【Deep Insight】(35) 暴走ウーバー、革新どこへ

嘗てないメガベンチャーを生み出した起業家は、どんな存在として産業史に名を残すのか? ライドシェア(相乗り)サービス最大手『ウーバーテクノロジーズ』の創業者であるトラビス・カラニック氏(40)が、CEOを辞任した。社員のセクハラ被害、技術盗用疑惑、自身の暴言――。問題が次々と噴出し、主要株主の投資会社に退任を迫られた。「兎に角、進め」と叫ぶ前のめりの経営姿勢が、荒れた社風の元凶とされた。同社は、スマートフォン時代を象徴する成功物語とみられてきた。企業価値は推定680億ドル(約7兆7000億円)と、未上場ベンチャーで断トツ。電気自動車メーカー『テスラ』の時価総額を上回る。確かに、世界に与えた衝撃は大きい。移動したい人と運転で稼ぎたい人を瞬時に繋ぐ交通手段は斬新で、シェア経済の潮流を決定付けた。隙間時間を生かす“ギグ”と呼ぶ働き方の可能性も示した。直接競合するタクシー業界だけでなく、自動車メーカーにも無視できない存在になった。「もう車を所有しなくていいのでは?」との消費者意識の高まりが背景だ。ロサンゼルス出身のカラニック氏は、攻撃的な起業家と言える。1990年代末に設立したファイル共有サービス会社は、著作権侵害で訴えられて頓挫。雪辱を期し立ち上げた別の会社は、2007年、2000万ドル近くで大企業に売却した。2009年創業のウーバーでは、規制当局と衝突し、待遇を巡って運転手と対立する場面もある。ウーバーはそれでも世界で利用され、乗車回数は5月に累計50億回に達した。交通渋滞が無く、通勤コストが低い都市づくりや環境保護といった同氏のビジョンには、共感できる部分が多い。CEO辞任が決まると、復帰を求める署名運動が始まり、1100人以上のウーバー社員が賛同した。それだけに、カラニック氏が足場固めを怠り、荒っぽいハンドル捌きで自滅したのは悔やまれる。「万能なスーパー経営者であるべきだった」と言いたいのではない。革新的な起業家たちは、常識外れ・型破りの異端児が珍しくない。「経営には興味がない」と言い切る技術オタクさえいる。にも拘わらず、経営が回り、社会と向き合えるのは、チームプレーの知恵を働かせているからだ。日々の事業運営を支える人材を幹部に受け入れ、自らの経験不足や苦手分野を補う。例えば、『Google』の創業者2人は、IT業界のベテランに長らくCEOを任せた。『Facebook』でも、創業CEOがGoogleから最高執行責任者(COO)を迎え、教えを請うた。

「耳の痛いことを言ってくれる人を近くに置き、話を聞く。起業家にとって、それが非常に重要だ」。ゲーム分野等で起業を経験し、起業支援会社『Mistletoe』(東京都港区)の社長を務める孫泰蔵氏は、そう実感している。カラニック氏が漸く問題を自覚し、動いたのは先月半ば。「ウーバー2.0の為には、トラビス2.0に取り組み、相応しいリーダーにならなければならない」。一旦休職し、自ら経営チームを築きたいと表明した。しかし、投資家たちは納得せず、完全に退くよう引導を渡した。その投資家たちにも責任はある筈だ。ベンチャーの専門家として有効な助言や対策をもっと早く打ち出せなかったか? 孫氏は、「カラニック氏が全部悪い訳ではない。投資家や従業員を含め、皆に反省すべき点がある」とみる。スマホ等のITが浸透し、相当な速さで事業をグローバル化できるようになった。野心的なアイデアを持つ起業家が、思う存分腕を振るえる時代だ。だからこそ、慎重に体制を作らないと暴走する。ウーバーとカラニック氏はどこに向かうのか? 『Apple』と前CEOのスティーブ・ジョブズ氏の歩みが、考えるヒントになる。「勝手な振る舞いで会社を混乱させた」と他の経営陣に糾弾され、ジョブズ氏がAppleを追われたのは1985年。同社はプロ経営者らを次々トップに据えるが、競争力を失い続け、破綻寸前に陥った。救ったのはジョブズ氏だ。1997年にCEOとして復帰し、ヒット商品を連発。病で世を去る2011年には、時価総額で世界首位に上り詰めた。Appleからの教訓は2つある。先ず、申し分のない経歴の経営者が革新を担えるとは限らないこと。ウーバーは新規株式公開(IPO)が取り沙汰され、後任のCEOには“安全運転”のできる経験豊かな人物が選ばれる可能性が大きい。ただ、いい意味でのアグレッシブさまで削がれれば、凡庸な会社になってしまいかねない。もう1つは、自分が興した会社を追放されるような問題児も進化できると示したことだ。独自の美意識や完璧主義のジョブズ流は不変でも、優れた仲間の意見に耳を傾ける姿勢が“スティーブ2.0”にはあった。現CEOのティム・クック氏らとの連携無しに、アップル躍進は語れない。「(追放は)苦い薬だが必要だった」。ジョブズ氏は後に振り返っている。カラニック氏はどうか? 一先ず、ウーバーの取締役には残るという。CEOに返り咲く日が来るか、別の会社を興すのかはわからないが、起業家としての真価を問われるのは、表舞台から一歩引くこれからだ。「難問の解決にワクワクするタイプ」と嘗て自己分析している。スマホ時代の徒花か、偉大な変革者なのかは、逆境下での今後の振る舞いが決める。 (本社コメンテーター 村山恵一)


⦿日本経済新聞 2017年7月5日付掲載⦿
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