中国のリアル治安事情、横行する賄賂とマフィア――日本人のボクシング興行が中止に、民営企業台頭でも変わらない一党独裁

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近年、中国の経済成長は世界を席巻し、調査機関が伝えた世界の有力企業500社のリストでも、100社以上が中国企業となった。これまで大きなポジションを占めていた国有企業に対し、民営企業の存在感が増してきていることで、保険・スマートフォン・電子商取引・不動産等の企業が躍進中だ。そうした企業が続々と海外企業の買取や投資を行う一方、国有企業はリストラで100万人単位の失業者を生む等、改革が必要となっている。しかし、何しろ中国は一党独裁体制であり、共産党の存続が第一優先という国だけに、そう易々と民営企業の台頭だけで話が進みそうにない。筆者は嘗て、アメリカの日系企業で商社マンをやっていた時、台湾に近い福清市の工場で仕事をしたことがあるが、商品を乗せたトラックが踏切を渡る毎に係員に煙草を渡さなければならなかった。“郷に入っては郷に従え”というのは、元々中国の諺であるが、その“郷”のハードルが高いのが中国だ。国策で自動車メーカーが進出するような大規模ビジネスでもない限り、ビジネス上のトラブルに巻き込まれることは多い。中国が他の先進国と数字で肩を並べても、我々が関わる場合に注意しなければならない問題がある。現地には、ひとつ間違えれば命の危険すら生じるほどの危うさがあるのだ。筆者は今年6月中旬に4日間、上海を訪れたのだが、マフィアに一晩拉致・監禁され、翌日はほぼ終日、今度は警察に半ば拘束される状況に陥ったのである。訪中の目的は、興行ビジネスの取材だった。

中国ではプロスポーツビジネスが勃興し始めており、今年4月には中国の投資グループが、本田圭祐も所属するイタリアのプロサッカークラブ『ACミラン』の株式99.9%を約900億円で取得。まさに、“爆買いもここに極まれり”である。米ソ冷戦時代、共産圏にはプロスポーツが存在していなかったことから、中国でスポーツ興行のビジネスが開拓され始めたのは最近のこと。野球は2002年にプロ化し、サッカーは習近平国家主席が大ファンであることから大きく進歩したが、10年ほど前までは裏社会によってギャンブルのネタとして支配され、ゴールのタイミングさえもコントロールされる八百長に塗れていた。プロポクシングの興行は、数年前までは年8回しか行われていなかったが、人気の高まりから、昨年は62興行も開催されている。オリンピックで2大会連続金メダリストのゾウ・シミン(鄒市明)は昨年11月、ラスベガスで行なわれたWBO世界フライ級王座決定戦に勝利。その試合は、テレビやインターネットを合わせた中継の視聴者数が9000万人を軽く超えた。これは、アメリカ最大のスポーツイベント『スーパーボウル』よりも多い数。世界中のビジネスマンが進出を目指すきっかけとなった。しかし、そう簡単な話ではない。例えば、中国にはコミッションが存在しないのだ。コミッションは選手やプロモーターのライセンスを管理し、レフェリーやジャッジを派遣、試合の公平性や安全性を監督する第三者機関。それが、政府以外に独立した権力を許さない中国では“不要”とされたまま。それが、ある事態を生んだ。2009年、ボクシングWBC世界フライ級王者・内藤大助の5度目の防衛戦が上海で行われる予定だったが、開催3日前に中止となった。日本では先ず考えられない5万人もの大会場で開催するプランに欲を出した内藤陣営は、「現地プロモーターが必要な書類の手続きをしておらず、会場の使用許可が下りなかった。北京の国家体育総局に掛け合ったがダメだった」と中止の理由を説明。これは、中国でのビジネスを理解していなかった為に起きた失敗例だった。日本では、役所からの許可は申請だけでよいが、中国では役人を儲けさせないと何も動かない。同様の経緯で、2010年に『SMAP』のコンサートがドタキャンされたこともある。アントニオ猪木率いるプロレス団体『IGF』は、昨年12月にマカオで開催予定だった『猪木vsアリ40周年記念大会』を中止。同年4月に行われた記者会見では、担当者が「現地のマカオテレビから熱烈なオファーがあった」と自慢げに話し、記者たちもそれを真に受けていた。筆者は中国興行の不安について質問したが、他に疑問を持つ記者はいなかったようだ。案の定、同年11月にIGFの担当者は、「テレビ関係者と連絡が取れない」と言って中止を発表。これも、根回し不足で許可が下りなかったからだった。IGFは『上海愛武』なる上海拠点のプロレス団体を作って、道場も持っているが、それでも未だ現地の定期興行を行うに至っていない。

