『中外製薬』が抗がん剤で研究不正、資金提供で明らかな利益相反――患者の不利益と医療費の浪費、『大鵬薬品』の研究も同一人物

『中外製薬』の抗癌剤『カペシタビン』(※商品名『ゼローダ』)の効果を巡る研究――。第三者の研究機関が独自に試験を遂行したように装い、実際の効果が不確定なまま、恰も効果覿面の如く謳って売り捌く。患者のことなど、所詮は二の次。どこまでも深い癒着の闇を追跡する。

20170814 05
今、医療現場は“エビデンスに基づく医療”が主流だ。エビデンスとは科学的根拠の意味で、医学専門誌に掲載された論文も有力な論拠となる。医師が治療方法を選択する際、患者にエビデンスを示さねばならない。逆に言えば、医学専門誌に新薬の効果が明記された時点で、その新薬は錦の御旗を得る。たとえ、その研究が利益を最優先にする製薬会社の紐付きであったとしても、である。中外製薬のカペシタビンも然り。製薬会社『ノバルティスファーマ』の降圧剤の臨床研究データを改竄したとして、元社員が薬事法違反に問われた事件の判決は無罪となる一方、司法はデータの改竄を認定して、道義的な姿勢が世に問われた。だが、これは氷山の一角に過ぎない。実は、製薬会社が巨額の資金を研究機関に提供し、見返りの形で新薬の効果を過剰に喧伝するお手盛りは、今も密かに横行しているのだ。その論文は、京都大学の戸井雅和教授(乳腺外科・右下画像)を中心とした日韓の多施設共同研究グループの研究成果として、世界最高峰の医学誌である『ニューイングランドジャーナルオブメディシン(NEJM)』に載った。2007年2月から2012年7月までの間、陰性且つ標準的な手術前の化学療法で効果が不十分だったハイリスクの乳癌患者910人を登録。標準的な手術前の抗癌剤治療と外科手術を施した後、抗癌剤のカペシタビンを受ける患者と受けない患者に無作為に割り振った。結果は衝撃的だった。2015年3月の中間解析で、カペシタビン投与群のその後の病状が明らかに良好だった。2016年7月の最終解析では、カペシタビン投与により、乳癌が進行・再発するリスクが30%、5年後までに死亡するリスクが41%も低下したという。

それまで、カペシタビンは臨床試験で有効性を示し得なかった。2015年にアメリカ、最近ではドイツで発表された臨床研究の結果は、何れも否定的。今回は再発防止ばかりか、生存期間まで延長したとされ、世界の製薬・医療関係者を驚嘆させた。今回の研究と他の研究は、どこが違うのか? 世界の研究者の間で侃々諤々の議論が始まっている。遠からず、その再現性を確認する為に追試も実施されるに違いない。実は、研究者の中には、「医師主導の臨床試験の仮面を被った製薬企業の販促活動」と癒着を指摘する声が少なくない。疑念の源は、臨床試験の資金の提供元だ。NEJMの記載によれば、助成金を出しているのは一般社団法人『JBCRG』と特定非営利活動法人『先端医療研究支援機構』だ。JBCRGは前出の戸井氏が創設し、現在は『がん研究会有明病院乳腺センター』の大野真司氏が代表理事。理事には、乳癌専門の大物医師が名を連ねている。奇妙なことに、この団体の代表理事・常任理事6人の内、5人が今回の論文の著者なのだ。日本人著者12人全体で見ると、9人がJBCRG関係者で占めている。つまり、臨床試験を実施し論文を書いた研究者と資金提供元が事実上同一、シンクロしているのだ。しかし、論文には「JBCRG、先端医療研究支援機構は研究計画に関わっていない」と態々明記している。名前を重ねれば、根っこが同じことは誰の目にも明らかであるにも拘わらず、何故、こんなことわり書きを付したのか? それは後ろめたさ・疚しさの裏返しだろう。カペシタビンを販売する中外製薬は、製薬企業が医師への資金提供を開示し始めた2012年度からの4年間だけでも、JBCRGに1億円を寄付した。更に、先端医療研究支援機構にも2012年度~2015年度までに2億円超を提供している。つまり、中外製薬から3億円以上の資金が、JBCRG等の第三者機関を介し、カペシタビンの臨床研究と研究者に流れ込んだことになる。2011年以前の寄付金は非開示の為、実際にはもっと巨費に膨らむ筈だ。ところが、前述の通り、論文では中外とJBCRG及び先端医療研究支援機構とは関係ないと強調している。事実を隠蔽する為に、中外からの資金提供と書かず、無関係の資金で研究が実施されたかのように装ったのだ。こうした資金提供は、『日本医学会』や『全国医学部長病院長会議』が利益相反として報告するように勧告しているが、臨床研究の不正を防止する目的で今年4月に成立した臨床研究法では、規制の対象に含まれていない。資金提供は研究機関だけではない。2012年度から2015年度に、中外は戸井氏が主宰する乳腺外科講座に総額1600万円の奨学寄付金を拠出し、講演料等の名目で戸井氏にも150万円を支払っている。更に、本誌編集部がこの研究のプロトコールを入手したところ、プロパティの作成者の欄には“jp023622”と記されていた。「これは製薬企業の社員番号だ」と、ある製薬企業の社員は指摘する。JBCRGのオフィスは、東京都中央区日本橋に所在する。日本橋は、大阪の道修町と並ぶ製薬企業の中心地で、中外もこの地に本社を置く。その距離は図らずも、双方の根深い関係を物語る。

