【不養生のススメ】(05) ダイエットはお止めなさい

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卵やバターは体に良いとか悪いとか、肉をもっと食べるべきとか控えるべきとか、糖質制限をするべきとかすべきでないとか…。一体、何を食べればいいのだろうか? そんな疑問に一石を投じたのが、昨年秋の、カリフォルニア大学サンディエゴ校クリスティン・カーンズ博士らによるアメリカ医師会雑誌の報告だ。約60年前に、アメリカの製糖メーカー等が設立した『砂糖研究財団』(※現在の『砂糖協会』)が、ハーバード大学の研究者らを巻き込んで起こした陰謀事件の真実である。読者の中には、「そんな昔のアメリカの話は、自分の食事とは関係がない」と思う方もいるだろう。“風が吹けば桶屋が儲かる”とはよく言ったものだ。まさに、この事件は海を渡って、今日の日本人の食に対する価値観にも、ありがたくない影響を及ぼしている。「コレステロールが5日間で正常になる低脂肪ダイエット」「生命を保ち、日々直面する問題の活力となる砂糖」。今日も似たような宣伝をよく目にする。カーンズ博士らによると、このようなスローガンは1954年、砂糖研究財団のヘンリー・ハンス会長(※当時)が、『甜菜研究会』で砂糖業界の市場拡大の為に熱弁した戦略だ。中でも私が驚いたスローガンは、「アメリカ人が脂肪から摂取するカロリーは約40%(※当時)。この20%を取り戻すべく、炭水化物に関わる業界は努力すべき。これが実現でき、尚且つ砂糖や炭水化物市場での現在のシェアが維持できれば、1人当たりの砂糖消費量が3割増える計算になる。そうすれば、健康が著しく改善するのだ」と宣伝する。こうして誕生したのが、“砂糖塗れの低脂肪ダイエット”である。

砂糖研究財団の次なる策謀は、低脂肪ダイエット普及の為に、超一流の研究者らのお墨付きを貰うことだ。当時、心臓病の原因として、イギリスのクイーンエリザベス大学栄養学教授であるジョン・ユドキン博士の“砂糖の過剰摂取説”と、ミネソタ大学のアンセル・キーズ博士の“総脂肪量、飽和脂肪酸やコレステロールの摂取量説”が有力だった。そこで、砂糖研究財団は1960年代、ハーバード大学の3人の研究者らに大金を支払い、砂糖と脂肪の心臓病への影響について、砂糖業界に都合の良い結果を導き出すように調査を依頼した。結果は、「砂糖に“甘い”評価、脂肪が心臓病の悪者」となり、1967年、医学会のトップ誌『ニューイングランドジャーナルオブメディシン(NEJM)』に発表された。因みに、この論文には砂糖研究財団からの金銭的支援は開示されていない。何故なら、NEJM誌は1984年まで、“金銭的な利益相反”を開示することを要求していなかったからだ。同論文の共著者であったマーク・ヘグステッド氏は、後にアメリカ農務省栄養部門長を務めた。そして同氏は、1980年に初めて発表された連邦政府の『アメリカ人の為の食生活ガイドライン』で重要な責任を負うことになる。ここには、心臓の健康の為に、「総脂肪、飽和脂肪酸とコレステロールの摂取を避ける」ことが推奨されている。そして食品業界は、あらゆる食品から脂肪やコレステロールを除去し、甘くて美味しい砂糖や精製された炭水化物に置き換えた“低脂肪食品”を開発し、どんどん売り上げを伸ばした。日本でも、“低脂肪”という表示は、今でも多くの消費者にとって魅力的だ。当たり前だが、砂糖や炭水化物を食べ過ぎれば太るに決まっている。低脂肪ダイエットのおかげで、アメリカは肥満大国となった。更に、砂糖や精製された炭水化物は心臓病の原因にもなる。結局、低脂肪ダイエットは心臓病の予防にはならず、今でも心臓病はアメリカ人の死因のトップだ。その後も砂糖業界のロビー活動は続き(※左上表参照)、5年毎の『アメリカ人の為の食生活ガイドライン』改訂でも、1990年までは砂糖は全く無視され続けた。漸く、最新の2015~2020年版で初めて、「1日の摂取カロリーの内、食品に添加する糖分のカロリーは10%未満に抑えること」という、砂糖の摂取制限が設定された。同時に、飽和脂肪酸の摂取はカロリー摂取の10%未満と設定された一方で、遂に総脂肪量の上限が削除され、コレステロールの摂取制限が撤廃されたのだ。同じ年、何と『日本人の食事摂取基準』(※2015年)でも、コレステロールの摂取基準が撤廃されている。長年、コレステロールを多く含むとして悪者扱いされた卵やバターが、遂に汚名を返上したのだ。「卵の黄身を食べるとコレステロール値が高まる」「マーガリンはバターより健康的」等と、多くの日本人が長年常識と思い込んできたことが、大きな間違いだったのだ。

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そんなアメリカで脚光を浴びたのが、循環器医師のロバート・アトキンス氏が提唱した“低炭水化物ダイエット”だ。2000年前半にアメリカで大流行した。今度は砂糖や炭水化物を敵とし、それらを避ければいくらでも脂肪や蛋白質は食べても良いという。但し、多くの研究が、摂取する炭水化物の種類が不明で、長期的な効果も不明である点、更に高蛋白質の摂取による心臓や腎臓への悪影響を懸念している。アメリカでは低炭水化物ダイエットの異様なブームは去ったが、日本では今なおブームが続いている。今、アメリカで最も憎まれている食べ物のひとつは、穀物に含まれる“グルテン”というタンパク質だ。“グルテンフリーダイエット”が大流行となり、商品にその表示が記されている。多くのアメリカ人が「減量効果がある」と勘違いしているが、グルテンフリー食品は一般的な食品より脂肪や砂糖が多く含まれる可能性が高い。抑々、このダイエットは、セリアック病という自己免疫疾患・グルテン過敏症・小麦アレルギーの人の為のもの。それ以外の人は、却って肥満や栄養不足等のリスクが高まるだけだ。因みに、日本にもグルテンフリーダイエットは上陸している。今日も流行りのダイエットが、泡のように生まれては消えていく。どのダイエットも、特定の食品グループを排除すれば健康になるというもの。いずれも、背後に食品メーカーの陰謀が潜んでいるのだ。読者諸氏には、この種のダイエットとは縁を切ることをお勧めしたい。


大西睦子(おおにし・むつこ) 内科医師・医学博士。1970年、愛知県生まれ。東京女子医科大学卒業後、同大学血液内科入局。『国立がんセンター』・東京大学医学部附属病院を経て、2007年に『ダナ・ファーバー癌研究所』留学。2008~2013年にハーバード大学で肥満や老化に関する研究に従事。現在はマサチューセッツ州ケンブリッジ在住。著書に『カロリーゼロにだまされるな 本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)・『健康でいたければ“それ”は食べるな ハーバード大学で研究した医師の警告』(朝日新聞出版)等。


キャプチャ  2017年8月号掲載

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