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嘗て人気だった格闘技団体の『K-1』も、2012年に破産する直前、南京でワールドグランプリ開幕戦を予定していたが、現地で役人への賄賂が必要になるも、追加費用を支払えるような経済状況になく、開催許可が下りず、大会2日前に中止。それでも懲りずに中国系投資銀行との業務提携を発表して大会を計画したが、実現しなかった。破産後のK-1は、創始者の石井和義氏が新組織の『国際K-1連盟』として再起させようとしたが、これまた北京のホテルで記者会見して、「中国企業の出資で本部を香港に設立。32ヵ国で3階級の予選を開催する」とぶち上げたものの、皮切りとなるは筈の中国大会が又も直前でドタキャン。中国では桁違いな利益が生まれると見込んで涎を垂らす日本の興行師が多いようだが、中国大陸の人々はそんな美味しい話をホイホイと持ってくるようなマヌケではない。インターネット上では一方的な中国・韓国嫌いの思想に煽られ、日中の政治的対立ばかりが強調されているが、煽りを鵜呑みにしない限り、国民同士がいがみ合うような材料はそれほど無い。民間の取引は問題なくできる状況だ。問題は、日中関係ではなく、中国が他の先進国と比べて行政の腐敗が酷く、未だに役人への賄賂が横行している現状にある。中国では2003年、当時の胡錦濤国家主席が、国有企業に関する行政を『国務院国有資産監督管理委員会』に一元化したが、長年の腐敗を全く解消できず、習近平政権になって激しい汚職摘発を発令。しかし、企業を取り締まれば取り締まるほど共産党の権限が強化されることになり、今度は監督側の汚職が増大してしまった。

“権限を独占する者が必ず腐敗する”というのが中国4000年の歴史でもある。その構造を改革しない限り何も変わらないのだが、政府は経済の屋台骨である国有企業の利権を壊すことができないでいる。そして、賄賂を要求する役人は、“黒社会”と呼ばれるマフィア等を使い、汚れ仕事をさせるのが常態化。筆者が上海に赴いたのは、その辺りの実情を取材するのが目的だった。中国最大の都市である上海は、パッと見では東京と大差ないようにも映り、海外慣れしていれば、ニューヨークやパリやローマを歩いているのと似た感覚になるだろう。しかし、それは主要道路全てに監視カメラが付いている表の街の話である。海外の土地の治安は、観光客が行き交う広場等で人々をじっくり観察すれば見えてくる。ロンドンやローマであればひったくりやスリを見かけるのが珍しくないが、上海では観光客の独り歩きを狙って声をかけている連中があちこちで見られた。デパートや土産店等が並ぶ街の目抜き通りの歩行者天国『南京東路・西路』を東に進むと、イギリス時代の治外法権で成り立った外灘(ワイタン)に出る。川沿いに20世紀初頭の近代建築が並ぶ観光スポットで、川の向こうにはランドマークが立ち並ぶ。プロムナードはデートコースのようでもあるが、そこで声をかけられている30歳ぐらいの日本人男性がいた。中国人女性に「写真を撮って下さい」と言われ、その場で何やら誘われて一緒に歩いて行った。「これは怪しい」と思い、後ろからついていくと、2人は1軒の茶屋に入店。10分後、日本人男性が如何にも悔しそうな顔をして出てきた。そこで話を聞くと、「『無料で試飲できるお茶屋さんがある』と言われました。6種類を飲んでお茶を買おうとしたら、『最初の1種類だけが無料で、残り5種類は1杯100元(約1600円)だ』と言うんです。合計500元を払わされました。連れて行ってくれた女性も支払っていましたが、多分サクラですね」。店員たちは英語を話せていたと男性が言うので、筆者も店に入って金を返すよう言ったが、店内の2人の女性は言葉がわからないふりを続ける。「警察に行く」と伝えて2人の写真を撮ると、チャイナドレスを着た店の女は叫び声を上げ、中から男が出て来て威圧してきた。画像データを被害者に渡し、警察に行くよう促した。監視カメラに映らない場所に無法地帯があるのだ。この夜に会ったプロスポーツやコンサート等の興行に関わる有力者は、「中国では政府の監督官のゴーサインが無いと何もやれない。許可してもらうには、監督官の得になることをしないとダメだ」と語った。