20170814 06
では、中外にとって、この研究は如何なる位置付けになるのか? その前に、中外の現状に触れたい。2002年、中外は“戦略的アライアンス”に基づき、スイスの製薬大手『ロシュ』の傘下に入った。現在、60%の株をロシュが持つ。中外はロシュ製品を国内で順調に販売し、中外が開発したリウマチ治療薬『アクテムラ』を海外に売り出している。2014年には『武田薬品工業』・『アステラス製薬』・『第一三共』に次ぐ国内第4位の製薬企業に成長し、2016年度の国内での売上高は4729億円、前期比6.3%増である。低成長に悩む他社を尻目に、「日本のトップ製薬企業になる」と鼻息は荒い。ただ、中外も安穏としてはいられない。ロシュの子会社である中外は、欧米や日本より市場が大きくなった中国、或いは隣国の韓国にすら進出できない。海外は親会社のロシュが販売するからだ。日本は財政難で薬価が抑制される為、製薬市場の成長は期待できない。武田薬品を筆頭に、国内メーカーも販路を海外に求めている。中外は日本でしか売れないハンディキャップを背負う。中外の中核は抗癌剤だ。2016年度の売り上げは2365億円で、売上高の50%。国内の抗癌剤市場の21%に及ぶ。だが、成長は鈍化傾向だ。2007年度から9~38%の成長を続けた抗癌剤の売り上げも、2016年度は前期比で2.2%増に留まった。最大の理由は、中外の稼ぎ頭である大腸癌・肺癌・乳癌等の治療薬『アバスチン』の苦戦に起因する。2015年度に売り上げ938億円だったのが、2016年度には921億円に減少する頭打ちとなったからだ。2位の乳癌治療薬『ハーセプチン』も、2016年度の売り上げは前期比4%増の341億円と伸び悩んでいる。

