【Global Economy】(48) 竹森俊平の世界潮流:移民受け入れ、戦略練って

移民の受け入れは、経済や社会に様々な影響を及ぼす。欧米各国は移民増加への対応に頭を悩ますが、少子高齢化が進む日本にとっても今後、議論を深める必要が出てきそうだ。国際経済学者である慶應義塾大学の竹森俊平教授が解説する。

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「巨額の債務も、所得が上昇すれば負担が減る」という理屈に立ち、国内総生産(GDP)の2倍近い公債残高の負担を、経済成長を加速して軽減する――。この発想が安倍内閣の経済政策の中心にあった。それで2%程度の実質経済成長を継続することが目標にされた。しかし、現状では実現は覚束無い。長期的な経済成長率は、その国の総供給能力に依存する。2016年通商白書に従い、一国の総供給能力の成長率を示す“潜在成長率”をみると、2006年以降、約5年間の平均で、アメリカは1.9%、ドイツが1.1%だったが、日本は僅か0.4%。日本の場合、労働力が0.3%のマイナス要因になっている。少子高齢化で日本の労働人口が減少し、成長率を押し下げ、それで2%成長が遠ざかったのだ。人口動態では、日本は2025年に団塊の世代が全て後期高齢者になる転換点を迎える。年金や医療等、社会保障費の一部は財政が負担するから、財政状況は悪化する。更に、「2015年から2025年の間に要介護者が100万人以上増える」という予測もあり、人手不足は一層深刻になる。現在は女性就業率の上昇で不足を緩和しているが、それにも限界がある。そうなれば、労働力を増やす方法として移民を考慮せざるを得ない。欧米では“移民”は普通に使われる言葉で、ここでも使う。日本政府の公式発言では、この言葉が避けられている。移民は永住者のイメージがある。「外国人は短期で帰国するべきだ」という考えなのか?

ヨーロッパの移民大国であるドイツでは、1961年に当時の西ドイツとトルコ政府との間で雇用協定が締結されてから、移民流入が増加した。この協定では、トルコ人労働者は短期で帰国する前提だったが、実際には滞在が長期に及ぶケースが多く、それを追認して1964年に協定が改定され、長期滞在が認められた。国内産業界からの要請があったのだ。外国人労働力をドイツの生産システムに適応させるには、職業訓練が必要だ。その為に費用がかかる。漸く戦力になった人材を短期で帰らせ、新しい人材を一から教え直すのはあまりに非効率――。これが産業界の主張だった。日本の場合も今後、介護の現場等で外国人の就労が増えた時に、漸く戦力になった人材を短期で帰国させるには抵抗が生じるだろう。既に日本政府は、高学歴者や投資家等の“高度人材”に対して、国内永住権の承認を短期化する努力をしている。日本経済の将来は、産業技術の高度化でしか開かれない。だから、海外から優秀な技術者を獲得する為の措置は不可欠だ。だが、人口動態からして、医療や介護も確実に成長産業だ。長期滞在を認める措置を、この分野に広げる必要性が生じるかもしれない。若し日本で移民が増えた場合、社会保障政策(※年金や医療)をどう適用するかという、どの国も頭を悩ませている問題が生じる。移民は、社会保障制度にとってマイナス面とプラス面がある。先ずマイナス面だ。国民間の互助制度である社会保障が機能するには、社会の“同質性”の意識が必要だ。福祉国家として知られる北欧諸国では、最近まで移民が少なかった。アメリカは移民国家だ。だから、医療の国民皆保険すら存在しない。先週、与党の共和党は、バラク・オバマ政権時代に成立した皆保険への第一歩、医療保険制度『オバマケア』を廃止し、代替する法案を上院通過させることができなかった。制度の行方は依然、不透明だ。白人層の一部は、自分の税金が黒人等の医療費の補助に回るのを嫌う。これが問題の根源だ。一方のプラス面だが、移民は社会保障会計を含めた財政の助けとなり得る。国民と政府の間の支払い・受け取りを差し引きした勘定を考えよう。社会人前の若年層は、税負担は少ないのに、政府は彼らに教育等のサービスを提供するから、政府の“支払い”だ。退職後の高齢層にも、政府は年金・医療保険等を提供し、やはり政府の“支払い”になる。これに対し、税金を一番負担し、教育・医療・年金を然程必要としない勤労者・成年層の場合、政府の“受け取り”になる。

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政府は成年層からの受け取りで、若年層・高齢層への支払いを賄う。ある年齢の国民が、今後の生涯を通じてどれだけ政府に支払うかを計算すると、教育年齢を終えた25歳から30歳にかけての層の支払いが最大だ。そこで、25歳から30歳の外国人、可能なら高学歴によって高所得が見込める階層を選び、移民として受け入れるなら、彼らの支払いで財政は改善する。彼らへの退職後の社会保障の支払いを考慮しても、未だ財政収入にはプラスだ。ヨーロッパの国では、スイスがこういう移民政策に積極的で、経済が潤っている。少子国のドイツでも、移民受け入れが財政の安定化に繋がっている。2015年には、同国に100万人を超えるシリア難民が流入し、開放政策を掲げたアンゲラ・メルケル首相は批判の矢面に立たされた。首相の判断は、労働力や財政への貢献といった経済合理性に立つものだったが、大量の流入者を社会に同化させる為の制度の不足を考慮しなかった。この点での過ちを、後にメルケル首相も認めた。現在は中東の政治社会情勢が不安定な為に、ヨーロッパは移民流入が急増し易い環境にある。島国である日本の環境は異なり、移民を選別的に受け入れることができる。政府は有効な戦略を練るべきだ。尤も、社会保障制度を考えても、社会の同質性を脅かすような、あまりに性急な拡大は疑問だ。それ故、人手不足も財政問題も、“移民開放”だけでは解決できない。


竹森俊平(たけもり・しゅんぺい) 経済学者・慶應義塾大学経済学部教授。1956年、東京都生まれ。パリ大学留学(サンケイスカラシップ)。慶應義塾大学経済学部卒。同大学大学院経済学研究科修了。同大学経済学部助手やロチェスター大学留学を経て現職。著書に『世界経済危機は終わった』(日本経済新聞出版社)・『欧州統合、ギリシャに死す』(講談社)等。


⦿読売新聞 2017年8月4日付掲載⦿

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テーマ : 経済
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