【ここがヘンだよ日本の薬局】(12) “疑義照会”の裏に潜む薬剤師と医師の不健全な関係

「薬剤師は医師が処方した薬を出しているだけ」――。一部の薬局では、それが事実として罷り通っている。薬剤師側から見ると、義務を果たしたくても果たせない苦しい事情もある。薬剤師が医師の“言いなり”となっている現状をレポートする。 (取材・文/フリーライター 永井孝彦)

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薬局の窓口で、「先生は何て仰っていましたか?」と尋ねられたことはないだろうか? 穏やかな口調だったとしても、その言葉の向こうには、薬剤師と医師との間に流れる深くて暗い川が見えるかもしれない。本題に入る前に、薬剤師の仕事を確認しておこう。調剤薬局で働く薬剤師の業務は、大きく3つに分けられる。1つ目は、処方箋に従って患者に薬を提供すること。2つ目は、患者に薬の飲み方を説明し、また薬が適正に服用されているかを確認して、服薬指導をすること。3つ目は、処方箋の内容に疑問が生じれば、疑義照会をして、誤りがあれば正すこと。何れも、患者の安全の為には重要な業務だが、薬剤師自身が実感する労働負荷には濃淡がある。1つ目の薬の提供は、薬の種類と数量を間違えなければいいのだから、慎重さは求められるものの、心理的な負担は無い。一方で、薬剤師の収益のベースとなるのが、この業務だ。例えば、月に2000回を超える処方箋受付や、特定の医療機関に関わる処方箋受付が70~90%を超えないような、即ち大病院の門前薬局ではない一般的な調剤薬局の場合、処方箋受付1回につき、報酬点数は41点。ジェネリック医薬品の調剤数量が75%以上の薬局なら22点が加算されるので、合計63点。棚から薬を出して、袋に詰めると、調剤基本料として630円の収入になるのだ。東京郊外の街で薬局を経営する薬剤師が言う。「はっきり言って、調剤基本料はおいしい。でも、薬局にはそれなりの設備投資や人件費が必要な訳だから、高過ぎるという批判は当たらないと思う」。2つ目の服薬指導は、人と対面しての業務だが、相手が患者なので、心理的負担はそれほど無い。「ただ、『病院で診察を受けてきている筈なのに、どうしてそんなに病気のことを俺に聞いてくるの?』っていう患者さんはいるよね。お年寄りが多いから、なるべく文句を聞くようにしているけどさ」(同)。服薬指導に対しては、薬剤管理料の中の薬剤服用歴管理指導料が報酬となり、点数は38点ないし50点だ。

