【ビジネスとしての自衛隊】(11) 中印戦争でのインドが教訓…対決姿勢を示す前に中国の意図を見抜け

20170803 05
現在、日本と中国の安全保障関係を見ると、1962年10月から約1ヵ月間、中国・インド間で大規模な武力衝突となった中印戦争が浮かんでくる。同戦争が勃発する前の状況が、現在の日中間の状況に非常に似ている為だ。中印戦争の結果はインドの惨敗であり、しかも同国の国際的地位の凋落を招いた。日本では、中印戦争を「平和愛好国家インドに対し、領土的野望に駆られた中国が一方的に侵略した」と理解されがちだ。しかし、実態は大いに異なる。先に手を出したのはインドだった。中印間の領土と主権の問題は20世紀初頭、中華民国と大英帝国領インドの時代が発端であり、当時も未解決状態だった。主権問題はチベットを巡ってのものであり、領土紛争は主として東部・西部地域で発生していた。1957年、西部の係争地域に戦略道路を忽然と建設したのは中国だった。そして、東部地域の両国暗黙の境界線を越えて軍事力を展開し、発砲したのはインドだった。更に、1959年にチベットのダライ・ラマ14世がインドに亡命して以来、インドは一貫して彼の亡命政権を庇護した。これは、中国側の尺度に照らせば、近代中国革命の命題たる“中華天下恢復”を根源的に脅かすものだった。即ち、“中華の分裂”をインドは扇動したことになる。インドの一連の行為は、中国側からすれば武力行使を発動できる要件を満たしたのである。このような中国側の意図を理解せず、ジャワハルラール・ネルー政権は武力行使を開始した。だが、結果的に軽率で無謀な軍事・政治的判断に対する代償を払うことになった。19世紀半ば以降、中国は欧米列強の侵略を受け続けた。それは、伝統的世界システムであった冊封体制の否定を意味した。畢竟、中国人の数千年に亘る価値観・秩序観が全面否定された。中華天下が崩壊するという危機である。

中華天下の崩壊を阻止し、中国的価値観を外国に再認知させることこそが、清朝末期の改革運動から始まる近代中国革命の根源的命題となった。領土を欧米列強と日本に簒奪され続けたことが、大衆にとって革命の象徴となり、近代中国の領土観に連接することになった。このような命題の達成は中国国民党(国民党)が継承したが、同時に中国共産党(共産党)も継承した。つまり、「中華天下恢復の主導者は誰か?」という正統性を巡る闘争こそが、国共関係の本質といえる。現在、尖閣諸島を始めとする中国の紛争地域は全て、国民党が自国領域と定めた空間で発生している。であれば、国民党が領有を主張する空間を放棄することは、近代中国革命の主導者たる正統性の自棄、つまり中華天下恢復という命題を自ら捨てることと同じ。それは、中国人である以上、共産党にとっても絶対に許容できないことなのだ。共産党の建国理念は、上述した中華天下恢復に収斂する。中国の軍事力は、この命題をどう達成するかだ。従って、中国は建国以来、核戦力を始めとする国防力建設に邁進してきた。同時に、国防力の現代化の為の資金を捻出する為、改革・開放政策を貫徹してきた。現在では、経済発展の防護も軍事力の使命となっている。中国の思考に従えば、国家の生存と社会・民族の安全を失えば、安定的経済活動など夢想に過ぎない。だからこそ、国家防衛が優先されるのである。中国の軍事戦略の原則は“積極防御”であり、これは揺らぐことがない。そこでは、中華天下恢復を妨害する覇権主義(=アメリカ)が最大の脅威となる。尤も、中国はアメリカとの軍事力を始めとする国力の格差を十二分に自覚している。また、国家的発展の実現の為には、アメリカとの軍事的対決を自ら望んではいない。それは、中国市場での優位を確保することを国策としてきたアメリカにとっても同様だ。両国は経済分野のみならず、軍事分野でもしばしば密接な協調関係を築こうとしているのは、この為である。実は、このような流れと構造を観察・理解しなければ、中国の軍事活動の本質と方向性は見えてこない。海洋問題をこの構造から見ると、南シナ海ではアメリカのシーレーンの管制によるアメリカ軍の軍事行動の抑制が、中国側の目的となる。その抑制の下、アメリカとの交渉で優位を確保しようとしている。なお、南シナ海は中国経済発展の大動脈でもある。シーレーン防護の為にも、国民党が設定した九段線の継承は必須だ。東シナ海と北西太平洋では、前述の戦略が破綻してアメリカの進攻が現実化した場合、そのアメリカ軍兵力を如何に減らすかが目的となる。従って、中国の軍事力は、同海域では所謂第一列島線を突破して日本南方海域へ展開し、アメリカ軍部隊の進攻を遅らせることを企図する。その間に国家的意志決定システムを疎開する等、持久戦態勢に移行させる。

20170803 09
この戦略は、21世紀中葉を目途に、右上表のような兵力整備計画によって具現化されようとしていることに注目すべきだ。中印戦争でインドが敗北したのは、ネルーの思想のみならず、自国軍事力と国家体制への根拠無き過信、そして中国側の意志と軍事力への不適切な過小評価による。特に、政治指導層と高級軍人の情勢認識と作戦指導に関わる能力の拙劣さが、直接的敗因として指摘される。即ち、当時のインドは中国との戦争を遂行する覚悟も実力も準備も無く、唯我独尊的幻想に基づいて中国との干戈に自らを追い込んだのである。これを知ることが、現在の日中関係にとって良い教訓を齎すと考える為だ。翻って、昨今の日中関係を考えると、確実に両国間に紛争は存在する。日本が中国を警戒し、不快に感ずる十分な理由はある。特に、領土問題に関する中国側の主張には、国際常識と歴史に照らせば何ら正当性は無い。よって、昨今の日本の世論が反中・嫌中傾向を示すのも当然だ。戦闘は軍事組織の専管活動だが、戦争は全国家的行為である。だが、その国家に戦争を貫徹する覚悟も展望も無い。自衛隊は、組織の自己増殖と生き残りに余念が無く、その延長線上で中国を仮想敵視しているのが、今の日本の実像だ。また、国民も経済界も全ての営みの前提となる国家的生存保障、つまり国防の当事者としての意識が欠落しているのも、もう1つの実像である。このような社会状況である日本が、確固たる理念に衝動される中国と対決姿勢を示すには、余程の自己変革に加え、相手の意図を等身大で理解することが不可欠だ。然もなければ、嘗てのインドよりも、より屈辱的な結果を招くことになる。嘗てのインドは、「アメリカ・イギリス・ソビエト連邦・国際世論が味方である」と幻想した。しかし、誰も助けてはくれなかったことを忘れてはなるまい。 (日本大学危機管理学部教授 川中敬一)


キャプチャ  2017年5月13日号掲載

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