【儲かる農業2017】(19) 「農業は私のライフワーク。農業者の思いに応えたい」――小泉進次郎氏(自民党農林部会長)インタビュー

昨年11月に政府が纏めた『農林水産業骨太方針』では、守旧派の抵抗に遭い、農政改革が一歩後退したように見える。自民党農林部の小泉進次郎会長は、この局面をどう乗り切るのか?

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――丁度1年前の本誌インタビューでは、自民党農林部会長として農政改革にどのように挑むのか、意気込みについて語って頂きました。その際に小泉議員は、3つの公約(※①補助金漬け農政とは決別する、②農協改革の手を緩めない、③生産者起点から消費者起点へ転換して世界で稼ぐ体制を構築する)を掲げています。其々の改革の手応えは如何ですか?
「そうですね。僕の実感では、『農業者の意識が本当に変わってきたな』と感じています。僕の地元、神奈川県三浦市の農家さんと話すとね、開口一番で『おい、進ちゃん。肥料が安くなったぞ』って言ってくる。こんな声が聞かれたことは、これまで無かったよね。そして、彼は何て言ったと思います? 『次は段ボール(の値下げ)を宜しく』って言っていた。僕に『宜しくね』と言うのではなくて、農業者の皆さんが農協に対して『高いものは高い』とちゃんと言わなきゃ駄目ですよね。でも、農家さんの口から資材やコストの話が出るなんてね。こんな会話が自然にできるようになったことに、農政改革の手応えを強く感じています。改革のフェーズは、公約①の政治、公約②の農業団体まで進みましたが、最終的には、農家自身が改革を求めていく世界にならないといけません。そうした意味で、公約③の生産者が世界で稼ぐ体制の構築は、未だ道半ばです。でも、手段は考えていますよ。今後、経営の質の向上や世界で稼ぐ手段として、国際認証(グローバルGAP)の導入を積極的に進めていきたいと思っています。この3月にはオリンピック・パラリンピックの食の調達基準が決まりますが、日本では国際認証を取得している農家って殆ど無いんです。特に若い世代の農業人材の育成も兼ねて、農林高校ではグローバルGAP取得の義務化を進めていきたいですね」

――経営マインドのある農家が増えてきたということですよね。但し、担い手農家の農政改革への理解度がちぐはぐな印象を受けることがあります。例えば、本誌の農家アンケートによれば、『JA全農』が商社・メーカー機能を縮小させることには賛成なのですが、農協から信用事業(金融事業)を分離させることには反対の意見も多いのです。
「なるほど。かなり凸凹な議論が多いですよね。僕、この一連の農協改革の議論が、嘗ての郵政民営化の議論と似ていると感じることがあるんですよ。当時も、民営化反対のキャンペーンの1つに、『民営化すると郵便局が無くなる』というのがあったじゃないですか。今回も一緒。『一連の農協改革を進めると農協が無くなる』と勘違いしている人が大勢いる。『農協は必要ない』なんて一言も言っていないのに。農協は信用事業を譲渡しますが、代理店としての機能は残ります」

――小泉議員は農政改革を政治主導で進めてきたことは確かですが、補助金からの脱却はできていないのではないでしょうか? アメリカの離脱が必至の『環太平洋経済連携協定(TPP)』予算にせよ、コメ農家向けの補助金メニューにせよ、相変わらず補助金政治は続いている印象を受けますが?
「色んなご指摘はあると思いますけど、予算の使い方はだいぶ変わったと思います。一時的に農家を救済するだけの一過性の“死に金”から、“生き金”になるお金の使い方をするようにしました。敢えて俯瞰した立場で話をしますが、厚生労働省の予算は30兆円です。一方の農林水産省の予算は2兆円です。農水省15個分の予算が厚労省で使われている訳ですよね。それを思うと、『医療や社会保障にお金を使う国から、健康な食を取り戻して、食生活から真に健康になっていくことで社会保障費を抑制できるんじゃないか?』と思います。勿論、予算ありきの農政では駄目なんだけれど、着実に将来に繋がるタネは必要です。僕はこれまで、農業のイノベーションは軽視されてきたと思います。人工知能(AI)が搭載された自動収穫ロボットとかね。もっと投資していくべきだと思います。トヨタ自動車が長野県でジビエの移動式解体処理車を販売しているんですが、折角トヨタがやってくれるんだったら、王道のトラクターとかコンバインとかも造ってほしいですよね。トヨタだったら幾らの農機ができるんだろうか? そうなれば、農機の寡占4社体制に揺らぎを与えられます」

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――農協改革は、全農自身が行う“自己改革”に委ねられることになりました。農政改革が後退し、骨抜きになってしまったのでしょうか?
「それは違いますね。じゃあ、『規制改革推進会議のタマ通りにやれば改革が成功した』という評価になるのでしょうか? 先ず、全農がこうやって表舞台に引きずり出されることは、これまでなかった筈。最近、驚いたのですが、農協の人でも農家の人でも、実は全農がどういう存在なのかきちんと把握していない人が多いということです。全農の取扱高は5兆円。これは大体、伊藤忠商事と同じくらい。職員数8000人は、三菱商事の6000人を上回る規模です。そして、手掛けている事業は、イギリスの食品であるSFGホールディングスを買収したり、ヨーロッパに和牛レストランを展開したり、ミシシッピ川から飼料を持ってきたり。そして、農家の皆さんに農業資材を売ったり、農家の皆さんが生産した農作物を販売したりしています。これだけの多岐に亘る事業を展開しているのが、全農という組織なのです。この超メガ企業のガバナンスって誰が統治できるんでしたっけ? そんな人材が内部にいるんでしたっけ?――というのが、僕の根本的な問題意識です。一連の農協改革の中で、僕が一番問いたいのはそこなのです。現在の全農の役員は皆、地方の組合上がりの人ばかりです。現在の全農の機能不全を起こしている組織の在り方は、本当に農家の皆さんの為になるのか? だから、11月の骨太方針では、“外部人材の登用”という言葉を盛り込みました。あのペーパーの最後6行分は、全農との攻防で『落とせ』と言われたところです。僕は『絶対に落とさない』と押し切りました。この攻防を経て残したところを評価されることなく、“骨抜き”と言われるならば、言わせておけばいいと思いますね」