3つ目の疑義照会は、端的に言えば医師のミスを見つける作業がベースとなる。その為、薬剤師にとっては心理的負担が大きい。しかも、患者を副作用等の薬害から守る最後の砦とも言える作業なので、責任も重い。「薬のプロフェッショナルとして、処方箋のチェックが一番大事な仕事だと思う。薬の準備ができるのを待っている患者さんからは、机に向かってただボーッとしているように見えるかもしれないけど、慎重にチェックしているんだよ。処方箋のミスって結構あるんだよね。うちは1日に5枚くらいの処方箋を扱うけど、必ず1~2枚はミスが見つかる。義務だから疑義照会はするけど、医者のミスを指摘する訳だから、気は進まない。言葉を選んで話すことも多いよ」(同)。薬剤師の仕事は医師の処方箋があって成り立つので、薬剤師はどうしても医師に遠慮しがちになるのだ。患者の安全を守るという大義の前では、立場の違いによって円滑なコミュニケーションが妨げられるようなことはあってはならない筈だが、現実はそうではない。門前薬局ではなくても、多くの薬局は、主に立地条件を理由として、特定の病院と関係性を深めることになる。病院と薬局が密接に結び付いている場合、医師の機嫌を損ねてしまったことにより、薬局が経営難に陥ることも考えられるのだ。中部地方の薬局に勤務する薬剤師が打ち明ける。「開業内科と開業皮膚科の間にある薬局で働いています。毎日のように疑義照会をしていますが、一番多いのは処方箋の期限切れですね。それを指摘しても迷惑そうな口調になることもあるから、処方内容については、副作用の危険が大きい等、余程おかしいものでない限り、問い合わせることは難しいです。患者さんに話を聞いてみて、『この症状なのにこの薬を出すか?』と感じることもあるのですが、処方権は医師にありますから、こちらから『間違っている』とは指摘できません」。仮に、処方の誤りを指摘したことで医師と薬剤師の関係が悪くなったとしても、立地条件が良ければ患者はその薬局を利用するのだからいいではないか――。そう考えることもできそうなものだが、「それでも気を使わざるを得ない」と、この薬剤師が続ける。「友人の医者から聞いたのですが、あからさまに『○○薬局に行きなさい』と指定する医者がいるそうです。裏でバックマージンがあるのかもしれないですけど。ということは、患者に対して、特定の薬局に行かないように指示することもできる訳ですよね。そう考えると、医者には逆らえませんよ」。そうは言いながらも、処方薬による薬害が稀なのは、薬剤師が肝心なところでは疑義照会を行っているからだろう。『日本医療機能評価機構』の調査によると、疑義照会によるヒヤリハット(※重大事故に至っても不思議でない事例の発見)の解決件数は例年、15%前後で推移している。1年間の総処方箋枚数が8億枚、疑義照会率が2.7%として計算すると、疑義照会件数は約2160万件。その内の15%がヒヤリハットだとすると、年間300万件強の処方が薬剤師のチェックによって安全を保たれていることになる。同機構は典型的な事例も示しているが、中には「初回アンケートで『肝疾患がある』と回答した患者に、疾患禁忌の医薬品が処方されており、医師に伝えた上で該当の薬を削除」といった、医師の不注意では済まされないような重大な処方ミスも多い。薬剤師の疑義照会によって救われている生命も、少なからずあることだろう。

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薬剤師にとって重要度が高く、心理的負担も大きい疑義照会だが、報酬は低い。多くの薬剤師は、ここに不満を感じている。先ず、疑義照会をしただけでは点数は付かない。疑義照会をして薬剤が変更になったり、削除になったりする等した場合のみ、処方箋1枚につき30点の報酬なのだ。重大事故を防いだとしても300円である。前出の薬局を経営する薬剤師が言う。「おかしいのは、この30点も患者と国庫の負担ということ。疑義照会になるのは、大体が医者のミスによるものでしょ? 本来は医者の報酬から減点すればいいのだけれど。医者は優遇されているよね」。話は、薬剤師法と医師法の不公平さにも及ぶ。「薬剤師法の第24条には、『薬剤師は、処方せん中に疑わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによって調剤してはならない』とあるんだけど、それに対する医師法には、“薬剤師からの疑義照会には答えなければいけない”という項目がない。法律よりも1ランク下の療養担当規則という厚生労働省令の中には入っているけど、それは国が『薬剤師は医師の下である』と認めていることになるよね」。窓口での「先生は何て仰っていましたか?」は、時として疑義照会の導入部である。気になることがあったら、薬剤師に質問の真意を尋ねてみることだ。詳らかにしてくれて、疑義照会を進めたら、質の高い薬剤師と言えるだろう。医薬分業は、調剤の待ち時間の短縮や処方ミスの防止等、様々なメリットを生んでいる。一方で、薬剤師と医師の間に歪みも作った。「結局は、性格の良い医者とパートナーになれれば薬剤師は楽っていうこと。薬学部で勉強していた頃は、人付き合いがこんなに大事な仕事とは思わなかったけどね」(同)。医師法の施行は1948年で、薬剤師法の施行は1961年だ。医薬分業が叫ばれる遥か前である。現状を鑑みた改正があってもいいのではないだろうか。


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