【誰の味方でもありません】(16) 噂好きな人類ですから

この連載を始めてから、本誌『週刊新潮』や『週刊文春』を読む習慣がついた。最近面白かったのは、週刊文春の自民党・岸田文雄政調会長に対する評。「話のつまらなさには定評があり、取材した記者の誰もが音を上げる」。関係者談ということになっているが、「話のつまらなさには定評がある」とは秀逸な表現だ。岸田さんと面識が無くても、一瞬で彼の人となりがわかった気になってしまう。いきなりライバル誌の話をしてしまったが、最近は週刊新潮も好調ですよね。ただ、個人的に面白かったのは、スクープよりも、出会い系バーの“貧困調査”で話題になった前川喜平前文科次官の“へい散歩”というグラビア記事。彼が昼下がりの新宿で目撃されたというのだ。「目指す先は、まさか、この街で通い詰めていた出会い系バーなのか?」と煽りながら、人の良さそうな、すっとぼけた顔の前川さんの写真を載せる(※実際は新宿でトークイベントがあっただけ)。はっきり言って、「岸田さんの話がつまらない」とか、「前川さんが新宿で目撃された」とか、本当にどうでもいい情報だ。だけど、つい夢中で読んでしまう。どうしてなのか? それは一言で言えば、人類が噂好きだから。何で前川さんの散歩が人類の話になってしまうのか、順を追って説明していこう。

上巻で挫折した人が多いことで知られるベストセラー『サピエンス全史』でも採用されていた説だが、人類の言語は噂話により発達したという説がある。実は、言語は人間だけのものではない。ミツバチは羽音で食物のありかを伝えるし、サバンナモンキーに至っては「気をつけろ! ワシだ!」と「気をつけろ! ライオンだ!」をきちんと区別して発音することができるという。では、人類の言語の特徴は何かというと、目の前にいない人や物について考えることができるという点だ。つまり、噂話である。社会を営んでいく為には噂話が必須だ。誰と誰が仲良しで、誰と誰が不仲なのか。集団を維持する為には、噂話を通して入手する情報が非常に重要である。嘗て、噂の対象は家族や村等、自分の属する集団に限られていた。しかし、近代化・グローバル化によって、僕たちは世界中と繋がることになった。しかも、元々噂好きの人類。自分の住む地域、更には国境を越えてまで噂が飛び交うようになった。「ドナルド・トランプって地毛らしいよ」とか、「エマニュエル・マクロンが熟女好きでバイセクシャルって本当?」とか。本当にどうでもいい話だ。彼らの頭事情や性志向は、政治家の資質と全く関係がない。昨今ではポリティカルコレクトネス(政治的正しさ)の観点から、こうした話自体をすべきではないという議論もある。しかし、その主張が広く受け入れられるには、未だ長い時間がかかるだろう。何せ、人類は何万年もの間、ずっと噂好きだったのだ。こうして、今日も週刊誌は日本中・世界中の噂話を人々に届け続ける。


古市憲寿(ふるいち・のりとし) 社会学者。1985年、東京都生まれ。東京大学大学院博士課程在籍。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。著書に『希望難民ご一行様 ピースボートと“承認の共同体”幻想』(光文社新書)・『絶望の国の幸福な若者たち』『誰も戦争を教えてくれなかった』(共に講談社)等。近著に『大田舎・東京 都バスから見つけた日本』(文藝春秋)。


キャプチャ  2017年8月31日号掲載
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