【風俗嬢のリアル】(08) シズカの場合――田んぼの中のデリヘル

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新幹線の車窓から見える景色は、どこまでも続く田園風景だ。ここは栃木県那須塩原市。名古屋を出たシズカは、山梨のデリへルで1週間働いた後、那須塩原にある人妻デリへルへ移動していた。皇室の御用邸があることでも知られる那須は、温泉のメッカとしても有名な観光スポットである。新幹線の停車駅には沢山のパンフレットが並び、“那須塩原へようこそ”と書かれた上りが幾つも掲げられ、街を賑やかにアピールしていた。とはいえ、華やかさも駅を出れば一変。周辺は寂れた住宅街で、個人商店がぽつぽつと並んでいるものの、どこも店内は暗く、昼間なのにひと気がない。幾つかの店のドアには“泥棒侵入禁止”と書かれた警察署のステッカーが貼ってあり、事件など起きようもない安穏とした暮らしが窺えるのだった。シズカの働くデリへルの事務所は、JR那須塩原駅から更に電車に乗り、最寄駅から数㎞歩いた先にある。時間潰しに喫茶店に入ると、店内は地元の常連客で賑わっており、尻上がりのイントネーションで「~だべぇ」「~すっぺぇ」等のきつい栃木訛りが飛び交っていた。隣席に座る年配女性たちは、長男の就職先がどうとか、次男の嫁がどうといった身内の話で盛り上がっており、田舎の閉鎖的な空気感が伝わってくるのだった。駅前からして風俗の影も形も無かったが、シズカに教えられた住所は更に田圃の多い地域である。蔵のある家も珍しくなく、時折、風に乗って牛舎の匂いが漂ってくる。本当にこんな場所にデリへルがあるのだろうか? 民家の間の小道を歩いていると、突然、庭先にいる番犬に吼えられ、驚かされるのだった。

「ここ! ここ!」。見ると、前方でシズカが手を振っている。指差す先は、瓦屋根の古びた一軒家。看板も表札も無く、強いて怪しい点を挙げるなら、ブロック堀で囲われた敷地内に車が何台も停まっている点か。いや、それでも傍目にはデリへルの事務所などとは絶対にわからない。向かいの平屋ではお爺さんがひとり庭仕事をしており、近隣の畑からは重機を動かす音が響いていた。そんな田舎の風景に、すっぽり溶け込む一軒家である。「1階が事務所と待機室。2階が寮になっていて、今は私ひとりで住んでいますね」。そう言われて家全体を眺めてみたが、部屋の窓はカーテンが閉まっており、人の気配を感じることはなかった。「こんな場所にデリへルがあるなんて、近隣住民も気付かないよねぇ」。私が言うと、「どうだろう? 送迎車で家に入る時、外を歩いていた小学生の男の子3人組が、ニヤニヤしながら窓越しに私のことを見ていたんですよ。だから知っているのかも」。シズカは当たり前のように答えた。田舎の小さなコミュニティーでは、隠すほうが難しいのかもしれない。「夜はこの辺真っ暗で、蛙の大合唱が凄いんですよ。ゲロゲロゲロゲロ、それしか聞こえない。朝は日光で6時には目が覚めますね」。落ち着いた場所で話を聞く為、私とシズカは再び駅に向かって歩いた。舗装されていない砂利道を歩いていると、派手な改造自転車に乗った少年が蛇行運転して通り過ぎていき、私は思わず目で追ってしまった。「那須塩原は断トツで田舎ですね。今までも、田圃の中の一軒家っていうスタイルのデリへルはあったけど、ここまで田舎は初めてですよ」。車社会の為か、道を歩いているのは子供と老人ばかり。部活帰りの中学生集団は、ジャージにへルメットを被って自転車を漕いでいた。突然、ランドセルを背負った小学生に「こんにちは」と挨拶され、シズカも「こんにちは」と返している。私が驚いていると、「知らない人にも挨拶する風習は、田舎だと偶にありますよ」と教えてくれた。「何が田舎って、観光地にバスが出ていないことですよ。観光客に優しくない! 私が行きたい場所は、車じゃないと行けないところばかりなんです。アルパカ牧場はバスが出ていないし、ピラミッド元気温泉は寮から歩くと7㎞はあるし、湯西川温泉の平家狩人村は公共機関を使うと片道4時間はかかる。鬼怒川に花の町っていう昔の遊郭街があるんですけど、そこも遠かったから止めましたもん。観光行くのに、ここまでバスが無いっていうのは初めてですよ」。那須塩原に来て1週間。何と、未だ一度も観光に行けていないという。ペーパードライバーのシズカは、レンタカーを借りて乗り回すこともできず、タクシーを使う贅沢は絶対にしない。計画していた観光ができず、モヤモヤしているのだった。「ありがたいことに、歩いていける距離にスーパーマーケットと本屋があるので、生活に不便は無いんですけど、そこしか行っていないですね」。不完全燃焼の毎日である。