今回の論文で効能を誇示したカペシタビンの2016年度の売り上げは123億円で、抗癌剤領域で第4位の商品だ。市場規模は小さいものの、前期比11%の売り上げ増を示しており、これから成長が期待できる。それ故、論文を通じて、「この勢いを後押ししようとしたのではないか?」(他の製薬企業社員)との見方が強い。カペシタビンは乳癌以外にも、胃癌や大腸癌にも適応を持つとされる。このような癌は患者数が多く、中外が販売するアバスチンやハーセプチン等の他の商品との相乗効果も期待できるという。つまり、日本市場に特化するしかない中外にとって、「自社のマーケティングを考えた上での重要戦略商品」(同)と目され、その為に論文が格好の販促材料になるという訳だ。しかし、中外製薬のカペシタビンにはライバルが存在する。それは、『大鵬薬品工業』が販売する類似薬『ティーエスワン』。大鵬は『大塚ホールディングス』の子会社で、抗癌剤を専門とする製薬企業だ。ティーエスワンは主力商品で、1999年に国内で承認され、胃癌の標準治療薬となった。その後、大腸癌・乳癌・肺癌等にも適応を拡大した。ただ、大塚・大鵬共に順風満帆とは言い難い。大塚の2016年度決算で売上高は前期比16%減の1兆1955億円、純利益は9%減の925億円だった。とりわけ、医療関連事業は23%の減収。2015年にアメリカでの特許が切れた抗精神病薬『エビリファイ』の売り上げは、2014年度の5225億円から、2015年度には2421億円に減じた。ティーエスワンの売り上げも、ピークの2008年度の460億円から、2016年度には269億円へ減少。大塚は2015年度のレポートで、「胃がんにおける競合の激化により減少した」と総括している。ここで言う競合とは、中外が販売するカペシタビンに他ならない。大塚は、2013年9月に約8億8600万ドルで買収したアメリカのバイオベンチャー『アステックス』が有する抗癌剤の新薬候補の開発を進めており、それが市場に出るまで何とか凌がねばならない。それまでの間、ティーエスワンが主力の1つだ。中外から遅れること4年、大鵬は2011年4月に医師主導臨床試験である“POTENT試験”を立ち上げて、反攻に打って出た。HER2陰性の乳癌患者を対象に、抗女性ホルモン剤にティーエスワンを追加した場合の効果を評価した。この試験は現在進行中だが、何と、こちらの主任研究者も、中外のカペシタビンと同じ戸井氏である。若し、戸井氏が医学的な関心から臨床試験に踏み切ったのであれば、同じような薬を用いて、同じような臨床試験を並行して走らせる訳がない。こんなことをすれば患者が2つの試験に分散される為、臨床試験の進行が遅れる。医療界では臨床試験は“人体実験”であり、「不要な試験は実施すべきではない」と考えられている。臨床試験の体裁を取った販促活動と言われても申し開きはできまい。ウェブ上に“POTENT試験 試験概要”というPDFファイルが公開されているが、このファイルのプロパティの作成者の欄には、大鵬の女性営業社員の名前が記されている。製薬会社が丸抱えなのはカペシタビンと同じだが、異なるのは、この試験が厚生労働省の高度医療評価会議の承認を得ている点だ。

20170814 07
カペシタビン、ティーエスワンとも、手術後の補助療法という使い方を厚労省は認めていない。若し医師が処方すれば“適応外使用”になる。製薬企業による“適応外使用”の販促は、厚労省が厳格に禁止している。冒頭の試験では“医師主導臨床試験”を前面に打ち出し、中外は知らぬ存ぜぬを押し通した。一方、大鵬は厚労省から“お墨付き”を貰い、混合診療の対象にした。これで堂々と臨床試験に協力できるようになった。戸井氏らが進めて、中外や大鵬が“サポート”する医師主導臨床研究は、日本の医療にどんな影響を与えるのか? 中外のカペシタビンの研究論文には、懐疑の念を抱く研究者が少なくない。癌専門病院に勤務する乳癌の専門家は、「進行が遅い乳癌の臨床試験で、観察期間が僅か3年程度で全生存率に差が出るのは、常識的にみて考え難い」と首を捻る。データの改竄とまでは断定できないが、この試験では、医師も患者も自分がどちらのグループに割り振られているかわかる“オープン試験”と呼ばれ、有効成分を含まない錠剤(プラセボ)を使用していない。この場合、医師は試験薬群に割り振られた群を重点的にケアして、患者も薬の効果以外の理由で状態が改善してしまうことがある。これは“プラセボ効果”と言われ、治療薬の過大評価の温床になる。こんなお手盛り的な手法はいつまでも続かないが、戸井氏らの研究の真贋がはっきりするまで長い時間を要する。その間、中外は“世界の一流医学誌に載ったエビデンス”と喧伝し、大鵬も負けまいと販促活動を強化していく。割を食うのは、有効性が不確定な抗癌剤を漫然と処方される患者たちだ。製薬企業が“お手盛り研究”に手を染める構造的欠陥を解消しなければ、患者の不利益と医療費の浪費が止まることはない。


キャプチャ  2017年8月号掲載

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

わるいやつら(上巻)改版 (新潮文庫) [ 松本清張 ]
価格:766円(税込、送料無料) (2017/8/13時点)

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

わるいやつら(下巻)改版 (新潮文庫) [ 松本清張 ]
価格:810円(税込、送料無料) (2017/8/13時点)

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

東大病院を辞めたから言える「がん」の話 (PHP新書) [ 大場大 ]
価格:842円(税込、送料無料) (2017/8/13時点)

スポンサーサイト

テーマ : 医療ニュース
ジャンル : ニュース

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接
QR码
QR