――発表直後に「負けて勝つかな」と仰っていた真意は、どこにあるのですか?
「『自分がここまで踏み込みたいというところまではできなかったけれど、改革が逆回転することはないよう、良い仕掛けはできましたよ』という意味です」

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――全農にボールを投げて、彼らが改革する形に落ち着きました。身を切る改革は期待できないのではないでしょうか?
「でもね、僕はこの骨太方針の形が一番、全農にとっては苦しむ改革になると思っているのですよ。 全農は『自分たちで改革をやり切る』と言ったんですから。議論の途中で全農は、資材の共同購入のやり方が徹底されていなかったことを認めました。農産物の販売でも、買い取りの部分が不十分だったことを認めたのです。これらの欠点を踏まえて、それでも全農は『自分で改革をやる』と言ったんです。『あと2年ほどしかない“改革集中推進期間”でやり遂げる』と。一方で、規制改革推進会議の丸呑みになっていたら、全農にとっては一番楽だったと思いますね。あまりに高いボールを投げられても、1年で改革できる筈もなく、『これだから現場を知らない政治主導は駄目だ』と改革は実質的に頓挫していたと思います。兎に角、農業者の為の全農なんですか? それとも単なる資材メーカーなんですか?――彼らにはそれが問われている」

――全農改革はこれまで何度も頓挫していますが、「今度こそ上手くいく」という根拠はどこにあるのですか?
「今国会では、農水省だけで8本もの法律を提出するんですよ。農水省でこんなに法案提出が多いのは10年ぶりのことです。11月の骨太方針が卵だとすると、これらの法律を今国会で成立させることが、卵を孵化させるということになります。これ以上、改革を担保するものはないと思いますよ」

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――小泉議員は、自身の役割を(政府と農林族の利害調整をする)“中間管理職”のようなものと仰っていました。中間管理職は何れ、農林部会長ではなくなってしまいます。農水省の奥原正明事務次官や『JA全中』の奥野長衛会長といった“改革派”も、そう遠くない未来に任期を終えます。改革派が全員去り、守旧派がパワーを盛り返し、農政改革は後戻りするのではないでしょうか? アメリカの離脱により、「TPPを梃子に改革を進めよう」という機運も低下してしまいました。
「改革の逆戻りというのはあり得ないです。あり得ません。TPPが雲散霧消し、何の手を打たずとも『このまま安泰だ』等と思っている人がいるとしたら、それこそ最大の脅威です。変わる気のない人に『変わりましょう』と言っても、それは政治ができることのノリを超えています。僕は『結果の平等は無い』と思っているから。やはり、先を見据えて、新しいことにチャレンジしたい。もっと自分の経営力を高めたい――。そういう人たちを、全力で後押ししていきたいです。これは、誰が農林部会長になっても変わらないことです。農林部会長になってから、全国の若い世代の農家さんとの出会いの場を沢山持たせてもらいました。『このままで大丈夫』なんて思っている人なんて誰もいないです。アメリカでドナルド・トランプ大統領が誕生して、企業も個人も身構えていますよね。トランプ大統領の言動に左右されるのは仕方のないことだけれど、日本独自でやれることもある筈。その1つが農政改革です。“農は国の本なり”という言葉がありますが、今こそ、農政改革の歩みは、日本にとって必ずやプラスに働きます。土台を固める、国家の基礎をしっかり固める。その足腰になるのが農業です。残念ながら、日本の農業の構造問題を解決するのに残された時間は多くはありません。今や、農業は私のライフワークです。農林部会長という経験なく、政治家として歩む道があったとするならば、それは想像しただけでも恐ろしいですね。『日本の農業を何とかしなきゃいかん』という思いを強く持たせてくれたのは、農業者との出会い。その皆さんに応えたい。そう強く思っています」 =おわり

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浅島亮子・千本木啓文・小島健志(※データ分析)が担当しました。

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記者の仕事は、仮説を立て、それを検証する作業です。検証の結果、仮説がドンピシャで当たることなど滅多にない訳ですが、今回の農業特集でやったコメの産地検査は例外でした。仮説通りどころか、予想を超える刺激的な結果が出たのです。実は当初、検査しようと考えていたのは激安のコメでした。当たる可能性は高いものの、オッズは低い馬券のようなものです。しかし、上司に“待った”を掛けられました。「安きに流れるな。そんなコメで疑惑を見つけても何のインパクトもないぞ」と。“競馬の大穴狙い”ではありませんが、リスクを負わないと得られない結果(※記者の場合はネタ)もあるのだと、改めて実感する特集になりました。 (本誌 千本木啓文)


キャプチャ  2017年2月18日号掲載

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