く、『余程の待遇でもなければ、こんなリスクを受け入れて働くことなどできない』という思いも広まったようだ。都庁では複数のタイプの昇任試験を設定しており、それは大きく言って2つに分かれる。国家公務員のキャリア組のような“新幹線”に乗って、ゆくゆくは部長・局長を狙っていこうとする難関系の主任級職選考A・管理職選考Aと、「試験は好きではないが、平均レベルまでは行きたいので受けるか」という“準急電車”の主任級職選考B・課長代理級職選考である。主任級職選考Aは、入都後5年で受けられ、Bは40歳以上で受けられる。Bのほうは教養問題の筆記試験が無く、最も負担が大きいとされる“教養試験対策の勉強”が必要ないという点が特徴だ。2015年の例で言えば、主任級職選考Aで合格者数は751人、合格率は30%強。上昇志向の強いグループは、いつの時代にも一定程度いて、新幹線コースの受験者数はそれほど減っていない。しか、しBのほうは合格率こそ37%と高いが、753人しか受験していないので、合格者は278人しかいない。ペーパーテストではなく、人物重視の流れはあらゆる場面で強まっているとはいえ、やはり、役所の幹部になる為には、知識や教養を問うペーパーテストで高得点を取らなければならない。「筆記試験は大学受験で最後にしたい」というタイプは意外に多く、これが“受験回避”に繋がっている側面はあると思われる。

2016年、当時の舛添知事が一連の“政治資金私的流用疑惑”を追及され、集中審議の議会で集中砲火を浴びていた時、こんなシーンがあった。舛添氏が大量の美術品を落札したヤフーオークションのIDを、問題発覚後に削除していた件を、音喜多駿都議が質問。舛添氏は、「IDが悪用され、大量の焼売が都庁宛てに注文された。そのように職員から説明を受けたので削除した」と弁解したが、音喜多都議は当時の政策企画局局長や総務部長を更に追及。「本当に焼売注文にヤフーのIDが使われたのか? 確認したのか?」。すると局長・部長は、かなり年下の音喜多都議の追及にタジタジとなり、「確認しておりません」と苦渋の表情で答弁。知事を後ろから切り付けるような答弁だが、かといって嘘を吐く訳にもいかず、集中審議の模様はテレビやインターネットで配信され、都庁幹部として広く醜態を曝すことになってしまったのである。「何で俺が知事のスキャンダルに巻き込まれて追及されなければいけないんだ!」――局長の顔にはそう書いてあったが、多くの都職員たちからすると思いは1つ、「自分は絶対にあのようにはなりたくない」である。「小池都政では、あの“盛り土問題”に象徴されるように、過去の重要決定に関わった幹部の特定が容赦なく行われ、責任の所在を明らかにされている。そのこと自体は都民の利益に繋がっているとも言えるが、裏方の職員たちは表に引っ張り出されて光を当てられることに慣れていない。今の状態が続くとして、職員の昇進意欲が高まるようには思えないですね」(同)。たとえ都庁の全職員が副知事を目指して頑張ったとしても、全体の構造やポストの数が変わらない限り、管理職に昇進できる割合が今より増える訳ではない。昔の時代より圧倒的に高度で膨大な情報量を処理しなければならない現代の公務員が、自分の時間・家族との時間を犠牲にして管理職になろうとするより、「私生活を充実させたい」と考える人が増えてくるのは、ある意味、当然のことである。尤も、都庁は管理職への昇進基準を大幅に緩和したり、試験の合格率を高めて、人材の質を下げることを警戒し、大きく選考制度を変更することに対しては慎重な姿勢を崩していない。都庁はフェアな実力主義を逸早く導入した組織だが、その実力主義のシステムのメリットをあまり感じていない職員が多いとすれば、それは都にとってもやや頭の痛い話である。仮に幹部の給料を今の2倍にしたところで、お空う「それならリスクを取って挑戦する」という職員が増えるのか? 恐らく、そういう単純な話でもないだろう。優秀なマネジメントができる幹部を育成する為の試行錯誤は、終わることがない。


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