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那須塩原に来る前にいた甲府のデリへルでは、「全然稼げなかった。お客さんが来ないですね。新人で入って稼げないのも珍しいけど、待機室にいる他の女の子も皆、動かないんですよ。中には12時間以上待機して、3日連チャンお茶引く子もいて、逆に『ここで働いていていいの?』って思いましたもん」。甲府では90分約2万円。女の子の年齢層は40代が多く、体型が崩れ、お腹の弛んだふくよかな女性が多かったという。「在籍してる女の子の割りに、やっぱりちょっと値段が高いですよね。それに、甲府は盆地のせいもあって暑過ぎて、初日から『早く出たい』って思っちゃったんです。それもあって1週間で出ました」。そしてやって来た那須塩原である。しかも周りは田圃だらけ。同じ田舎の為か、山梨ほどではないにせよ客は少ないようだ。「暇っすねー。初日こそ3本ついたけど、その後はいつも2本。部屋にWi-Fiあるから、待機時間は全然苦じゃないんですけどね」。シズカの出動時間は10時から17時。客の支払う金額は90分約1万8000円だ。店はアットホームで、店長は事務所でフェレットを飼っており、更に家の前の野良猫たちに餌を上げているという。スタッフは営業を終えると帰ってしまう為、朝は必然的にシズカが餌係だ。誰も出勤していない時間に家を出る時は、鍵を犬小屋の裏に隠して出てくるという。「他人の家を間借りさせてもらっているみたいな気分ですよ。寮の部屋はめっちゃ汚くて、布団を直に敷いていて、髪の毛とか虫とか挨だらけ。1階も掃除していなくて、廊下にクリスマスツリーが出しっ放しだし」。

女の子の在籍数は少なく、1日4人出勤すればいいほうだという。寮は近くにもう1軒あり、出稼ぎの女の子が2人住んでいた。「1人は長期滞在しているみたいで、もう1人はわからない。寮が違うと顔を会わせることがないんですよね。福島から車で出勤しているって子もいました。自走でホテルへ行くと、交通費分が女の子の手取りになるんで、車持ちは大体そうしているみたい」。更に地元の子も働いているようで、子連れで出勤してきたシングルマザーと送迎車で一緒になったシズカは、子供を膝の上に乗せ、抱っこしながら客の待つラブホへ向かったという。「女の子たちは皆、畏まらないし、繕わないし、本当に普通。まるでお祖母ちゃんの家に行って、親戚のお姉ちゃんが『久しぶり』って出て来たみたいな雰囲気を纏っているんですよ。待機室で一緒になっても、各々テレビを見ていたり、電話をしていたり、女の子同士で会話が無くても、壁が無くてリラックス状態。だって私、ずっとパジャマですもん。仕事が入ってから着替えるんです」。その普通さは、女の子だけでなく、客も同じだという。那須塩原は観光地だが、意外にも観光客はおらず、利用客は皆、地元民だった。「本当に近所のおじさんとか、親戚のおじさんみたいな空気感ですね。何か気負わない。皆、知り合いみたいな感じで、壁が無いんですよ。ギスギスしたお客さんはひとりもいないです」。田舎のデリへルは何度も経験しているシズカだが、栃木の長閑さは別格だという。「地方に行くほど、余所者に対して壁はあるんですよ。長野に関しては、余所から来た人でも『受け入れるよ』って態度でした。ところが、栃木は何にも無い。抑々、警戒心が無いんですよね」。地元民は皆、きつい栃木訛りである。標準語を喋るシズカは嫌でも目立つだろうと思ったが、「多分、地元の人は自分が訛っていることに気付いてないんじゃないかな。だって、1回も言われたことないですもん。『栃木のどの辺?』って地名を聞かれて、『栃木県民じゃないんです』って言うとびっくりされる。訛っていないのに、何故か同じ県民だと思われるんですよね」。シズカは首を傾げて言った。客層は40~60代が多く、周りは田圃だらけなのに、農家の客は1人もいないという。多いのは、建設会社や工場勤務だ。