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「コンサート1つでも、会場を借りるよりも高い費用の賄賂を役人たちに握らせておかないといけない。これでも都市部は地方より未だマシなほう。少しでも役人の機嫌を損ねると、聞いたことのないルールを持ち出して、『規約に反しているから罰金を払え』と事業を停止させられる。ルールが都合よく突然出てくるのが中国社会で、それは我々の価値観でもある。海外なら3つ以上の会社が手を組んだプロジェクトも珍しくないが、中国人の場合、有力者が儲けを独り占めしようとする。これは、我々中国人にとっても厄介なことだから、外(海外)に出て行く人も多い」(同)。そこで役人に賄賂を渡す。“仲介人”に会わせてもらうことにした。“通訳”と呼ばれていて、表向きは貿易商をしているが、実質的にはマフィアの幹部という話だった。15年ぐらい前、日本にいるチャイニーズマフィアを取材した時に知り合った女性実業家の後ろ盾もあって実現した取材だったが、当初、上海の一角で話を聞く約束だったのが、電話で2度も場所の移動を命じられた。そして、やっと辿り着いた場所では、お笑い芸人の木村祐一に似た男が「ここで話を聞くにはカネがいる」と筆者に告げた。男が何者かもわからないまま、その場で持っていた現金600元(約1万円)を出して交渉すると、「それはドアマンのチップにしかならない。担保としてクレジットカードと暗証番号を出せ」と言われ、断ると体格の良い男性3人に囲まれ、「ゲームをしよう」等と路地裏に連れ出されて、強引にカードを奪われてしまった。この取材は完全に失敗だった。「暗証番号を言え、嘘を言えば機械に通して直ぐわかる」。そう言われ、直後にカードを停止させるつもりで仕方なく番号を伝えると、漸く黒服にサングラスの男が出て来て、「質問を受けよう」とインタビューに応じる素振りを見せた。

しかし、これはカードの不正利用の時間稼ぎだった。何しろ、「貴男はマフィアですか?」と聞いただけで怒り出し、傍にいた男がナイフを取り出したのだ。筆者は、その場を直ぐに離れるしかなく、去り際に現場の写真をこっそり撮っておいたが、仲介者がいたことでの油断が招いたミスだった。解放された深夜12時過ぎ、カード会社に連絡して盗難届を出したが、翌朝には18万円ほどの額が引き出されていたことがわかり、被害証明を貰う為に、全ての予定を中止して公安(警察)に向かった。中心部にある外灘派出所へ行くと、丁度前日、お茶の被害に遭った男性もいたが、「何もしてくれない」と半泣き顔だった。他にもドイツ人とアメリカ人が同様に、「女性に騙されて詐欺被害に遭ったのに、捜査してくれない」と話していた。署には英語が通じる人が殆どいず、やっと出てきた英語の話せる女性警察官も、「中国人以外の被害は捜査しない」と言う。食い下がると、「被害に遭った場所を言え」と言われたが、手元には暗闇で撮った写真しかなく、相手にしてもらえなかった。仕方なく日本領事館に連絡し、写真を送り、凡その住所を確定させてから、日本語の話せる人がいるという別の警察署へ。こちらは護送車に乗せて現場検証もしてくれたが、最終的に行った場所は元の外灘派出所で、出てきた眼鏡の若い警察官はニヤニヤしながら筆者にこう言った。「上海でそんな事件は起こらない。日本人は信用できない。自分の国の警察に行け。お前は嘘吐きに見える。中国を悪者にしたいのだろう?」。完全にこちらをバカにした態度だった。再び領事館に連絡して、捜査の後押しをしてもらったが、何と警察官は「そんな被害者は来ていない」と嘘を吐いた。目の前で領事に電話をかけ、刑事に携帯電話を渡して直接会話させたが、結局、「捜査をするには通訳も必要で2週間かかる」という返答。中国のビザ無し滞在は14日以内。それをわかって言っているのである。こうしたやり取りの間には一々待たされる時間があり、警察署からも出してもらえず、気付けば19時を過ぎていた。警察官は「公安に逆らうなら帰国もできなくなるぞ」と脅してきて、前出の興行関係者からの「税関で止められたら怖い」という助言もあって、帰国便に乗る為、空港へ向かうしかなかった。「警察もビジネスと同じ。『通訳がいない』と言われたら、賄賂を渡す手順を取らないとダメ。日本人はお金を出すか帰るか、どっちかしかない。特に警察は、身内の汚職が見つかる可能性のある話には手を出したがらない」(同)。筆者は十数万円の被害で済んだが、中国進出に失敗した挙げ句、表にできない巨額の負債を抱えた人もいる。マスコミでは中国の近代化がビジネスチャンスとばかりに盛んに宣伝されるが、甘言を鵜呑みにすると危ないようだ。少なくとも、警察が碌に機能しない場所であることは、認識しておく必要があるだろう。盗難被害者なのに、税関を抜けるのが不安になる…なんて経験をしてしまったが、中国を訪れる機会があれば、くれぐれも気を付けて頂きたい。 (取材・文・写真/編集プロダクション『NEWSIDER Tokyo』 片岡亮)


キャプチャ  2017年8月号掲載

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