【ヘンな食べ物】(51) 赤アリ卵はタイワインによく似合う

タイ東北部の研究所で開発された“虫の缶詰”の続き。農家から集められた虫は研究所で調理する。だが、その方法は一般家庭とは異なる。何故なら、ここで作っているのはあくまで“ワインのつまみ”用だからだ。先ず、よく水洗いして鉄鍋で空焼きにする。この時にレモングラス、ショウガ、コブミカンの葉等の薬味も一緒に入れて、材料の持つ臭みを全て消してしまう。軽く火が通ったら自然乾燥させ、更に塩やナンプラー等で味付けし、今度はオーブンで蒸し焼きにする。60℃の低温で30分加熱するという。こうすることによって、しっとりと柔らかい仕上がりになるのだそうだ。出来上がった物は50g毎に分けて缶詰にする。5~6名しかいない研究員の人たちが手作業でせっせとやっている。何故、そこまでして商売に励んでいるのかは謎だが、恐らく、売れた分だけ彼らの収入になるのだろう。1日の生産力は100個が限度だという。扨て、研究に研究を重ね、更に1つひとつが手間暇かけて作られた貴重な虫缶を味見させて頂く。研究員の人はガラスの皿に各種の昆虫を並べ、ワインと一緒に出してくれた。まさに“ディナー”である。先ずは昆虫類から。「おおっ」と思ったのは、これまで食べてきた昆虫食とは一線を画しているから。一言でいえばマイルドなのである。コオロギやバッタ等は一般の調理法で食べるとバリバリという歯ごたえがあり、口の中に足や羽根が引っかかる感じさえあるが、これは噛むとほろほろと崩れて、何とも優しい食感。味もそう。佃煮ほど濃くないし、タイ料理、特に東北料理には珍しく唐辛子を全然使っていない。薄甘塩辛い味付けで、とても上品。

飲み込むと、喉の奥から鼻にかけてパクチーの香りがふんわり抜けていく。ゲンゴロウは背中の羽根を取るのがちょっと面倒だが(※ここは固いので食べない)、同じように食べ易い。うーん、流石。ワインに合うように、薄味で柔らかく丁寧に仕上げている。扨て、最後は愈々赤アリの卵だ。実はお皿に盛り付けた時、アリの卵を真ん中に置き、その周りに各種の昆虫類を並べていた。つまり、見た目にも“メインはアリ卵”とわかる。そう、アリ卵は全てが別格なのだ。何しろ、捕獲からして他の虫より遥かに手間がかかる。夜のライトではアリの卵は取れない。ちゃんと巣を見つけ、掘り返さないといけない。しかも、暑季の3~5月の間しか見つからないという。なので、缶詰の値段も、他の虫が1つ30バーツ(当時、約70円)だが、アリ卵だけ50バーツ(約125円)。調理法も異なる。卵を布に包んだまま湯がいて、パクチーやナンプラー等で作ったスープに漬け込んでいるのだ。アリの卵と言うと数の子のような小さなツブツブを想像してしまうが、実際には長さが1㎝ほどもある巨大な細長い固まりだった。人に噛み付く大きな赤アリがそのまま中に入っていそうな雰囲気なのだ。でも、口に入れると臭みや癖は全く無い。柔らかいが適度な弾力があり、口の中でとろける。不思議なことに、これらの昆虫や、特にアリの卵と一緒に飲むと、この研究所で作ったマオワインとタクローワインの欠点が気にならなくなってきた。強過ぎる酸味は緩和され、足りなかったコクが出てきたような感じすらする。東北タイワインは、東北の虫料理とセットで飲むようになっていたのか。タイ料理の奥深さに再度驚かされたのだった。


高野秀行(たかの・ひでゆき) ノンフィクション作家。1966年、東京都生まれ。早稲田大学第1文学部仏文科卒。『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)・『アジア未知動物紀行』(講談社文庫)・『世界のシワに夢を見ろ!』(小学館文庫)等著書多数。


キャプチャ  2017年8月31日号掲載
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