【Deep Insight】(34) アメリカ離れの世界、日独の出番

“トランプ疲れ”とでも言おうか。ドナルド・トランプ大統領が指先で放つ独善的な呟きにも、我々はすっかり驚かなくなった。世界最強のリーダー役を返上して“アメリカ第一”へと突き進むトランプ政権に、国際社会は忍耐と関心を失いつつある。アメリカの調査機関『ピューリサーチセンター』が、今年2~5月に世界37ヵ国で実施した調査で、トランプ大統領が「国際問題に正しく対処する」と答えた人の割合は22%と、バラク・オバマ前大統領の最終年時点の64%から3分の1に急減した。隣国のメキシコで新旧大統領の信頼度は49%から5%へ、ドイツは86%から11%へと激減。逆にロシアは11%から53%へ急上昇した。トランプ政権が“悪”と見做す貿易赤字を是正する為の制裁措置も、一時は市場を沸かせた減税や財政出動も、未だ実行に移っていない。それでも、世界の大半で“アメリカ離れ”の兆候が強まっている。アメリカの穴を、残りの先進国と新興国がどう埋めるのか? 来週にハンブルクで開く『主要20ヵ国・地域首脳会議(G20サミット)』は、発足後半年のトランプ政権が齎す世界の勢力図の変化を映し出す。議長国のドイツと協調して国際秩序を支える役目を、日本が果たしてほしい――。ドイツ政府筋との議論を通じ、そんな期待を感じた。同じ62歳のアンゲラ・メルケル首相と安倍晋三首相。今年5月、シチリア島での主要7ヵ国(G7)サミットで、其々12回と6回の出席を重ねた両首脳は、反保護主義や地球温暖化防止の新枠組み『パリ協定』の評価を巡って、“1対6”の孤立を厭わないトランプ大統領に振り回された。メルケル首相はG7会議後、ミュンヘンで「他国に全面的に頼る時代はほぼ終わった。ヨーロッパは自らの運命を切り開かなければならない」と言い放った。アメリカへの“決別宣言”とも解釈されて有名になった演説には、「勿論、米英との友好関係の下で」という但し書きも付く。安全保障や軍事面で世界最強の力を維持するトランプ政権を、ただ突き放す訳ではない。アメリカのお株を奪うように自由貿易の守護者を自称する中国、米欧の重要選挙へのサイバー攻撃すら疑われるロシア…。G20には、先進国の足並みの乱れに乗じて影響力を広げようとする勢力がいる。自由主義に根を下ろした世界経済の仕組みを保つ存在が必要だ。「リベラルな国際秩序の存続は、日本の安倍晋三とドイツのアンゲラ・メルケルという2人の指導者の肩にかかっている」。アメリカの隔月刊外交専門誌『フォーリンアフェアーズ』で、プリンストン大学のジョン・アイケンベリー教授はこう指摘している。

日本とドイツの距離を近付ける要素は、主に3つある。先ず通商面では、2国間の貿易赤字を問題視するアメリカの一方的な措置を牽制し、多国間での貿易自由化を維持する。第2に、パリ協定を軸とする地球温暖化対策や少子高齢化への備え等、中長期の課題で共同歩調を取る余地がある。第3に、第4次産業革命を軸とするITやエネルギーといった技術革新での協力だ。大枠合意が近付く日本と『ヨーロッパ連合(EU)』の経済連携協定(EPA)は、日独連携の試金石だ。「韓国とEUとのEPAが結ばれている。日本とも同様の協定が結ばれるべきだ」。2011年5月、メルケル首相は記者会見で筆者の質問にこう答え、交渉開始の支持を明言した。ドイツ政府関係者は、首相の慎重姿勢の転換を“エボリューション(進化)”と呼んでいた。あれから6年。安倍首相も合意に強い拘りをみせる。「日本とEUのEPAは、極めて重要な意味を持つ。ここが秩序を作る土台になる」と、慶應義塾大学の細谷雄一教授は話す。既存の秩序に背を向けるアメリカと共に、イギリスはEU離脱という選択に突き進む。総選挙の賭けに失敗して少数与党に転落したテリーザ・メイ首相にとって、離脱交渉を脇に置いて国際舞台で指導力を発揮する機会は乏しいだろう。「アングロサクソン国家の賢明でない選択で、世界はここ3~4年、先の読めない停滞期に入っていく可能性がある」と、『国際通貨研究所』の渡辺博史理事長はみる。共倒れの事態を防ぐには、具体的な前進が必要となる。フランスにエマニュエル・マクロン大統領が誕生し、メルケル首相と“強いEU”の実現に動き出したのは明るい兆候だ。ドイツがフランス等と組んで、EUや周辺地域での経済秩序を整える。日本も、アメリカを除く『環太平洋経済連携協定(TPP)』を始め、アジアでの自由貿易体制を強固にする。着々と実績を積み重ねることで、米英の孤立主義をやんわりと包み込む仕組みができる。「日本とドイツが組めるのか?」と疑問を持つ人は少なくない。財政政策や金融政策に対する哲学も、中国やロシアに向ける態度も一致していない。安倍首相が築いたトランプ大統領との親密な関係は、メルケル首相とは大違い。だが、こうした差異が、寧ろお互いの足りない部分を補完できるのではないか? “極なき世界”では、従来の考え方を超えた連携が不可欠だ。「民主主義・法の支配・人権・市場経済。日欧は、この4つの共通の価値観で結び付くしかない」と、慶應義塾大学の渡辺頼純教授は語る。メルケル首相が9月の下院選挙、安倍首相が来秋の自民党総裁選という関門を越えれば、2021年までの長期政権が共に視野に入る。自由貿易を守り、弱者にも目配りする“包摂的な成長”を確立するのが世界経済の課題だ。同盟国のアメリカに復帰の余地を残しながら、長年築いた西側秩序を堅持する。新しい課題が日独双方に託される。 (本社コメンテーター 菅野幹雄)


⦿日本経済新聞 2017年6月30日付掲載⦿
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