【堅調景気の実相】(中) 値上げ値下げ、せめぎ合い

20170809 04
『ヤマトホールディングス』は、当日配送に割増料金を設ける検討を進めている。配達員の負担を軽くすると共に、「価値に対して運賃を支払ってもらう」(山内雅喜社長)狙いだ。働き方改革は、無償が当たり前だったサービスの対価を浮かび上がらせる。戦後3番目の景気回復は、“人手不足の賃上げ”を齎し、消費の現場では値上げと値下げが鬩ぎ合っている。長崎ちゃんぽんが主力の『リンガーハット』で、国産野菜を多く使うメニューが人気を集めている。昨年8月に東日本の店舗で3%弱の値上げをしたが、今年3~5月の既存店売上高は4.9%増えた。消費者は、健康志向等、旬のキーワードを巡る商品にお金をかける“メリハリ消費”を強めている。『明治ホールディングス』のヨーグルト『R-1』は、免疫力の強化が期待できる菌を含む。「習慣的に買う消費者のおかげで値引きされない」(塩崎浩一郎取締役)という。景気回復で働く人は増えた。総務省が発表した6月の完全失業率は2.8%と、日本経済はほぼ“完全雇用”の状態にある。相続税や贈与税の算定基準となる今年分の路線価は、標準宅地で前年を0.4%上回り、2年連続のプラス。日経平均株価は2万円前後で推移する。雇用の安定と資産価格の上昇は、消費者心理を前向きにする。価格が高くても、価値を認めれば消費をする環境は整っている。内閣府が国内総生産(GDP)と同じ手法で計算した足元の実質消費は、2014年4月の消費増税前の水準をほぼ回復した。

ただ、『連合』によると、今年の賃上げ率は4年ぶりに2%を下回った。全人口の27%を占める高齢者には賃上げの恩恵が届き難い上に、物価の低迷で年金受取額が3年ぶりに引き下げられた。生活に身近な商品には、支出を切り詰める動きが残る。“値上げの春”――。今春、人材確保に向けた賃上げと原材料の値上がりを受け、ティッシュ・バター・はがき等、身の回り品で値上げが相次いだ。しかし、店頭の顧客は、単純な値上げは中々受け入れない。節約志向を映すのがインターネット通販だ。『スタートトゥデイ』が運営する衣料品販売サイト『ゾゾタウン』では、「低価格帯ショップの出店が増えている」(柳沢孝旨副社長)。飲料や洗剤等の身の回り品もインターネットで買う人が増えた。今や、インターネットを使った支出総額の内、13%が出前を除く飲食料品だ。消費回復の壁は、20年デフレで根付いた“デフレ思考”だ。値動きの大きい生鮮食品を除く6月の消費者物価指数は、前年比0.4%の上昇に留まった。『BNPパリバ証券』の分析では、各品目の支出割合を加味すると、全体の42%は今の景気回復期を通しても年平均の変化率がプラスマイナス0.5%の範囲にある。政府は今年の経済財政白書で、「物価はデフレ状況にはない」とした。523品目の消費者物価を見ると、6月時点で全体の半数強にあたる279品目が値上がりし、急激な物価下落が起きる状況ではない。しかし、足元では上昇品目の数はじわじわと減少している。日本経済の需要と供給の関係を示す“需給ギャップ”は需要超過に転じ、物価に上昇圧力が働く条件は整いつつある。働き方改革を転機に、企業が収益力を高める努力を続け、価値の高い商品とサービスを生み出すことが、20年デフレの処方箋となる。 (取材・文/本紙景気動向研究班)


⦿日本経済新聞 2017年8月1日付掲載⦿
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