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「工場の人は多いですね。自分が社長って人もいれば、社員で働いている人もいるし、皆、作業着か私服で来るんですよ。ゴルフ焼けしている人が多いかな。スーツを着た人は1人もいない」。確かに、那須塩原でサラリーマンを見かけることはなかった。それどころか、街にいるのは年寄りばかりである。「お爺ちゃんも多いですね。今日1人目のお客さんは、孫が中学生だって言っていたし。それに、子供が3人とか4人とか、子沢山が多い。出来ちゃった婚だって言う人も多かったです」。駅前にコンビニひとつ無い田舎だが、ラブホテルは多い。ラブホ街は近隣に1ヵ所あり、どちらも田圃沿いに数軒並んでいた。何と、昭和を象徴する回転べッドも未だ健在らしい。「全面鏡張りで回転べッドのあるラブホが1軒あるんですよ。お爺ちゃんのお客さんがお気に入りみたいで、回しながらプレイしていましたね。初めてですよ、あんなの」。更にプレイ面では、「那須塩原は、お尻を舐めるお客さんが多いかな。だって、1週間しかいないのに結構いましたもん。変態の素質がありますよ」と妙な特徴を挙げた。仕事を終えるとシズカは、近所のスーパーマーケットへ行き、パックに入って値引きされた総菜を買う。観光にいけない代わりにスーパーへ行くのが、1日の楽しみとなっていた。「海無し県だからか、刺身は高くて、閉店間際に行っても全然値引きされないんですよ。でも、野菜は安いし美味しい。あとは牛乳。乳脂肪分の多い4.5牛乳を買うんですけど、東京の4.5牛乳とは違う。濃厚で美味しいんです」。実は、シズカは牛乳好きだ。各県で必ず地元産の牛乳を飲むという拘りがあり、多少値段が高くても牛乳に関してはケチらない。

