【ニッポン未解決事件ファイル】(26) 警察庁長官狙撃事件(1995年)――警察内部から瓦解した『オウム真理教』との暗闘

1995年3月30日、警察が『オウム真理教』に包囲網を敷く中、国松孝次長官が自宅前で狙撃され、重傷を負った事件。疑いの目を向けられた信者の現役警察官が犯行を自白するも、決め手無し。2010年、時効成立――。 (取材・文/フリージャーナリスト 李策)

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1995年3月30日午前8時25分頃。東京都荒川区のマンション敷地内に、突如として銃声が響き渡った。雨の中、スーツ姿の男性が腹を鮮血で染めて倒れこむ。警護のSPは素早く動いたが、銃声は数回続き、倒れた男性はその度に体をよじらせた。現役の警察庁長官が、自宅前で狙撃される――。“治安の良さ”を世界に誇ってきたこの日本で、誰も想像できなかったことが現実に起きた。この日から警察は、“威信をかけた捜査”に突入。しかし、その迷走ぶりは皮肉にも、「日本の警察が解決できるのは、身内や知人同士の怨恨やカネ絡み殺人だけ。計画的な犯罪には歯が立たない」との印象を強く与える結果になった。以下にその経過を振り返ってみる。目撃情報等によると、当時の警察庁長官・国松孝次(※右画像)は、20m以上離れた場所から撃たれた。犯人の男は、長官が住むマンションの1階敷地内の柱の陰に隠れて待ち伏せして、玄関から出てきた国松長官を狙撃した。犯人の男は40歳位で、身長約180㎝。白マスク、帽子に紺色トレンチコート姿だったという。狙撃後、現場近くで黒い自転車に飛び乗り、同マンション裏の路地を通って逃げ去った。しかし、朝の通勤時間帯の犯行だったにも拘わらず、捜査本部は逃走経路の把握に失敗する。「犯人らしい男を見た」。捜査本部には、事件から5日間で約120件の情報が寄せられた。その内の相当数は、京成本線等の町屋駅方向に逃げた様子を示唆。他方、マンションから南東側のJR・地下鉄の南千住駅方向に逃げたことを窺わせる情報も集まった。犯人と同じ格好をした仲間が、逃走支援の為に別の方向に走った可能性もあるが、何れにせよ、捜査はこの時点から迷走を始めるのである。

犯人像についても同様である。犯人は、歩行中の国松長官に約22mの距離から短銃を4発発射。うち3発を腹部等に命中させた。そのことから“射撃能力が極めて高い男”との見方が出る一方で、評論家の間では「訓練次第で、素人にもできない芸当ではない。寧ろ、プロなら確実に射殺されていた」との声も出た。そんな具合に、捜査の長期化が予想され始めていた1996年10月25日、元オウム真理教信者の現職警察官が狙撃に関与したことを仄めかす供述をしていることが明らかになった。都内の報道機関に、「犯人は警視庁の警察官で、既に犯行を自供している」等とする差出人不明の文書が送られてきたのだ。刑撃事件は、1995年3月20日に地下鉄サリン事件が起き、捜査当局が山梨県上九一色村等の教団施設に対し、大規模な強制捜査に着手する中で発生した。また、国松宅等のマンションの郵便受けに、狙撃事件の前日、オウム真理教への強制捜査を批判するビラが撒かれたという事実もあった。捜査本部は、こうした状況等から、オウム真理教が捜査の撹乱を狙った組織的な犯行との見方も視野に入れていた。そんな中、オウム信者であった現役警察官が、1996年5月初旬から実行を認める供述を開始した。警視庁は警察庁にも報告せず、捜査員が数ヵ月間、共同生活をしながら聴取。オウム真理教の警察官に対するマインドコントロールの影響を考え、専門家にカウンセリングも受けさせた。だが、その様子を収めたビデオが後に民放テレビ局に流出し、却って供述の客観性に疑問を抱かせる材料となってしまう。警視庁は、こうした任意聴取を続ける中で、発砲の状況や現場からの逃走の経緯に関する説明に、実際に事件に関わった者でなければわからない“秘密の暴露”を認めた。しかし、警察官が凶器の短銃を捨てたと明かしたJR水道橋駅近くの神田川からは、物証が見つからなかった。実行メンバーとして警察官が名前を挙げた複数の教団幹部も其々、事件への関与を否定した。結局、警視庁はこの警察官を懲戒免職の上、警察の内部情報を漏らしたとして地方公務員法違反(秘密漏洩)容疑で書類送検したが、そこまでだった。東京地検は1997年6月17日、「供述の信用性には重大な疑問を抱かざるを得ず、狙撃事件の被疑者として捜査を進めるのは適当でない」との見解を発表。「元警察官が銃撃事件の実行犯の可能性は極めて低い」との判断を示した。一方、この間、極秘の事情聴取が発覚したことを受けて警察庁は、①警視庁から警察庁に未報告だった②十分な裏付け捜査を怠った――として、当時の警視庁公安部長を更送。井上幸彦警視総監も引責辞任する展開となった。

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その後の事件捜査では、オウム以外の具体的な犯人像は全く浮かんでいない。捜査本部は2004年7月7日、オウム真理教の元幹部ら3人が関与していた疑いが強まったとして、殺人未遂の疑いで逮捕。関係先を捜索した。逮捕されたのは、教団の元幹部2人と、件の元警察官である。しかし、この時も東京地検は、この3人について、嫌疑不十分を理由に不起訴処分とした。警視庁は、元警察官の所持品を最新の方法で鑑定した結果、眼鏡・マスク・革手袋・アタッシュケース、机の引き出しから鉛・バリウム・アンチモンの3種類の成分を検出。これが拳銃を発射した際に検出される火薬成分と似ているというのが、この時の逮捕の理由だった。しかし、元警察官を除く2人は関与を否認。元警察官は「車で寝ていた」「自分が撃ったかも」等と供述が変遷するありさまで、到底、公判維持は不可能だったのだ。そして、狙撃事件は2010年3月30日午前0時、殺人未遂罪の公訴時効(※15年)が成立。警察組織のトップを狙った前例の無いテロを巡り、警視庁は延べ約48万人の捜査員を投入。オウム真理教の組織的犯行と見て、解明に全力を挙げたが、実行犯すら特定できないまま、真相は闇から闇へと葬られる結末となった。


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