【管見妄語】 戦いはルール作りから

スキージャンプでは、スキー板が長いほど浮力を受け、飛行距離が伸びる。あまりに長いと危険なので、身長プラス80㎝までと決まっていた。だから、身長180㎝の欧米人選手は、身長170㎝の日本人選手より10㎝長いスキー板を使っていた。長野オリンピックで、日本勢は男子団体優勝に加え、船木が金と銀、原田が銅と大活躍した。直後にルールは改正され、スキー板は身長の146%までとなった。彼らのスキー板は我々のものより14㎝ほど長くなったから、日本勢はその後暫く勝てなくなった。東京オリンピックで女子バレーボールが優勝した翌年、ルールは改正され、ブロック時のオーバーネットが認可された。日本人がブロック時にネットの向こうまで腕を伸ばすのは難しく、勝てなくなった。1956年のメルボルンオリンピックで、古川勝が200m平泳ぎで45mの潜水により金メダルを取ったら、直後に潜水はスタート直後とゴール前の一掻きのみと改正された。『ホンダ』のF1がターボエンジンで1988年に16戦中15勝と圧倒的勝利を収めるや、直ぐにターボエンジンは禁止となった。日本の躍進をきっかけとする欧米勢によるルール改正は、挙げ出したら限が無い。どの改正にも尤もらしい理由がついている。つい先頃、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が、「2040年以降のガソリン車とディーゼル車の新車販売を認めない」と宣言した。イギリスのマイケル・ゴーヴ環境大臣やドイツのアンゲラ・メルケル首相がそれに続いた。「排ガスによる健康被害とCO2による地球温暖化を防ぐ」という目的らしい。美しい。「電気自動車のみにしよう」というのだが、現在のものは家庭用電源なら10時間の充電で200~300㎞しか走れない。距離を伸ばすのは電池の改良でいずれ可能になろうが、充電時間を短くするのは高圧電流を用いない限り至難だろう。電池の比較的早い劣化も問題だ。残された23年間で解決する目途が立っているのだろうか?

それに、英独仏には其々数千万台の車がある。これら全てが電気自動車に代った時、十数%も増える電力需要をどう賄うのか? 今の所は、ドイツが全廃宣言をした原発に頼らない限り、化石燃料に頼るしかない。大気汚染源が路上から発電所に移動するだけとなりかねない。それに何より、現在のハイブリッド車を改良して燃費を半分にできれば、エネルギー効率において電気自動車とほぼ肩を並べてしまうのだ。それでも、英独仏では売れなくなる。こう考えると、今回の英独仏による唐突な宣言の真意が見えてくる。ガソリン車やハイブリッド車では日本に敵わず、対抗馬として売りまくってきたディーゼル車は、ドイツを中心とした業界ぐるみの破廉恥な不正が露顕し、技術的政退が明確となった。「日本の有利を長消しにし、欧米の先行する電気自動車で勝負しよう」というルール改正ではないか。ギブアップ宣言代わりの奇襲なのだ。2040年を目標に日本メーカーは頑張るだろうが、欧米が遅れを取れば延期されるだけだ。1970年代の厳しい排ガス規制(マスキー法)に遅れを取ったビッグ3の為、アメリカ政府は再三に亘り延期した過去がある。長い封建時代を生きてきた上、革命を知らない日本人にとって、ルールとは常にお上から与えられるものである。その下で公平に競争すればよいとしか思わない。一方、王制打倒の革命や独立戦争を経験してきた欧米人にとって、ルールとは自ら作るものである。即ち、競争はルール作りの段階で始まっているのである。経済競争を制する上で決定的なルール作りは、常に欧米が主導権を握っている。ここ20年に、日本を始め、各国が呑まされたグローバルスタンダードなるものだって、全て欧米発だ。ヨーロッパのどの国より強力な経済力を持つ我が国は、今こそルール作りに積極的に参加し、国益をかけて強く主張することだ。不公平なルール下での公平な競争は不公平なのだ。


藤原正彦(ふじわら・まさひこ) 数学者・お茶の水女子大学名誉教授。1943年、満州国生まれ。東京大学理学部数学科卒。同大学院理学系研究科修士課程数学専攻修了。ミシガン大学研究員・コロラド大学ボルダー校助教授等を経て現職。著書に『藤原正彦の人生案内』(中央公論新社)・『この国のけじめ』(文藝春秋)等。


キャプチャ  2017年9月7日号掲載
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