更に、近所には本屋もあり、漫画を立ち読みできる環境も揃っていた。「めっちゃパラダイス。ヤバいですよ、ここにいたらマジで堕落する。どうしよう!」。美味しい牛乳と、立ち読みできる本屋、構える必要のない気楽な人間関係。観光へ行けないことを除けば、那須塩原は中々高得点のようだ。「楽ですよ、楽。店長も適当だし、居心地はいいです。でも、ずっとここで働きたいかって言ったら無理ですね」。シズカはキッパリと言った。一体何故なのか? 「停滞しそう。成長がなさそう」。どうやら、あまりの長閑さに向上心を削がれるらしい。「那須塩原に来て、最初はキリッとした気持ちで働いていたのが、段々適当になってきたんですよ。今まで保ってきた風俗嬢としての誇りが無くなりそう。オンとオフが無くなって、ちゃんとしてないみたいな感じになっていくのが、人間的に拙いなって。生温い感じに浸かっちゃっているのね」。客が入らず、待機時間が長いのも原因のひとつだという。「家にWi-Fiがあるのが悪い。いつもは2ギガしかないんで、何か調べると直ぐ終わっちゃうんです。でも、Wi-Fiがあるとずーっとインターネットが見れるんですよ。このままだと引きこもりになっていく。絶対、この辺引きこもり多いですよ。大学で都市に出ても、人間関係に疲れて戻って来る人が多いって言っていたし。ここに居ちゃいけないですね。居心地いいから逆にダメ。この店にいるとダメです。堕落する!」。シズカはそう言い切った。「プロの風俗嬢として、自分の納得できる接客をしたい」というポリシーがあるらしい。普段、どんな接客をしているのか聞いてみると、シズカはワントーン声を高くして実演してみせてくれた。「コンコンとドアをノックして、『どうぞー』『失礼しまーす。初めまして。お隣、いいですか?』から始まりますね。お客様が会話を重視し始めたら、膝とか腿とかちょいちょい触って、意識をエロに持っていくんですよ。一応、こっちがコントロールしたい気持ちが強いんで。イチャイチャしたりチューしたりして服を脱がしてあげて、移動する時は絶対に身体をくっ付けるって決めています。お風呂に誘導しなきゃいけないんで、『一緒にチャプチャプしよう』って後ろから抱き付いてシュッシュポッポってやると、この時点でM系のお客さんは大体わかります」。

プレイ以前に、客の心にどうアプローチするかが重要なようだ。1回目は清楚な雰囲気で、接客の態度を崩さず。2回目リピートしてくれた客には、丁寧な接客を崩すことがサービスになるようだ。「コンコンとドア叩いて出てきたら、『2回目呼んでくれたんですかぁ。嬉しい!!』って先ず抱きつくんですよ。ホテルに入ったら店に開始の電話を入れるんですけど、敢えて忘れた振りをする。『ちょっと、お店に電話しなくて大丈夫!?』ってお客さんに言わせてから、『あっ、忘れていた』って持っていく。まぁ、演技ですね」。中々手が込んでいる。3回目だと更にフレンドリーな接客になる。「ドアの叩き方を変えるんですね。トトトトトトトンってしたりとか、お客さんが来るまでずっと叩き続けたりして、『もう、しょうがねーなぁ』みたいな顔したら、こっちのもんです」。田舎のデリへルでは、アルバイト感覚で気軽に働いている女の子が多い為、接客のクオリティーは低い。その中に混ざれば、シズカの接客はさぞ光るだろう。「多分、お店も教育していないんですね。『マグロの子もいた』って言っていたし。お客さん自身、女の子に期待していないんですよ。ホテルに行くと、テレビ見てたりしてて素っ気無い人もいる。『君、本番できる?』『できないんです』『何だよ』みたいなところから始まる。取り敢えずシャワー入ろうかってなって、徐々に私のペースに持っていくんですけど、服を脱がせてあげると『こんなことまでしてくれるの? 悪いよ、いいの?』みたいになって、段々と態度が変わってくる。表情が変わると、私も『やったぜ』ってなりますね」。何と那須塩原では、最初は本番強要していた70代のお爺ちゃんが、別れ際は「生きてて良かった」とまで言ったという。客を喜ばせる為、シズカは徹底して演技をしているのだ。「自分を作っているほうが傷付かないから楽なんです。仕事中に嫌なこと言われたり、されたりしても、そこまで精神的ダメージは無い。逆に、プライべートで、本来の自分で過ごしている時に嫌なことがあったりすると、凄くダメージを受けて、『自分は何で生まれたんだろう』とか『早く死にたい』とか、直ぐ思考がそっちへ行っちゃう。若し普通のアルバイトで働いたら、本名だから繕えないし、そこで問題が起きたり、ヘマして怒られたりすると、『もうダメ』ってなっちゃうんですよね」。シズカは、旅先でちょっと知り合っただけの人にも偽名を使っている。本名かどうか、素の自分を見せるかどうかは、シズカにとって重大なことなのだ。 (取材・文/写真家 インベカヲリ★)


キャプチャ  2017年8月号掲載

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