【誰の味方でもありません】(13) 十分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない

映画『メアリと魔女の花』(東宝)を観てきた。『スタジオジブリ』所属だった米林宏昌監督の作品だ。田舎に引っ越してきた少女が、一夜限りの魔力を手に入れる物語である。面白かったのは、作中の魔女が大した魔法を使っていなかったこと。空を飛ぶ時もドローンのような機械に乗っているし、魔法学校内の移動はエレベーターだったりで、「魔法ってもういらないんだな」と思わせてくれる映画だった。SF作家のアーサー・C・クラークに、「十分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない」という有名な言葉がある。確かに、中世人が現代にタイムスリップしたら「魔法の世界に来た」と勘違いするかもしれない。鉄の塊は空を飛ぶし、地球の反対側に住む人と会話はできるし、瀕死の病人が生き返ることもある。嘗ての人が夢見た魔法は、もう殆どが実現してしまったのだ。しかも、その“魔法”は特権階級だけが享受できるものではない。今や世界の60億人が携帯電話を持ち、平均寿命は70歳を超えた。この1世紀で倍以上になった計算だ。天然痘を始め、人類を苦しめてきた病気は次々に根絶されつつある。そういえばこの前、『銀座三越』に行ったら“浮く盆栽”が売っていた。空中で回転する盆栽を鑑賞できるキットだ。三越でまで浮遊物が売られる現代は、まさに魔法の時代だ。

しかし、この時代特有のジレンマがある。それは、未来やユートピアを描くのが困難になってしまったことだ。例えば、昔の人だったら、飢えと病いの無い場所を天国として素朴に夢見ることができた。しかし、現代人からすれば、天国は退屈そのものだろう。多少風光明媚で、食糧が充実しているくらいで、21世紀の消費者たちは騙されない。では、「どんな大国なら行ってみたいか?」と問われても難しい。自分がモテて仕方ない世界に行きたい? それならアニメやゲームが沢山ある。巨万の富を得たい? 巨大な人口が平等に暮らす大国は、恐らく共産主義に近いだろうから、その夢は大国で叶えるよりも、この資本主義社会で実現したほうがいい。先進国の政治家たちは、目指すべき社会の在り方を語れずにいる。嘗ては貧困撲滅や富国強兵等を叫んでいればよかったが、食うに困るレベルの貧困は世界中から消えつつある。依然として格差は主要な争点であるが、社会主義の失敗が判明した今、それは再配分の程度をどれくらいにするか(※所得税率を何%にするか)の問題に過ぎない。若い世代が大きな夢を語らなくなり、田中角栄のような破格の政治家が消えたのは、社会が成熟した証左なのだ。最近では、どんなYouTuberよりもアバンギャルドな松居一代を見て、年長世代の破壊力を思い知らされた。しかし、この社会にも未だ実現不可能なことがある。1つはダイエット。お金持ちは探求すべき夢として、態と自らを太らせているのだろうか?


古市憲寿(ふるいち・のりとし) 社会学者。1985年、東京都生まれ。東京大学大学院博士課程在籍。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。著書に『希望難民ご一行様 ピースボートと“承認の共同体”幻想』(光文社新書)・『絶望の国の幸福な若者たち』『誰も戦争を教えてくれなかった』(共に講談社)等。近著に『大田舎・東京 都バスから見つけた日本』(文藝春秋)。


キャプチャ  2017年8月3日号掲載
スポンサーサイト

テーマ : 政治・経済・社会問題なんでも
ジャンル : 政治・経済

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接
QR码
QR