【堅調景気の実相】(上) 人手不足、経済動かす

景気の回復が続いている。企業は海外需要を取り込んで収益を伸ばし、国内の設備投資にも前向きに動く。人口減での景気回復は賃上げの波を生み、物価も一方的な下落は収まった。だが、賃上げで消費が活発になり、デフレから抜け出す“好循環”には道半ば。人手不足を転機に、企業が生産性を上げ、持続的な賃上げに繋げれば、息の長い景気回復になる。

20170809 03
半導体製造装置の『東京エレクトロン』は今月1日、社員の役割や責任に応じて給与を払う人事制度を取り入れた。日本で働く約7000人の給与総額は、制度変更で年約20億円増え、若手や中堅を中心に給与が上がる。人材への投資を支えるのは、好調な業績だ。スマートフォンの高機能化等を受けた世界的な半導体市況の回復を受け、2018年3月期は2期連続の最高益を見込む。今夏のボーナス支給額は平均173万円と、前年から47%増えた。世界経済の回復が景気の追い風になっている。『日本銀行』の統計で見た1~6月の実質輸出は、前の期に比べて3.9%増。東日本大震災からの回復期を上回る伸び率だ。企業の設備投資にあたる5月の資本財出荷は、1~3月平均より6.1%増えた。4~6月の実質経済成長率は、「6四半期続けてプラス成長になる」との見方が多い。外需に支えられた景気回復が進む中、人手不足は急速に進んでいる。働く世代の中心となる20~64歳の人口は、5年前に比べると474万人も減った。好況下の働き手不足は、賃上げの波を生む。スーパーマーケット大手の『ライフコーポレーション』は、今年3~5月の連結営業収益が前年同期より3.8%増えたのに、営業利益は24%減った。増収減益の一因は、低価格戦略で事業を伸ばす中で、必要なパートの募集費用が上がったことだ。日本企業はデフレ期に、比較的安い賃金で働く非正規社員を増やしてきた。非正規の賃上げは、“賃金デフレ”からの脱却を後押しする。先月は、正社員の有効求人倍率が2004年に調べ始めてから初めて1倍台に乗り、賃上げは正社員にも広がる。『スナイデル』ブランドを展開するアパレル大手の『マッシュホールディングス』(東京都千代田区)は今年度、25歳以下の販売員の昇給率を、従来の10%程度から25%に引き上げた。「25歳までの経験は将来のキャリアに繋がる」と語る近藤広幸社長は、質の高い人材の定着を狙う。パートを除く販売員への先月の新規求人倍率は2.51倍。0.99倍だった5年前に比べると、新規採用は難しい。

電炉大手の『大和工業』は、今期に25%の最終減益を見込むが、月額平均1500円のベースアップを実施。『日本商工会議所』によると、今年度に定期昇給やベアをした中小企業の内、82.8%が「人材確保・定着が目的」と答えている。働く人が受け取る報酬の総額にあたる名目総雇用者所得は、この5年間で6%増えた。昨年の就業者数が平均で6465万人と、2012年に比べて185万人増え、賃金を貰う人が多くなった。賃金の総額は、日本経済がデフレに入る前の1997年末よりは7%も少ないが、リーマンショック前の水準は超えた。賃金が上がって消費が増えると、物価が上がり、収益を伸ばす企業が更に賃金を増やす――。人手不足の賃上げで、経済の好循環への歯車は回り始めた。次の一歩で壁となるのが、高齢化と人口減だ。2012年に比べて185万人増えた就業者の内、174万人は65歳以上の高齢者だ。賃上げの恩恵を受け易い25~44歳は94万人減った。働く人は増えたが、賃金の少ない層が多く、全体での賃金水準は回復の途上にある。『日本経済研究センター』が民間エコノミスト40人に聞いた“今後1年以内に景気後退になる確率”は27.6%と、高くはない。景気回復が続く間に、賃金を総額として押し上げる一段上の成長段階に移れるかどうか。焦点は、人手不足を契機としたビジネスモデルの転換だ。ファッションビルの『ルミネ』は、テナントの人手不足に配慮して、4月から全店の8割にあたる12店で閉店時間を30分早めた。営業時間の短縮は減収のリスクがあったが、4~6月の売り上げは約2%増。新井良亮会長は、「各店舗が短時間で接客する等の工夫をしたことが、良い結果に繋がった」と自信を見せる。24時間営業を止めたファミリーレストランの『ロイヤルホスト』も、4月以降、既存店売上高が前年を上回る。ランチタイムに店員を増やし、健康に拘ったメニューで高齢者や家族連れの来店頻度と客単価を上げた。『三菱UFJモルガンスタンレー証券』の宮崎浩氏は、「過剰なサービスを減らしても収益は落ちない為、社員の時間あたり賃金は増える。0%台後半の賃金上昇率は3%台まで上げられる可能性がある」と見る。過剰サービスの見直しや省力化投資等、人手不足の対応策は目先の賃上げを阻むが、低生産性からの脱却は稼ぐ力の向上に繋がる。深刻な人手不足の下で、生産性の向上策が漸く進み始めた。こうした努力を尽くした末に賃上げを加速させられるかが、景気回復の先行きを左右する。 (取材・文/本紙景気動向研究班)


⦿日本経済新聞 2017年7月31日付掲載⦿
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