【コラム】 アベノミクス最後の機会

政界は一寸先は闇というが、安倍1強がここまで脆いとは予想できなかった。森友・加計両学園や防衛省・自衛隊の問題、そして自民党議員の相次ぐスキャンダル――。強権的で説明不足が目立つ政権の体質も嫌気されている。内閣改造後も、世論の厳しい視線は止まないだろう。首相が猛省すべきなのはその通りだ。一連の問題の解明や再発防止に努めなくてはいけない。ただ、指摘される疑惑に首相自身が関わっていないことを前提に言えば、「首相に挽回のチャンスが与えられて然るべきだ」とも思う。第1に、もったいない。つい5年前まで、日本は毎年のように首相が代わり、海外の失笑を買っていた。安定政権を築き、アメリカのドナルド・トランプ大統領ら各国の首脳と渡りあう首相は、国際社会からも評価されている。第2に、政争に感ける余裕が無い。景気回復を支えた金融緩和には限界がみえる。危機的な財政を考えれば財政出動には頼れない。北朝鮮の核・ミサイル問題は脅威の度を増している。第3に、代わりがいない。直近の内閣支持率は、日本経済新聞社の調査で39%。現政権で最低圏に下がったが、“未だ30%台”とみることもできる。野党第1党の民進党の支持率は僅か6%だ。但し、条件がある。今度こそ“脱デフレ”を最優先課題に据えて実践することだ。

政権を取った2012年末の衆院選から、首相は選挙の度に経済重視を掲げてきた。アベノミクスがその具体策だ。衆議院で与党3分の2と、参議院で自民単独過半数の議席を得た。安倍1強を生んだ民意は、デフレ脱却への期待に他ならない。ところが、肝心のアベノミクスは金融緩和と財政出動に寄りかかり、成長戦略は中途半端なまま。一方で、安保法制や所謂“共謀罪”法は、強引とも言える手法で成立させた。このままでは、「有権者が与えた“政治資産”をちゃんと使っていない」と批判されても仕方ない。首相が2020年施行を目指す改憲論議も、副作用が心配だ。何れ国民が向き合う課題ではあるが、急げば護憲派は激しく抵抗する。「改憲派がやることは何もかもだめ」と経済政策にも悪影響を与えかねない。潜在成長率を引き上げ、少子高齢化社会に備えた社会保障を整備し、財政健全化を実現する――。ノーベル賞級の学者が考えても処方箋が定まらないのがデフレ病だ。生半可な覚悟で勝てる筈がない。衆議院議員の任期である2018年12月までには必ず解散・総選挙がある。それに先立つ同年9月には、首相が3選を目指す自民党総裁選が控える。野党は対決姿勢を強め、与党は痛みを伴う改革の先送りに傾く懸念が増す。政治環境を考えれば、首相に与えられた機会は、これが最後かもしれない。支持率低下は“ポスト安倍”への注目度を高め、野党に生気を与える。結果を出せばそれでよし。できないなら、「もったいない」等と言っている場合でなくなる。代わりを探すしかない。 (政治部長 内山清行)


⦿日本経済新聞 2017年8月4日付掲載⦿
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テーマ : 安倍政権
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